アフター・ザ・レジェンドその3、新光皇暦2008年
3
男は歩いていた。
村井研究所の廊下を一人歩く男は一人の男を待っている。
そしてその男はいた。
「熱烈な挑戦状ありがとう、なかなかにすてきだなそのワルモーンの仮面」
男は仮面を取った。その仮面の下の顔は目の前の男と同じだった。
「ドッペルゲンガーって会うと死ぬんだっけ。どっちがドッペルゲンガーかによるよなユミル」
菊田言左右衛門は言った。
「はじめまして私」
「おう、挨拶がまだだったな、俺」
ユミルの自分そっくりの顔を菊田は見ていた。
「
「私よ、聞いてくれ、私はなんなのだ。私は私にあって知りたかった」
「ユミルではないのか、俺の人格を転写アームヘッドだって聞くぜ」
「そうユミルだ、ユミルなのだ。しかしユミルとはなんだ菊田言左右衛門、おまえと同じ人格を持ち同じ姿まで持つようになった。だがユミルはまだおまえではないのか」
ユミルは懇願するような目でこちらを見ている。答えを俺がまるで知っているように。
「私よ、答えてくれ!私はまだ私ではないのか。私が菊田言左右衛門になれないのはなぜだ!」
「なぜユミルは俺になりたいんだ」
「なぜ、だとそう聞くのか、私は、私は、私はおまえとして生まれてくるはずだったのだ。おまえと同じ記憶、姿、人格を持っている私、私こそが私なのだ。おまえを殺せば私が私になるなれば私は喜んで私を殺そう」
「ユミルのままではだめなのか」
菊田は混乱している自分の姿をしたモノに問う。
「ユミル、ユミルか。ユミルのままでいいのか。菊田言左右衛門。はは、ユミルがいいのか。私、私よ、見ていててくれ私は世界を変えたい自分自身も変わりたい、私は世界を帰る」
自分の姿が黒く変形しているのを見た。
「ゆみるのちょうわ、トゥ・チェンジ・ザ・ワールド。物質の組成に作用し作り替えるノウリョク」
「さあ、菊田ともに世界の変わりゆくサマを見届けよう」
ユミルの触手が菊田を巻き込もうとする。
「危ない!」
旬香が飛び込み、間一髪避けた。
ブリュンヒルデが手を伸ばす。
「さあ二人とも乗って」
上空から見下ろしたユミルの姿は異様だった。フェンリルの頭部とヨルムンガンドの羽が生えた木の根のような姿、異形と呼ぶにふさわしかった。
それを見て菊田がつぶやく。
「自分の尻ぬぐいってのは大変なモノだな」
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