第4話 前振り
「やっぱり、ここは広いですねぇ」
柊千桜と笠木は、完全な思い違いをしていた。それは、彼女たちがあまりコミュニケーションを取ってこなかったつけが回ったというべきか、あるいはそういった感覚が全く切られているかの二択だった。
「綺麗な眺めですね」
彼女は、なかなか喋らなかった。というよりは、喋れなかったに近い。確かに彼女はしゃべろうとして、何かを伝えようとしている。口が開いては閉じ、息を吸っては吐き、そして、思考へと戻る。
「やっぱり、緊張しますかね。なら、僕の話をしてもいいですか?」
「……え?」
「僕ね、昔から、変な奴って言われるんですよ。こんな風にコミュニケーションの取り方もよく分かっていない人間ですし。いきなり声かけるわ、人の地雷を踏んでいくわ、そんでもって理解不能な行動するわで、人から好意的に目を向けられることなんて、無かったんですよ」
「……はぁ」
「僕はそう思っていなかったですけれど、端から見ればいじめということも多々あったみたいで、児相沙汰というか、そんなこともあったんです」
「……」
「だから、というのも変ですけれど、僕は目を見ればその人がどういうキャラなのかって、すぐに分かるんです」
「……私は、」彼女は、ようやく口を開いた。
「どう、映っていますか?」
風が彼女の髪の毛をなびかせる。瞳と瞳がつながるとき、僕の鼓動は高鳴った。
まったく男子高校生というものは。
喉を鳴らして気を取り直す。
「あなたは、あれです。初めに話しかけてきて、相手が関わっちゃいけない人とわかってもなお逃げ切れないタイプの人ですね」
「……」
彼女は、黙ってしまった。しかし、それは悲しみなんて一つもない、屈託のない表情を浮かべる前段階の表情で、「……なんですか、それ」と噴き出し笑った。
優しさに包まれたその笑顔で、僕の心も暖まる。
「よくいるんですよ。その所為で、面倒なことになるんですから」
「……そうね、そうなのかも」
一通り笑顔を浮かべきると、彼女は空を見上げた。
まるで、まとわりつく過去と遠ざけた記憶をたどるように。
「あのね、少しだけ長くなるんだけど、いいかな」
「もちろんですとも」
僕は少しだけ胸を張った。
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