背徳の紅"第十二話、表明"

コメットがいる研究室。

その扉を、誰かが蹴りあけた。


「ああクソっ、やっぱりか!」

「・・・ゃべ。」


入ってきたのはアルだった。

コメットはそれを聞いて、デスクの裏で静かにする。


「何処いった・・・!ムラクモでチクチクしたら見つかるか!?」


アルの周りに浮かぶ、12本の刃。

ムラクモと呼ばれる兵装がソレらしい。

流石にそれは困るコメットは、デスクから顔を出す。


「・・・おい、あんま荒らさないでくれよ。物品が壊れる。」

「見つけた!」

「触れるな。」


アル直ぐに近寄って捕獲しにかかる。

対し、コメットは拳銃を抜いてアルに向ける。

しかし、アルの目の前には浮遊する刃が防御している。


「・・・ちっ、お前はそういうのが出来るんだったな。」

「ああ出来たとも全く・・・。」


コメットは拳銃を降ろし、アルは小瓶を取り出す。

それを見たコメットは眉を潜める。


「飲まんぞ。」

「いいや、飲んでもらうさ。」


嫌だね、とコメットは言うが、アルは引っ込める様子はない。


「なあ、お前にとって"救い"とはなんだ。」

「そんなの聞いてどうする。」

「いや、どっかズレてんだよなぁ・・・ってさ。」


アルには聞きたいことがあった。

だがそれは、コメットにとっては答えるに値しなかったらしい。


「・・・ま、いいや。とりあえず意地でも寝てもらう。」

「嫌だ。なんでほっとかない。」


今度はコメットからの問いだった。

アルは2つ、指を出して答える。


「理由は二つ。

ひとつ、生命の尊厳をお前がお前に持ち合わせていないから。

ふたつ、自分のやり方で救われると思っている感性が気に食わないから。」


そう言って再び、アルはコメットに近寄ろうとする。

コメットは拳銃をアルにもう一度向ける。

来いよ、と呟くアルはムラクモで防御体勢を取るが─────。


「─────。」

「ッ、おまえ・・・!」


コメットが銃を向けたのは、自分自身のコメカミ。

もう引き金には指が添えられている。

アルは形相を変えて止めにかかる。

が、もう遅い。


なぜなら






「─────3分は短かったな、マヌケ。」






轟音が廊下から響き、紅い影があると思えばもう、コメットの銃は手元になかった。

目を覚ましたイグニスが、身体強化で研究室に入り、銃を取り上げていた。


「・・・ッ・・・くそ、こんなだと反応出来ないか・・・。」

「言ったか言ってないか忘れたがな、もう俺は逃がさねぇよ。

ガキが一丁前に孤高気取りやがって、流行らねぇぞ。」


苦い顔をするコメットに、銃を差し出す。

コメットは奪うようにそれを取った。


「はぁ、めんどくさい奴を助けたもんだ。」

「高くつくぞ、コメット・ホウプス。

俺の復讐に、ズケズケと乗り込んできたお前はもう、見逃さない。

納得のいく最期など在ると思うなよ。」


イグニスはアルの持っていた小瓶を奪う。

アルは多少困惑したが抗議はしない。

イグニスはしゃがみ、コメットと目線を合わせる。


「ふん、お前がそう言おうと、俺はやりたいことをやる。それだけだ。」

「ならば俺もやりたいようにやる、覚悟しておけ。」


目線はあう。

まるで似た者かのように、視線は揺るがない。

もう目を逸らしていたイグニスは何処にもいないのだから。









と、まぁ。

ここまでは格好がついたのだが。

イグニスが不意打ち気味に蓋をあけた小瓶をコメットの口に突っ込もうとしたのが、しまらない空気の始まりだった。


「「・・・・・」」


コメットが口を閉じたせいで、瓶の入口を突っ込めず、液体がコメットの口周りにべったりついてしまった。


((ガキかよ・・・))


イグニスとアルの心はひとつだった。

確かに自由に身体が動かないから仕方ないのかもしれんが、抵抗手段が子供のソレだ。

・・・なんだか、微妙な空気になった。


「・・・私、帰るわ。」


白けたアルはでて言ってしまった。

こんな状況でおいていくな、と一度イグニスは抗議の目を向けたが無視されてしまう。


舌打ちしたイグニスは仕方なく瓶を手に椅子に座った。


「何なのか分からんもんを突っ込むバカがいるかバカ!!」


コメットの主張はご最もで、反論できなかった。

しかし今はそんな正論に向き合うつもりもない。


「甘いぞ」


イグニスの言葉には"多分"がつく。

コメットが甘いものが好きというのは聞き入れた情報、らしい。

だからアルなら甘い味で用意するだろう、たぶん。

きっと、睡眠薬で。


イグニスは我ながらココ最近で1番考え無しだな、と流石に反省する。

それはそれとして、何としても寝てもらうが。


「・・・・・・」

「感触が蜂蜜寄りだろ、シロップみたいなもんだ」


甘いと聞いて揺らぐコメットに、追い打ちをかけるように枕詞には"恐らく"がつく説明する。

だってベッタリついてるし、シロップだろう、メイビー。


「・・・・・・・・・・・・。」


コメットはちょっと、口周りの液体を舐めた。


「・・・!」


本当に甘かったらしく、無言でぺろぺろ舐めた。

イグニスは内心小さく「よし」と思った。

よく見れば、じんわり眠そうにし始めている。


「どこの、さとう、めーかー・・・。」

「・・・アルに聞け。」

「どこ、で、うってる、かきい、て・・・ぅ」


本当に甘いものには目がないんだな、と思うと苦笑する。

なんだ、案外可愛らしいところもあるんだな、と。

そうこうしているうちに、コメットは座り込んだまま眠ってしまった。


イグニスはソファーにコメットを運ぶ。

その際、かなり軽かった。

顔色は悪く、痩せて、呼吸は少なかった。


"こんなになってるやつに、救われたのか"


そう思うと、腹が立つ。

何にせよほっとけない。


どうせ暫くはロクに戦えない。

どう後悔させてやろうか、と。

そう思いながらイグニスは、適当な椅子に座り、眠った。

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