第3話 女神との邂逅

「よっす」


放課後。私は、図書室にはいかなかった。また何かあるといけないからという理由もあったが、それ以上に考えたいことがあったからだ。


「あれ? 誠太郎君と……笠木君、柊さんまで?」


なるほど。彼のことだから、二人ではらちが明かないと気づいたわけだ。だからこそ、こういうのを専門としている二人を呼んだのか。


ありがたい限りだ。


「なんか調べたいことがあるって聞かなくて」

笠木君はそんな風に苦笑いを浮かべた。

「笠木は完全に筋肉要員だから」

「え、何それ?」


瞬間。彼女は、呟いた。


「私はね、式崎誠太郎のことを心の底から愛しているのよ」

……え?

どういうことなの? 何が? へ?

頭が回らないのに目は泳ぐ。声は震えるのに体は動かない。


「……二人って、そういう関係なの?」

「ええ、そうよ」その言葉の後、彼女は不思議そうな顔をした。

「どういう表情なの、それ」

「いや、私がこういうこと言ったら私の命が狙われるのかと思ったけれど、そういうことではないみたいだなぁと思って」

「……え?」

「本棚が倒れるとか、スナイパーに狙われるとか。地震とか、火事とか? 存在自体が消されちゃうのかなとか思ったんだけど、そういうことじゃないのかって」

「……何を言ってるの?」

「君に、女神が憑りついていると思って来たのよ」

「……女神?」

「まあ、そういうことなんだ。ちょっと聞いてくれるかな?」


誠太郎の言葉に、私は素直に応じた。まあ、半信半疑ではあったけど。

刹那。教室の扉がけたたましい音を立てて閉まった。


「うわ、びっくりした」

「ねえ、笠木。扉、開けられそう?」

「柊さん、だから僕力自慢じゃないんだって」

「いいから」

「はいはい。ほら、まったく動かないよ」

「ありがと」


笠木君をよそに、柊さんは椅子に腰かけた。


「んで、話だけどね」


それから柊さんが話したことは、私にとって衝撃的で、しかし納得のいくものだった。

初めから分かっていたような、分かっていたけれど分かっていないふりをしていたような、そんな感覚に襲われるのだった。


「今から話すことは、あくまで仮定のお話。まあ、確証がないわけじゃないけど、証拠がないから事実とはいいがたいってくらいの小話。

「まずは、彼の状況からお話ししようか。彼は、現在不幸に巻き込まれやすい体質になっていると君は勘違いしているが、実はそうではない。まあ、そうなっているといえばそうなっているけれど、それはあくまでも『そうさせている』ということに過ぎない。


「彼には伝えてなかったけれど。


「私たちは、校長先生の依頼を受けて、女神のうちの一人である『橘六花たちばな りっか』を捜索することになった。するとどうだ、君は同じクラスで、しかも学級委員長をしている。それで、私たちは女神が反応するよう仕掛けをしたんだ。主に、君にね。

「ねずみ姫の件、君は偶然と思っていたかもしれないけれど、実はそういうことではないのだ。まあ、嘘ではないからその件についてもう少し詳しく知りたいところではあるけど。

「どうやって誘導したのかについては、私もそうだからとだけ伝えておこう。

「それで、君の動向について詳しく見せてもらっていた。そしたら、彼が面倒なことに巻き込まれ始めて滑稽だったよ。


「こらこら、怒るんじゃない。むしろほめているんだ。君のおかげで彼女の招待に気づけたんだから。


「話を戻そう。


「私たちは、2択まで絞っていたんだ。破壊の女神か、それとも。

「正解は、結局最後の最後まで気づけなかった。

「でもね、今この瞬間にわかったんだ。

「君に憑いている女神は、円環の女神だよ。

「私たちは『誰かの人生を不幸にする女神』かなと思っていたけれど、違ったんだ。円環の女神は、『憑いた人の人生を幸せにする女神』なんだよ。

「つまり、式崎誠太郎の人生を不幸にするんじゃなくって、本当は君自身を幸せにしていたんだ。

「それが、私たちの結論。どうかな?」


どうかな、と言われても。そんなことを言われたって……。

いやでも、確かに幸せな思いはしていた。言われてみれば、確かにここ最近は彼のことをよく思い浮かべていたし、そのたびにやにやしていた。


だからって、私が女神と?


「なんて言ったらいいか……」


瞬間。私の視界はすぐに遠ざかっていった。視界だけじゃない、聴覚もだ。痛みは特にないが、なんとなく意識自体が遠のいていく感じ。

説明するのもおっくうになっていく。


なに……これ。


「ついに出たね、女神さまが」

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