無慙軌跡"第二話 殺人鬼"
「待ってよ。身体ボロボロなんでしょ!?」
「・・・。」
標的を完全に沈黙させたあと、ナオタカは直ぐにその場から後にした。
身体強化による身体の酷使で負担が大きいだろうに、それらを一切無視している。
それを魔術師の翼人"フレイ=シュラーク"が呼びかけながら追いついたという状態にある。
もっとも、その呼びかけもナオタカは無視をするのだが。
「少しくらい休むとかさ!」
「断る」
「迎えを呼ぶとかさ!」
「断る」
いい続ければ振り向いてくれる。
そう思って訴えかけるが一切ナオタカの耳には入らない。
「ああもう・・・!ぶっ倒れても知らないからな!」
そんな風に怒る彼女だったが、まるで動じた様子がない。
それどころか──────。
(鬱陶しいな。)
─────と、内心思っていたという。
──────ナオタカの活躍から1年前、ウィツィカトル公国にて。
「呪いの子、嫌よもう・・・。」
とある地にて、魔族だがごく普通の母親は憔悴しきっていた。
公国には予言者が居た。
その予言者に、母親は予言をされた。
"産まれる子は、救いがたい最悪の忌み子です"
それ以降、周りの人々の罵詈雑言は酷いものだった。
"堕ろせ"は序の口で、母親本人にまで"死ね" "お前も呪われている" "化け物め" と罵詈雑言が繰り返された。
しかも、それは彼女の夫からも。
産まれる子供に罪はない。
一般的な理屈だし、そこに異を唱える者はいない。
だがそれは産まれるものが「生命である」という前提だ。
つまるところ母親以外周りの人々は、生命とすら思われて居なかった。
母親は、ずっと耐えていた。耐えていたが、もう心は折れかけていた。
本当にこの子が災厄だったとしたら─────
そんな言葉すら浮かぶ程に。
自殺の決行はそれからさほど掛からなかった。
本当に災厄であるとしたら、という想像から目を逸らし、「産んでもこの子は周りによって不幸になるから」と免罪符を抱え、自分の子供諸戸も死のうと考えたのだ。
母親が行ったのは、飛び降り自殺だった。
崖から身を投げ出し、大地に叩きつけられる。
死ぬ、間違いなく死ぬ。
"余程の化け物じゃない限りは"
もうすぐ息が耐え、意識が遠のく母親は安堵する。
─────これでもう、誰も生き地獄を味合うことはない。
憔悴しきった母親にとって、もはや死が救いと信じられていた。
『あはっ、あははははははっ』
嗤いが響く。
ここには誰もいない。
しかし確かに聞こえる。
『あはははははははっ』
可笑しい、耳に響く声じゃない。
これは、自分の内面から。
明らかにこれは嘲笑う声、それは──────
『嬉しい・・・私、お母さんを殺せたのね?』
─────母親を殺せたという、喜びの嗤い。
「うそ、うそ、嘘よ・・・
嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ───────」
有り得ない、本来ならそうだ。
母親の考えは間違ってない。
これはあまりに異常過ぎる。
母親は更に察知する、"自分"が内側から"食われ始めている"。
予言者は間違えていなかった、母親も間違っていなかった。
ただ、それ以上に災厄は危険すぎた。
『いただきます──────』
だがもう、遅い。
この怪物の誕生を許してしまった。
「いや・・・いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
失われ始めた意識が覚醒し、母親は断末魔を上げる。
自分が消える、その恐怖に。
怪物を産んだ、その絶望に。
被害者でしかなかったその人は、遂に
「あ、、、、あ、、あ────────」
死すら絶望だった中で、息絶えた。
直後、死体から小さな小さな子供は食い破る。
嬉しそうに、愛おしそうに笑顔を空に向けて。
楽しかった、嬉しかった。
初めての殺人は母親。誰にも渡さずに殺せたのだ。そんな喜びに満ちていた。
そんな中、彼女にひとつの人影が近づく。
「ああ────ごきげんよう。」
近づいてきた誰かに、やはり彼女は笑顔を向けた──────。
─────白辰にて、その出来事の1年後
「殺人鬼────」
酒場にて、ナオタカとフレイはその単語を耳にした。
ナオタカは酒を飲む目的ではなく、そこから入る情報を元に彼が活動する為だった。
フレイはそれについていった。
そこで耳にした情報とは、殺人鬼。
各国を転々として殺人を繰り返す少女がいる。
それがいま、白辰に居る。
そんな曖昧な情報だったが、それだけでも衝撃は大きかった。
「・・・」
ナオタカは表情ひとつ崩さず、立ち上がって酒場から出ようとする。
「あ、私も行くから待てって!」
フレイも慌ただしくついて行く。
ナオタカが目指すはただ1つ、現れる悪────"殺人鬼ディメントクイーン"の討伐である。
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