3,LASTONE
そいつは突然私の前に現れた。燕尾服を着た姿をしているが、ほかが奇妙だ、人間には見えない。こいつも幻想か。
それは月がきれいな晩だった。ヘブンの空に十三の月が総て輝く日。私はそれをみるのが好きだった。
「リトゥナこんにちは」
「こんばんはだろ」
「こんばんはだろ」
そいつの声がエコーするように響く。
振り向くとそいつがいた。
「俺は幻覚とおしゃべりするのは嫌いじゃないな」
俺はそいつに応えてやった。
「月がきれいだねリトゥナ」
「きれいだね」
「きれいだね」
「ふん、あのトンドルとか言うのは御蓮語で飛んでいるって意味らしいな」
幻覚に知恵をつけてやろう。私は月を指さして言う。
「実はそれは違うって知ってた?」
「違うんだよ」
「違うんだよ」
「それは初耳だな」
私は意外そうに聞く。
「あの星の名前は古代語で”もとに戻りたい”って意味なんだ。神になろうとした馬鹿な男のつけた名前だよ」
「くすくすエクジコウ」
「くすくすエクジコウ」
「そんな豆知識が俺のなんに役に立つんだ?」
「きみはもとに戻りたい?それとも前に進みたい?」
「死にたくないだろ」
「死にたくないだろ」
「どういう意味だ?」
「きみの父がやった馬鹿な実験は知ってるよ」
「かわいそうに」
「かわいそうに」
「だがアレはもう終わったはずだ!もう無理だ、私はもうすぐだめになる、生きられない。失敗だ!絶望だ!」
「安心しなよ。僕はきみを掬いに来た」
「そう掬いにね」
「そう掬いにね」
「どういうこと・・・なの?」
「僕の玩具を紹介してあげよう」
「ふふふふふ」
「ふふふふふ」
20
「ヒュー。もうやってやがるぜ」
イブリー・ノックハックランドは部隊から分かれ、自分の担当の場所にやってきた。敵はどうやら爆発を多用するアームヘッドらしい。周囲の地図の書き換えの仕事がいるかもっと彼は思った。もっともここはそういうことばっかだが。
ギムレーの旧式アームヘッドが苦戦している。だがこのノルズリは違うぜ。ノルズリはその細い体を活かして爆風に傷つけられないように隙間を縫うように近づいた。ターミナルヘブンズロックが反応するよりも早く、光の粒子の爪をお見舞いした。ヴィーザルに気をとられて一瞬反応がおくれたターミナルヘブンズロックはその直撃をくらいのけぞった。そこに第2撃をお見舞いした。とどめのアームキル。
そこに一発の攻撃。ロックンロールシナーズだ。
「撤退だ。AIR」
RIFLEが呼びかける。ターミナルヘブンズロックはヴィーザルを足蹴にしてその場を離れ、ロックンロールシナーズに近づいた。
「話は後で聞かせてくださいよ」
「分かっている、引くぞ」
敵は逃げるのか?シェネロティカがやってくれたに違いない。
21
仕事したくないでござる。羽渠 ランはつぶやいた。あたしを拾ってくれた重工には感謝してる。でもコレは違うんじゃない。このままさぼって帰っちゃおうかしら。そう思いながらも敵の反応を探している自分にちょっと感心した。ここかな?そこかな?
うるさい銃撃音ですぐに気付いた。そんなに自己主張が強くちゃ生き残れないわよ。スズリはレーザーバズーカを構え照準を定めた。
一撃が確かに頭部に命中した。しかしびくともしない、ハイブリッドレインボウに少したじろいだ。一発喰らったら死ぬでしょ人間は。チートお疲れ様。ハイブリッドレインボウがこちらに気付く。どん亀のスズリでは生身の時のようにうまく逃げられない。ヴェストリのほうが良かったなとちょっとランは思った。スズリが機関銃を構える。サバイバルではもう勝ったんだからね。
22
「もう終わりかよ」
ハイブリッドレインボウの警告音が鳴る。弾切れだ。調子にのって使いすぎた。なんだあの意味が分からない装甲は。MACHINEGUNは舌打ちする。ハイブリッドレインボウが弾を使い切って不要になったボディをオートパージし、アームホーンとコクピット部が可変する。
スズリがそれに向かってミサイルを発射する。しかしそれは爆発に巻き込まれ消える。ターミナルヘブンズロックだ。
「撤退か。うまくいったんだろうな?あのヒステリーばばあに怒鳴られるのはごめんだぜ」
ハイブリッドレインボウはターミナルヘブンズロックに寄る。その後周囲で爆発が起こり、その煙が消えると彼らは消えていた。
23
どういうことだ?際田 礼は疑問に思った。敵のアームヘッドがスルトに近づきパイロットは降りてなにやら怒鳴り合っている。ガレージの中をこのアウストリが歩いているのに二人はいっこうに気付かない。
アウストリはスルトとフリービーハニーに接近するとハッチを開けた。
24
いつの間にかアームヘッドが一機接近していた。パイロットは長い黒髪の美人だった。でも見たことがない。敵?それとも味方?子供も誰か分からないように見える。じゃあ味方なのか?
「何をぼうっとしているの?何かのご相談かしら」
「おお、そこのご婦人、聞いてくだされ。こやつ、自分が特性もないのにアームヘッドに乗って拙者と戦おうとしたのでござるよ」
子供が言う。
「あきれてしまいますね」
と本当にあきれたような顔をしている。山田は言葉がでない。
「でも、その勇気は買うわ、あなたが敵さんね。わたくしがお相手しましょう」
彼女はアームヘッドに乗り込む。
「おぬしはそこで見ておれ」
子供も乗り込んだ。
25
フリービーハニーはアウストリから距離をとった。二機のアームヘッドは剣を構えた。そしてお互いにすり足で近づいて、二機は交差した。
次の瞬間、折れた剣が宙を舞う。
「拙者の負けでござるな」
SWORDがいう。
「勝負を続けますか?」
「いや、もう迎えがきたでござる」
ガレージの外に一機のアームヘッドがいるようだ。
「いい勝負であった、いつか貴殿とはもう一度勝負がしたい」
そしてフリービーハニーはスルトのほうを見ると、
「おぬしの勇気は買う、おぬしがその剣を扱えるようになったら拙者のところへ来い」
26
一人の老人が安楽イスに座り、戦況をモニターで見ていた。
「あなたはコレをどう読みますか?武蔵さん」
後ろからの問いに武蔵は振り向いた。誰だ。
「私はLEARDER。あなたの絶望の果てにいるものですよ」
応えたのはまだ幼い子供だった。子供は続ける。
「結局私たちはあなたが失敗したにもかかわらず生まれた。希望のために生まれた絶望、それが私たち”キリングフィールド”ですよ」
「おまえ達はあの研究をまだ続けているのか?」
「彼女の研究が完成するまではきっとね」
「私に何か用があるんだ?出来損ないども」
「私はLEARDER、導くもの。研究を完成に導くのはこの私だ。あなたはその最後のピースだ。付いてきてもらう」
「私はREADERは読むものでもある!そういってくるとは思いましたよ、でもね、あなたの意思は関係ないんですよ」
LEARDERは武蔵の頭をこづいた。気を失った武蔵を担ぐと近くに止めてあるアナザーモーニングに向かっていった。
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