無慙軌跡"第一話 鏖殺の業"

晴れて一人旅が始まったナオタカの名は広まり始めた。

研究機関、内紛、そして略奪。

それらにたった一人で介入し、それらを鏖殺していく。


ただ、無傷ではない。

何度も傷ついたし、何度も死にかけた。

それでも立ち上がり、死なず、勝ってみせた。


「死ね、死ね──────呼吸をしていいと誰が言ったッ!」


あらゆる悪と認識したイキモノを全て鏖殺する。

徐々にその働きは苛烈さを増し、一年でその男には異名がついた。


その異名は"無慙"。

どれほど強くとも弱くとも、誰かの怨みを飼おうとも、恥じないし後悔もない。

少なくとも、尊敬よりも恐怖の念が彼に対して注がれていたことだろう。


しかし、しかし。

たった一人であるが故に、やはり国一つの悪など滅ぼせない。

何より白辰という国自体が、4つの国の中でもっとも業が深いと言えるだろう。

そんか中で、どれだけ暴れようが所詮は個人の暴力に過ぎなかった。

当然一人であるが故に、傷を癒す期間も長くなってしまう。

であれば、その力に意味は在るのか。


──────と、疑問でも浮かぶことがあれば多少はマシだったのだが。

彼には一切、そのような疑問など無かった。

正義の味方などほど遠い、彼にはそんな気は毛頭ない。

ただ、悪を赦せないだけの潔癖症すら凌駕する怨念でしかないのだから。



それから、更に5年──────。



とある研究機関にて、そこは阿鼻叫喚となった。


「逃げろッ!ヤツだ!"無慙"だ・・・!」

「にげてっ、にげてぇええ!」


叫び、泣き、逃げる人々は決して"悪"だけではなかった。

その機関にて、被害者さえもが、彼を見てなりふり構わず逃げていく。


「死ね─────。」

「あ、が。」


呪詛を吐き、怨念のままに"悪"を一人、大剣で突き殺す。

返り血を浴び、周りに血を誰かに撒き散らしても気にしない。


「悪は何処だ。」


更に一人、"悪"の身体を両断する。


「屑は何処だ。」


更に一人、"悪"の頭部を踏み潰す。


「一匹残らず滅ぼしてやる!」


何も変わらない。

19歳になった彼にとっては、この行為は最早呼吸と同じであり、苛烈さはより鋭く尖っている。


「あああああ!!!!」


狙いを定められた"悪"に最早安楽などない。

逃げ道も、勝ち筋も、何もかもが殺意と怨念による鏖殺で塗り潰される。

それを理解し、しかし納得しきれない"悪"は発狂しながらも魔法にて攻撃を与える。


しかし──────


「あ・・・・・・あ・・・・・?」


"悪"からの視点。

それは突然、目の前の敵の姿が消え、次の瞬間には、己の視点が傾き始めた。


嗚呼、死ぬのか。


そう最後となる"悪"の思考は


「あ、が、がぁああ!?」


更なる暴力で塗り潰される。

斬られ、潰され、貫かれ、すり潰される。


狂い哭き、恐怖と絶望と激痛で断末魔を上げる。

楽に殺されること"さえ"ない。

それこそが"無慙"の所業だった。


「ッ、ふぅぅうっ・・・」


一瞬痛みに顔を歪める"無慙"。

先の業は決して、素のままでは不可能だった。

その動きの正体は"身体強化"。

鏖殺を繰り返すうちに、自身の殺意と身体の魔力が連動。

それによって身体を限界以上の動きをさせることが出来るようにになった。

その反面、負荷は当然相当なモノ。


殺意、怨念、それによる行動は別のイキモノそのものだった彼でも、身体は人間である以上、身体能力といった壁がある。

故にその壁を無理やり乗り越える術を手に入れた。

理由はもう、語るまでもない。


「はぁッ・・・まだ居るか・・・。」

「ひ、ひぃいい!」


彼の視線はまだ生きている"悪"達へ。

殺意も怨念も収まらない、後は身体を動かすのみ。


そう思った瞬間。

機関の壁は爆発した。


「待たせたな!って、ほとんど終わってるじゃないか!

まぁいい、行くよ!」


更なる人影が、この場に乱入した。

焔を撒き散らし、残った敵から被害者を守る。


「な、なんだぁ!?仲間、だと!?"無慙"に仲間なんて、聞いてな─────。」


"無慙"に目を付けられた"悪"は更に狼狽える。

その間に、喋る口は閉ざされた。

否、刺し貫かれた。


仲間が来たことなど、全く関係ないように。

無理やり体を動かして、大剣にて口から脳、更に向こうまで貫いた。


「────マヌケが。俺に仲間などいない。」


訂正しよう、彼にとって現れた仲間など、仲間とは思ってない。


「いるのは敵と、敵の敵だ。」


殺した存在など最早視界になく。

"無慙"こと、ナオタカはそう吐き捨てた。



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