背徳の紅"第九.五話、自白"

「─────で、結局治療されたワケだ。」

「笑い事かよ。またアイツの手を煩わせたんだぞ。」


からからと笑うアルに、イグニスはため息をつく。


「・・・イグニス、おまえ。」

「あ?」

「変わったな。」


アルの指摘に、イグニスはつい黙る。

一度目を逸らし、目を瞑る。


「・・・何がだ。」

「そりゃ、嫌がる理由で他人への気遣いを自然に口に出すところだよ。」


どういうことだか意味が分からん、と。

イグニスはアルを見て眉を潜める。


「おまえならそもそも面倒臭がって、理由の欠片もなかったじゃないか。」

「・・・別に、巻き込みたくないことは前から言ってただろうが。」

「でも、特別気遣ってるように見えるぞ、私は。」


イグニスは知るか、と目をそらす。

アルはアルで、それを見てからから笑う。


「・・・見てられないんだろ。

鏡を見せられてるようで。」

「・・・。」


アルは真面目な顔になり、机にあるコーヒーをひと口飲む。


「平気で無茶をする。

そんなの見せつけられちゃ他人じゃ居られない。

それが怖いんだろ。」


イグニスは図星だったのか、或いはようやく気づいたのか、観念したようにため息をついた。


「・・・まぁな。

アレは俺でもある、志したモノが違うだけだ。

・・・そんな奴が、俺の復讐に巻き込まれればどうなるか。」


イグニスは掌を見ながら、呟くように言う。

自分の道は、血が溢れる道だと分かるから。

コメットが関わる度に、怖くなる。


自分の道に巻き込めば、血に濡れた道に足を踏み入れさせてしまう。

なにより、あの力で弱る彼女を・・・見捨てられなくて、気持ちが入れ込んでしまいそうで。


俯くイグニスに、アルは少し納得したような顔をする。


「────ま、しっかり考えな。

その答えは、おまえ自身で見つけるもんさ。」


それを締めに、今日の2人の会話は終えた。

イグニスが恐れていたことに、すぐに出くわす運命があることを知らずに─────。

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