第8話 終わりに

終りに。墓の前にて。


それからの2週間は、とんでもなくハードなものだった。遊ぶだけ遊んで、精一杯笑って、楽しんだ。

忘れられないくらいの想い出を作ったのだ。


「気が済んだ?」

「ごめんなさい、千桜さん」

「……まあいいわ。初めてだったし」

「そう、ですよね」

「抵抗したことが、じゃなくて救おうとする人間だったことが、ね」

「でも、彼女の瞳を見たら誰だって助けたくなりますよ」

「そんなものなのか、男子って」

「本来だったら」僕は墓を見ながら、そう呟く。

「本来だったら、彼女はどうなる予定だったんですか?」

「別に。単純な話だ。彼女の体はここに、心―というか、女神は私のアトリエに連れて行く予定だった」

「そうなんですね」

「実際、初めての試みだからどうなるか分かったもんじゃないが。お前のせいで」

「千桜さん厳しすぎませんか?」

「私だって、良心くらいはある」

「そうですか?僕にはそうは見えませんけど」

「なら、証明してやろう」


「え?」彼女は、僕にしゃがめと命令した。そのまま応じると、僕は頭を抱きかかえられた。


「……本当に、危なかったんだからな? 絶対、今度からはすんなよ」

「……どういうことですか?」

「女神様に惚れられた奴は、命を捧げようとしたがるんだ」

「……そういうことですか」


僕は笑って答える。


「そしたら、僕は全員の神様から惚れられたいと思います。もちろん、あなたからも」

「……はあ? なにを言って」

「そしたら、皆で笑って卒業できるじゃないですか」

「……はあ?」

「今まで、苦しかったですよね。一人で、死ねませんものね。女神揃ってみんなで卒業。ちょうどいいじゃないですか」

「馬鹿言うな」

「大丈夫です。あなたをひとりにはしません」


初めから彼女は優しいのだ。

女神様を一人にしないように。


「……ふざけんな、このたらしが」

「お褒めに預かり光栄です」


和泉若菜は、幸せになれたのだろうか。空を見上げても、答えは返ってこない。

せめて、最期に訊いておけば……よかった……?


「あれ、千桜さん?」

「なんだ?」

「目の前に、いるんですけど」

「え?」

「女神様……というか、和泉若菜様が」

「……そんなわけ、だって成仏させて、本来の女神の姿に」


振り向かせて、千桜さんも驚く。


「もしかして、本当に惚れられたんですかね?」

「……としたら、研究すべきことが増えたな」

柊千桜は笑った。

和泉若菜は笑う。

「式崎誠太郎君」

「……なんでしょう?」

「きっちりと責任とってくださいね?」

「責任って僕は別に何も」

「したじゃないですか」

「……へ?」

「私を救ってくれたヒーローに、なってくれたじゃないですか」

ついに来たか。

変な奴が一人の少女を救う夢を見てきたけれど、実際に起きるとなんというか。


「最高の高校生活の幕開けだぜ」


5月の風は、清々しい。

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