背徳の紅"第六話、情報"

──────ウィツィカトル公国。

この世界の始まりとされる"王"を崇拝している国。

おとぎ話のような建築物も珍しくもない、そんな街で、イグニスはある情報を求めて歩いていた。


「雰囲気が違いすぎて別世界に感じるのは相変わらず、か。」


無論、情報とは"鉤爪"に関することである。

その日、色々聞き回った結果・・・やはりアルが調べた通り"信仰し、布教する"者が突如消息不明になっており、その街も警戒してか、話したがらない者、或いは恐怖で黙り込む者もいた。


「話にならんが、収穫ははあったな。

後は───────」


イグニスの視線には、教会のような建物。


「・・・"新世界"か。

新しい宗教なんぞ出しても、公国ここなら有名にならずいつか消えるが、さて・・・。」


扉に近づき、ノックをする。


「──────おや、お客様ですか。」


優しそうな男性の声が帰ってきた。




───────────




「まさか、顔見知り以外の客人と思わず大した出迎えも出来ず、すみません。」

「構わん、礼を欠いているのはこっちだ。」


出迎えたのは優しい表情の孔雀の翼人。

赤髪が特徴の青年である。


「それで、各宗教の信仰者が突如消息不明になる事件を追っている・・・と。」

「ああ、何か分かることはあるか。」

「そうですね・・・いずれも各宗教への嫌悪の感情を持っている者が狙われているのではないか、という事くらいでしょうか。」


椅子にお互い座り、向かいあわせで会話する。


「そうか。

ああ、悪い。名乗ってなかったな。

俺はイグニス=クリムゾンだ。」

「イグニスさん、ですか。

ええ、私はマグナ。信仰上、苗字は名乗れません。」


申し訳なさそうに言う青年、マグナに対して「構わん」と言って話を進めることにした。


ある程度、話が進むと情報が集まりつつあった。

・他宗教への嫌悪が強い信仰者が被害に遭っている。

・消息不明になっている人の家では妙に床や壁が削れている。

・被害者のいる街では、基本的に夜でも明るい地であること。


「・・・思いのほか、集まったな。」

「それは良かった・・・おや?」

「む・・・。」


話している最中、誰かが入ってくる。

街の子供、数人だ。

みんなしてマグナに向かって走り寄る。

マグナも出迎えて抱きしめる。


まるで保育所のようだ。


「随分と慕われているな。」

「いえ、まだ近所の二、三件くらいですよ。

それに、数少ない信仰者のお子さんですから、大切にしなければ・・・。


ああ、どうです?イグニスさん。貴方も信仰を・・・」


イグニスを見上げる顔に悪意はない。

所謂義務的な行動に近い勧誘だ。


「悪いが断る、生憎宗教に興味がなくてな。」


イグニスも悪気はない。

単に興味がどうしても湧かないのだ。


「残念です。ですが無理からぬこと・・・理解するには膨大な時間と信頼が必要ですから。」


にこりと、温厚な態度をそのままに言う。

無理強いするつもりも無いらしい。


「・・・さて、ガキの世話の邪魔になるのは忍ばないんだな。そろそろ失礼する。」

「ええ、いずれまた・・・。」


イグニスはマグナの横を通り過ぎ、マグナは笑顔で見送った。


───────


日が落ちる時間に近づいてきた。

手がかりは増えたものの、やはりまだ範囲は広い。

この街は夜もそれなりに明るいだろう。

ダメ元でこの街を自分で見回り警戒してみるのも有りかもしれない。


「─────妙なもんだな。」


ふと、呟いた。


動機はわかりやすい。

宗教間の亀裂など珍しくない話だ。

恐らく"他宗教に侮辱されたから"だろう。

その割には周到である、手馴れているのだろう。

共通している"明るい夜に犯行が行われる"点も妙だ。

暗殺者が行うには少々部が悪い。


実際に拉致するにしたって、暗殺者ができないことを普通は他の職ができるとも思えない。

どんな仕掛けを作ったのやら・・・。


「─────ち、考えても分からんな。」


日は暮れた、明かりはある

─────良い、犯罪日和だ。

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