背徳の紅"第七話、推理"

調査したその街の、明るい夜。


─────歩く最中、異変を感じた。

不自然に、一瞬だけ"燃え盛る"音が聞こえた。


直ぐにイグニスは走り出す、その音がした方向に。



────────



ある宗教を信仰する家にて


「ひぃ、ひぃいい!?!?」


そこに住む男は恐怖していた。

男の視線の先には、人の形をした溶岩の塊。


所謂、溶岩人形。

数は4体。

ゆっくりと、的確に男を追い詰める。


もう終わりだと嘆く刹那─────その終わりを否定する者が現れた。


「────"大当たりジャックポット"だ。

まさか、いきなり現場にたどり着けるとはな。」


取り囲む溶岩人形、その一体を一閃した。

所詮、それなりに戦える者からすれば、その一つ一つは、簡単に散らせる雑魚でしかない。

ただ一点、厄介な点を除けば。


「ち、キリがねぇな・・・!」


斬っても、溶岩人形が増えていく。

分裂して増えているようには見えない。

ただ確実に、このままでは、ジリ貧になる。

剣ではなく、肉体が触れれば怪我するのは自分だ。


「火・・・明るい夜、あれか!」


目を向けた先は暖炉。

溶岩人形が増えていた原因はまさに、そこにあった。

暖炉から、溶岩人形が這い出でるように時間差で出てきている。

触媒は恐らく、火に関係している───のであれば。


「水だな。おい、水は何処だ。 」


イグニスは怯える男に問いかける。


「かか、花瓶と、トイレで使う桶水だ!」

「悪いが今宵はトイレは我慢することだな!」


イグニスは駆け出し、増える溶岩人形を斬り伏せつつ、桶を探し当てる。

そしてそれを掴み。


「消えろッ! 」


桶ごと、水を暖炉に投げた。

暖炉の火は弱っていき、そして消火された。

同時に、溶岩人形は現れなくなり、既存していた溶岩人形も消えていった。


「た、助かった・・・。

死ぬかと思った・・・おい、あんた!あんたはいったい!?」


後ろから家主の声が聞こえるが、先に手がかりだ。

消火された暖炉を見る。

そこには、暖炉にあったにも関わらず、焦げてはいるが燃え尽きなかった一冊の本があった。


「・・・これは。」


勿論、かなりの範囲で焦げており、読めたモノじゃない。

焼却処分するつもりだったのだろうが、現状怪しいのはこれだ。


「おい!勝手に転がり込んで何を好き勝手に・・・!?」

「この本はなんだ。」


怒鳴りつけてくる男に、焦げた本を突きつける。


「う、うるさいっ!何故急に転がり込んできたヤツの言うことなど────!」

「言え、また痛い目を見たいか。」


脅迫めいたことをしているのは百も承知だが、今はそれどころではない。


「っ・・・!せ、聖書だ!よそ様のな!新世界を創造する新宗教ってな!バカバカしいッ! 」

「・・・新世界、か。」


まさか、と考え込む。


「とんだ疫病神だ!私は間違っていない!あんな胡散臭い話など信じるか、詐欺師め!

そう言ったら、聖書ソレを押し付けやがって!お陰でこのザマだ!」

「・・・そいつは誰だ」

「赤い髪の若い男だ!あれで何人手篭めにする気────がっ!?」


充分な成果はあったので急ぐことにした、イグニスは男を軽く殴り飛ばす。

このまま喋らせ続けるのも耳が腐りそうだ。


「な、殴っただと・・・?貴様ぁ!私を殴ってただで────!?」


尻もちをついたまま怒鳴る男に焦げた本を投げつける。


「例の連続消息不明事件、覚えはあるだろう。」

「そ、それが何だ!」

「触媒はこの本と火。

自分の宗教を悪く言われたことで、そいつを与えて安全に殺そうとした。

要らない本なら燃やすからな。そうやって魔術は完成する。

それで、明るい夜なら逆に目立たず骨まで溶かせば終わり。そういう仕掛けだ。」


自分も助けがなければ、と。

男の顔は青ざめていく。


「そ、それが・・・連続消息不明事件の真相か・・・!」

「お前の手柄にしろ。俺は要らん。いま言った情報は好きにしろ。」


それを聞いた男はニヤついた顔に変わる。


「ゴマすりが上手いじゃないか・・・!いいだろう!殴ったことはチャラにしてやろう、私は寛大だ!」

「ふん・・・。」


どの口が言えたものか。

こういう輩が一時期持ち上げられたとて、と。

そこまで考えて面倒になり、イグニスはさっさと男を置いて飛び出した。



────────



夜は更に深く、明かりは消え失せた。

ほんの僅かに、暖炉と思われる灯りが窓から漏れているだけ。

今回の連続消息不明─────否。

連続殺人事件において"犯行が絶対に行われない数時間"である。


被害者が見つからなかったのは、溶岩人形に跡形もなく溶かされたため、床や壁が削られていたのもそれが原因。


人の手は最低限、前準備のみ。

より精密にやるなら必要だが、事前から分かっている状況さえ的確ならば、人を必要としない手段。

犯人の職業は"召喚士"。

そして、運良く現場に居合わせたお陰で完全に理解した。


新世界を信仰する男────マグナ。

その教会のような建物に、脚を踏み入れた。

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