方城七伝 ねずみ姫 004

「それで、どうなったんだ」

「彼女は、脳を焼かれて人間としての尊厳を失ったのち、自我を失うものの、体は死ぬことがなく、今も絶えず生き延びているとかなんとか。それで、ここがその跡地なんじゃないかっていう噂なのです」

「……」


何も言えなかった。というか、何も言いたくなかった。


「『方城七伝』の中には、その敬意を表して、『ねずみ姫』と名付けているのです」

「……」

「どう、かな。確かにむごい話ではあった。ごめんね、先に言えばよかった」

「いや、そんなことは」

「でもね、君には伝えておきたかったの」

「……どうして?」

「これはね、方城高校に命を預けた人たちの伝記だから。もしかしたら、女神探しのヒントになるんじゃないかなって思ったの」

「そういうことか」

「なので、これからこれが本当にあったことなのか調査したいのです」

「わかったよ。一緒にやろう」

「よしっ」


それから、3時間くらいが経っただろうか。掘り続けた穴は、ようやく固い何かまで到達した。


「……これは」

「箱?」


辺りはすっかり暗くなり、街灯もないエリアだったので、僕たちは急いで灯のあるほうへ向かった。


「そうだ、私んち近いから部屋で見よっか」

「おっけー、分かった……って、いいのか?」

「いいよいいよ、それくらい。それとも何? もしかして、意識してくれちゃってるの?」

「そりゃあまあ、一応女の子なんですから。それに、かわいいし」

「……え?」

「へ?」

「今の、もっかい」

「いやだから、女の子なんだか」「そこじゃなくて」

「……言わなきゃいかんか?」「そうですね」

「……かわいいから」「ありがとうございます」


そんなやりとりをした後、彼女の家にお邪魔させてもらうと、「あら、いらっしゃい。なーに? もしかして、彼氏?」とお母さまがお見えになった。


「違うよ、ただの友達」

「へえ、あやしい」


どこのお母さんもそうなのか?


「じゃあ、私たちちょっと用があるから、お母さん自分の部屋行ってて」

「はいはい、分かりましたよ」


お母さまが部屋を出た後、彼女が発した言葉の数々は、まあ言わないでおこう。彼女もまた調子に乗ってやりすぎたということだろうし。

それではわからないというのであれば、一つだけヒントを差し上げよう。


部屋で二人きりになったら、興奮しちゃって、以下略。


「さて、あの箱を開けましょうか」

「……そうだな」


開けた箱の中に入っていたのは、手紙だった。


「……誰の手紙なんだろ」


裏返した瞬間、正直言って鳥肌が立った。しかしそれは、恐怖ではなく好奇心の方で、僕は鼻息を荒くしてその手紙を開いた。


「……これは」


それは、財部妃花たからべ ひめかさんが書いたものだった。


『あなたがこれを読んでいるということは、私の自我はこの世にないでしょう。ただまあ、少しでもほかの人の役に立てていれば幸いです。


ここに書き残すことは、大きく3つあります。


一つ目は、この研究所について。これは、拷問を強いられながら断片的に聞いたことなので、定かではありませんが、この研究所はいずれ学校になるそうです。それも、エリートを集める秀才校とするそうです。まあ、私がここで処分されれば、ほかのところに移転するでしょうけど。とりあえずは、そういうことのようです。


二つ目は、お母さん——の妹さんについてです。私は、物心つく前にお母さんを失い、代わりに妹さんが世話してくれていたことを知っています。どうして黙っていたかというと、まあ、私にとってどちらが親でも構わなかったということだと思います。精一杯産んでくれたお母さんも、精一杯育ててくれた妹さんも、感謝してもしきれませんから。


最後に、お父さん。いっぱい愛してくれてありがとう。もしも、私の体が使ってもらえるなら、お父さんのおなかの傷に使ってほしいな。


いっぱい言いたいことはあるけれど、時間もないのでこれで最後にします。


私は、苦しい思いをしています。でも、それはみんなのためなのです。そういうことなら、私はどんなことになってもいいと思っています。


でもやっぱり、死にたくないな』

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