第6話 真実

 翌日のことである。


 僕は柊千桜の元へと足を運んだ。


「ってことがあったんだけど、とりあえず僕は笠木と一緒に同級生連中を倒しに行こうと思う」

「それをするのは勝手だけれど、事態は解決しないわよ? むしろあなたは後悔する真実と直面することになる」

「……それでも僕は行きたい」


 彼女は肩をすくめて、それからため息を吐いた。


「なら、一人で行ってきなさい。笠木は、その後輩さんと幼馴染の元へ向かわせるわ」

「……分かった」


 僕は彼女のアトリエを去ろうと扉へと向かう。「君は、」僕の足を止めるべく、千桜はそう声をかけた。


「君は知りたくもなかった真実に直面することになるだろう。そして、無力感に襲われるだろう。それでも行くのがお前なんだな」

 呼ぶ価値があったよ。


 彼女は少し微笑んだ。その瞳には、何が含まれているのか僕にはさっぱり分からなかった。


「お褒めに預かり光栄です」


 僕は廊下を駆けた。


「そういえば、クラスを知らなかった」


 一つのことに夢中になって周りが見えなくなるのは人間の性みたいなものだと思うのだが、しかしそれに気付けるのはごくわずかだろう。

 そんな自画自賛を脳内に浮かべながら、僕は職員室へと向かった。

 担任の先生を呼びつけて、僕は尋ねた。


 しかし、3年の先生に訊いてもそんな生徒はいないという。


「え、本当ですか?」

「うん。少なくとも俺は知らないんだけど」3年の先生が集まった時、おそらく最高齢であろう先生が一人呟いた。

「もっかい、名前を訊いてもいいかな」

「え、あの、和泉若菜です」

「……少し席をはずそうか」

「え?」


 僕は、その先生に連れられて屋上へと続く階段へと向かった。

 その先生は、ため息をついた。


「和泉若菜という少女は、何十年前も昔の生徒だよ」

「……?」


 え? 僕は動揺で何も言えなかった。


「本当に昔、私が赴任した初年度だったかな。2個くらい上の先生がそれはもう熱心な先生だったんだよ。

 当時はいじめなんて言葉もマイナーだったんだけど、その先生は率先してパトロールしてた。何か様子がおかしい子にはちゃんと話しかけ、挨拶もし、その都度対策をしていた。

 だけどね、そんな先輩が突然辞めたんだ。俺には『自分が情けない』と残してったんだ。しかも、理由が未成年との不純異性交遊とか。

 ありえねえよ、って思ったんだけど、その当時新人の奴の話なんか聞かねえわな。

 そんでもって、数週間後」

「不登校、ですか」

「もっとひどい」

 テロ行為だと。

「……テロ行為?」

「ホームルーム中に鍵ぶっ壊して外に出れないようにして、灯油まいて。火をつけてぎりぎりまで待って、窓開けて」

 バンッ。

 先生は、身振り手振りで表現した。明らかにそんな簡単なものではないはずだ。


「え、でも……」


 犯人は? 動機がある人……なんて、この人しか。

 でも、いや、そんな。

 あんな表情をしていた、あの子が。


「犯人は和泉若菜。でも、彼女の遺体は見つかっていない」

 先生は天井を見上げた。

「俺でも、助けられたのかな」

「……」


 そんな言葉に、僕は何も言えるはずが無かった。

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