第11話 怒りのポイント還元セール

{Thanks!:星埜銀杏様}

{テーマ:ポイント還元10% }


×××年。人々がほとんど労働をしなくなった時代に、とあるポイント還元セールの話が人々の間で広まった。


 それは、「怒りのポイント還元セール」というもの。何でもとある者の持っている怒りに勝つとポイントが100%還元、そうでなくとも怒りを持っていれば10%は還元されるというものだ。


 それを知った人々はその会場に行き、次々に不平不満をぶちまげる。


 「うちの旦那、ちっとも働いてくれないんだよ!」

「でも今の時代、みんな同じで労働はほとんどしません。…なので10%還元で」


 「近所の犬がうるさくてねえ!」

「犬はかわいいじゃないですか。…10%還元で」


 「近所の家の○○さん、旦那自慢ばっかりするんだよ!『うちの旦那は市のお偉いさん』だとか…」


 「それはまあ今なら誰でもなれますよ。…10%還元で」


その主催者の代理人は、主催者の意向を聞き淡々とそう告げていく。


 それを人々が繰り返しているうちに、ある疑念が広まる。


「アンタ、100%還元されたことある?」


「いや、10%還元だけだよ」


「アタシも」


「…ってか本当に、100%還元する気あるんだろうかねえ?」


「アタシらより怒ってるなんて、いったいどんな女なんだよねえ?」


…どうやら世の主婦たちは勝手にこのセールの主催者を女と決めてかかっているらしい。


「いつもありがとう、私の代理をしてくれて」


「いえいえお安い御用です。それにしても深い怒りの方は現れませんね、【ネメシス】様」


【紀元前440年】頃。人々が労働を奴隷に任せ、働かなくなった古代ギリシャ、アテネ。


怒り、憤りの女神、【ネメシス】の怒りを超える者は、ついに現れなかった。 (終)

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