神罰隕石衝突編その3、新光皇暦紀元前20000年
大都市だ。住民たちは目まぐるしくうごく。だがこの世界の時間は止まっているようなものだ。同じことの繰り返し。停滞王国だ。都市区画の地域のひとつから音が漏れる。何かを叩くような音だ。一人の機械生命、この世界の住人だ。しきりに仮面のようなものを叩いている。彼は職人だ。ノック音。
「ゴレン、入るぞ」仮面をかけた機械生命の男。戦士種族だ。彼の名はサイクル。サイクルはこの都市の住人ではない。かつてこの部屋の住人に助けられ恩がある。「今、いいところなんだ」ゴレンと呼ばれた男が答える。彼は戦士ではない。
「シアが会いたがっていたぞ」「誰だ?そいつは?」「この前あったろう」「あ...?」サイクルはゴレンの許可を待たず、部屋へと入った。「調子はどうだ?」「もうすぐだ、神の仮面が完成する」
彼らがつけていた仮面には彼らの魂が残留し距離と時間を越えアームコアとしてのこった。だがそれはまた別の話。「大層な野望をお持ちで...」サイクルが呆れるが、ゴレンは意に介さない。「俺はエクジコウになるのだ!」ゴレンはこの地区の住民としては大人しいほうだ。
だが、今日は違った。彼の無邪気な野望に一歩近づいたからだ。「そうだ、あいつは戦士階級だったな!」「あいつって?」「あのお嬢さんだ!」「シアか?」「俺はあいつに頼んで図書館の禁書地区に行くぞ!」禁書地区にある希望の図書...。それが野望に足りないのだ。続く。
◎◎◎◎◎「今回もうまくいかないみたいね」アイリーン・サニーレタスは溜め息をついた。俺は彼女を励ます言葉を探した。「そんなことない」ポーリーとお嬢の声が重なった。「彼もいることだし、分からないぞ」まあ俺もいることだし...◎◎◎◎◎◎◎
図書館の禁書地区!三人、ゴレンとサイクル、そしてシアだ、は仮面の本を探しに歩いていた。住民には秘匿された知識はいくつもある。戦士でなければ触れることも許されない。戦士であろうとも異邦人のサイクルでさえもだ。ここはこの世界の知識が集められている。
ゴレンの目的は仮面精製の禁制法だけではない、この世界の秘密そのものだ。邪神、それに関する知識だ。そして...。不自然に本が落ちようとする、不気味な本だ。それ事態が何かの意思に操られ堕落への道へと彼を導こうとしている。俺はその本を抑える。おちぬようにだ、だが運命は曲げれぬ。
黒い本が落ちて開き、シンギュラリティ、イグドラシル、トリニティと書かれたページが開かれる。"いっしゅうめ"には存在しなかったものだ。本来この知識は彼自身が導いたものだ。しかし彼女はその自身の記憶を封印した。自分自身を救うために。故にこの"にしゅうめ"に現れた非物質存在。
ゴレンがはっとする。何かを思い出したかのように。俺はサイクルを見た。彼もまた同様に狼狽しているようだ。しかし、シアは言った。「もし、願いがひとつ叶うなら何を願いたい?ゴレン」ゴレンは「そんなものはきま」と言いかけ、少し考え込む。非物質の本は興味を妨げられ不自然に消失した。
「エビが跳ねて島が沈む、という格言があった」ゴレンが言う。「なんの話だ?」「小さな行動が大きな結果の因子になっているということだ」「それで?」「俺はそういう細かいのは嫌いだ、全部吹っ飛ばして最初から大きなことがしたい」「じゃあさ、もし世界が滅ぶとするね?」
「願いごとで救ってよ」
彼は暗い暗い都市の奥底へと来ていた。冷たい声が響く。「如何様だ、ここはおまえのようなものが来る場所ではないぞ」雷光めいた光が連続しゴレンを威圧する。「帰るのだ...」冷たい声が促す。「帰らぬ」ゴレンが虚空に向かって叫ぶ。「俺が何者か理解しておらぬと見えるぞ?」
ゴレンが邪神の名を虚空に告げた。「分かっておるというのなら尚更解せぬ、俺との関わりはただお前を破滅に導くのみだぞ。帰るのだ...」邪神の冷たい声がゴレンに忠告する。「協力しようというのだ」また稲光。「協力などいらぬ」「仮面が欲しいのですよね?」
「…」「少し待ってください、あんなモノより素晴らしいモノを用意して見せましょう」そうやって邪神に興味を持たせたというのか。だが、「興味はない、去れ。お前を待っているものがいるだろう」俺はゴレンに帰還を促す。「さっきからおかしくないか?」
◎◎◎◎どういうことだ、貴様。そうかマキータ・テーリッツ。敗北者め。サイクルどもと組んで俺の記憶に干渉しているのか!無駄だ、いくらやろうとも過去は変わらぬ!俺はエクジコウだ!俺はもうゴレンではない!あの都市のようにこの惑星も滅ぶがいい!俺は、俺は変わらぬ!
邪神とサイクル、シアがゴレンの周りにたつ。「小賢しいことをする、いくらやっても無駄だ。俺はもう変われぬ」「本当に?」「このまま、破壊を繰り返すのか。ゴレン?」ゴレンが頭を抱える。「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ、うわああああああ」
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎「私は間違っていたと思う?」アイリーン・サニーレタスが尋ねた
現実に俺は引き戻される。アキトのタイラントがエクジコウの気を引いた隙に取りつき記憶の中に入ったが、ゴレンを引き戻すには至らなかった。思えば過去のアプルーエでのこともこれのテストだった?「ついてこい」エクジコウが言った。エクジコウのデウスエクスマキナが北へ向かう。「俺も連れていけ」
デウスエクスマキナが残ったほうの手を俺のダークサードに手をさしのべる。「良いだろう、最後を見届けるがいい」デウスエクスマキナが北へ向かって加速、タイラントが追う。空を見れば"ディバイン・パニュッシュメント"がどんどん大きくなっている。目標はリズの首都だ。俺の故郷だ。やがて北ゴレンの海で三機のアームヘッドは停止する。ダークサードは海面上に軟着水し、停止する。デウスエクスマキナがタイラントのほうを向いた。「ホワイトノート...」
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