無慙軌跡"第五話 醜い獣"

「■■■■■■■■■!!!」


言葉にならない叫びを上げ、醜い獣はナオタカに向かって手か、前足か、どちらとも言えないソレで襲いかかる。


「・・・!」


ナオタカの回避によって、爪を立てたソレは床を削る。

強い。

単純明快、その身体とその強さとその速さ。

フル稼働した一振りでも理解出来る。

奴は間違いなく強い。まさに暴威そのもの。


だが─────


「死ね・・・ッ!」


お返しと言わんばかりの、大剣による渾身の一振り。

それを受けて醜い獣は後ずさる。

総てが暴威なのはこちらも同じこと。


人も、化け物も、悪ならば滅ぼす。

死なぬなら滅ぶまで殺す。

そう最初から決めているのに、怖気付くなど有り得ない。


「■■■■■!!」

「ち・・・」


腕を振るいつつ後ろに大きく下がる醜い獣。

しかしそんな消極的な攻撃ですら、普通ならば致命傷になる。

それを回避しきれなかったナオタカは、左腕に傷を負う。


同じだけ与えた一撃なはずなのに。

優位性は醜い獣にある。

つまり、つまりだ。


"あの化け物に対し、一撃貰う前に数百以上も打ち込まなければ勝ち目すらない。"


「■■■■■■■!!!」


分かりきった話だ。

だが退けない、奴は見過ごせない。


「・・・!!」


大きく口を開き叫ぶ獣に向かって走り出す。

それを向かいうつうに。


「■■■■■■■■!!!!」


口から真っ白な太い光線が放たれた。

先の爪による攻撃よりも、違いなく当たれば死ぬ単純なモノ。

しかしそれは──────。


「─────死ね。」


ナオタカに対し、大きな隙を見せたに過ぎない。

殺意の宣言が、獣の耳に届くがもう遅い。


「■■■■■■■■■■■!?!?」


叫びは痛みによるものか、或いは混乱によるものか。

少なくとも、叫びの原因はすぐ傍にいた。

醜い獣の側面、そこには既に一撃を浴びせた剣士がいた。


「死ね・・・!死ねェ!」


一回斬った程度では全く足りない。

二回、足りない。

三回、足りない。


死ぬまで幾度も繰り返す。

四回、七回、十回、二十回。


「■■■■■■■■!?!?■■■■■■■■!!!」


反撃も逃げるもさせはしない。

此処で死ね。

数十回の斬撃。耐えかねた獣は、無理やりにでも身体を動かして離れようとする。


しかし──────


「身体強化・・・絶、絶、絶──────」


それを許すはずがない。


「─────消し飛べ。」


身体強化を超えた瞬発力と攻撃力を誇る、身体強化・絶。

負荷が大きいはずのソレを、三度重ね掛けした一撃を振り下ろす。


大剣の一撃が嵐と化す。

振り下ろした先の床は割れ。

巨大だったはずの獣は吹き飛んだ。


殺したか?いいや、死んでいない。

防がれた?正解だ。

何で防いだ?剣だ。


「・・・剣だと?」


渾身すら超えた一撃を防いでみせた剣。

アレはなんだ?


「■■■■・・・!?」


醜い獣も狼狽えていた。

襲いかかってきた"死"を、何かが防いだ。

自分の手には"剣"。

おかしい、有り得ない。

何故"獣"になった自分が"剣"などと。


「─────────。」


不可解なまま、醜い獣は大地に剣を突き立てる。

いいや、この瞬間からはもう"醜い獣"ではなかったのかもしれない。

なぜならその剣は、神秘的な青緑の輝きを放っていたから。


「ああずっと、ずっと側にいてくれたのか。」


獣は、言葉を発した。

瞳はもう、その輝きを目にした瞬間から獣ではない。

その輝きを示す名は、この世で一つしか存在しない。


「我が師」


剣を持ち直し、立ち上がる。

輝きの剣に"獣になってしまった英雄"は語りかける。


「導きの月光よ・・・」


その剣を振るう剣士は、その"本物の聖剣"を振るう剣士の名は。


"ルドウイーク"


彼こそが、古の狩人にして最初の月光の担い手。

それまでの戦いは、前戯に過ぎなかった。

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