第7話 それでも
昨日のことを思い出していた。あの人は、幽霊だったのだろうか。
先生からその時の教室を教えてもらった。建て替えが入ったために、全く同じというわけにもいかなかったが。
「でも、遺体は無かったって」
「そうだとも」
うわっ。
素で声が出てしまった。
「せーたろー、昨日はお疲れ様」
ちょっと待てよ。だとしたら、こいつはどこに行ったんだ?
「なあ、笠木」
「どした、せーたろー」
「お前、どこに行ったんだ? この事件の真相を知ってんのか?」
「いいや、僕は知らないよ。てか、知らなかったよ。ただまあ、千桜と関わればこういうことがざらにあったから、平静を保てているってだけで」
「……千桜さんは、知っていたのかよ」
笠木は、教壇に立った。そして、真面目な表情を浮かべたのだった。
「どっちかっていうと、気づいたって感じじゃないかな。校長は知っていた。千桜は、調べていくうちに気付き、校長と答え合わせして、君の行動を知って、僕に指令を出した」
「だとしたら、お前どこに行ったんだよ」
「墓だよ」
……墓?
「正確には、お墓づくりって感じかな」
「……」
「僕たちは、彼女の中に入っていた女神様を招集する仕事をしている。そして、せーたろーはその女神様を見つけ、体から追い出してやる―成仏させてやるという、仕事をしているんだ」
「ってことはやっぱり」
「和泉若菜は何十年と前に死んでいる。でも、女神様のおかげで、そのからだを保ったまま彷徨っていた」
「……」
「そして、せーたろーは無事、彼女から女神様を追い出した。からっぽになった彼女は成仏して、僕は墓を作って応援する。そういうことになる」
「……なあ、それって救えたことになるのか? 彼女は、救われたのか?」
「僕たちの仕事は、救うことじゃない。しかるべきところに、しかるべき対処で連れて行くのが仕事なんだ。その辺ちゃんと伝えて泣くてごめんな。でも、そうじゃないとせーたろーはやってくれないと思って」
「……そりゃあ、もちろん。やらないさ」
「だろ、だから……おい、どこに行く気だ」
僕は気付けば立ち上がっていた。抑えきれない衝動が、僕の体を動かす。
「その女神、どこにいるんだ?」
「え、今はアトリエだけど……」
「俺の仕事は終わった。お前らの仕事ももう終わった。だから、ここからは個人活動だ。まだ、彼女が成仏したわけじゃないんだよな?」
「……何する気だよ」
「何って、当たり前だよ」
思春期の女子高生を助けるんだよ。
「モノ申す!」
扉を強く開け、アトリエへと僕は帰ってきた。
「若菜さん!」
「今ちょうど成仏するところでってお前何をする⁈」
「何って、まだ終わってないんだよ。彼女はまだ救われてないんだよ」
「笠木、お前ちゃんと言ってないのか?」
「言ったさ、でもこいつ聞かなくて」
「何してるんですか? 行きましょうよ若菜さん」
和泉若菜は目を覚ました。
「……え?」
「僕と、まだやってないこと、全部やりましょう? 幼馴染の代わりにはなれなくても、後輩さんの代わりにはなれなくても、それでも僕は全力でカバーします! だから!」
強く、激しく、美しく。
僕は、彼女に懇願した。昨日の瞳には、それが映っていたんだ。
僕は視線に人一倍敏感だ。だからこそ、分かるんだ。
過去を辿り、記憶をたどった少女の瞳には、その過去に置いてきた、記憶の片隅に追い込められていた希望が、映っていたんだ。
「……はい!」
彼女は、笑った。
屈託のない、少女の笑顔だった。
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