パニッシュメントその11、新光皇暦2008年
カッフェ。ウエイトレスが注文を取りに来る。「ハッピードーナツセット五人前」「アイスコーヒー、一つ」俺たちはあれからまたしばらく旅をした。もはやムスタングは襲ってこず気楽な旅だと言えた。だがエクジコウの襲来は一刻一刻と近づく。「ファントムっていうアームヘッドを知っているか」
不意に幸太郎が言った。「ファントム...?」「人工知能搭載型無人アームヘッドだ」「それがどうかしたのか?」「村井研究所のライバル菊田重工のファントムがエクジコウと交戦したことがある」「それが...」「そのファントムの名はラグナロク、スカージ同様にセブンシスターズだ」
「スカージと同格のアームヘッド...」「それをエクジコウは撃退した」「奴はスカージよりも強いのか?」「どこで彼が撃退されたかわかる?」ウエイトレスが話に割り込む。「誰だお前?」幸太郎の口にドーナツを突っ込みウエイトレスが幸太郎の質問に答えた。「私はエイワズ、人間型ファントムよ」
「人間...型?」「アームヘッドはもうこれだけのサイズに小型化できるようになったわけ」「じゃあ一体誰がしゃべっているんだ?」「私よ!私自身よ!私はもう一個の人格だわ」「失礼したな...」俺は困惑する。融合?それとも?「まあいいわ、ニンゲンに私たちの気持ちはわからないわ」
「モグモグ...確かにエクジコウがトンドルにいると言うはなしは何度か聞いたが、お前がわざわざ伝えてきた意味は?」エイワズは胸元を見せる。メイド・イン・キクダの刻印。「ムライにも手伝って貰いたいわけ。すでにやつらの手先がやって来ているわ」
村井研究所と菊田重工はライバル関係にもあるが、ファントムの共同開発など協力している分野もある。御蓮にある研究所、そこに俺たちは来ていた。「くー、久しぶりの御蓮だぜー」幸太郎が背を伸ばす。研究所のシャターが開き中へ入る。エイワズに研究員達が挨拶する。
「もう、人間型ファントムって受け入れられているのか...」「ここではね、進んでいるでしょう?」アームヘッド格納庫へと向かう。「ファントムの他に研究していた新型を届けて貰いたい」白いアームヘッドが目に入る。"バルドル"。「バルドルは神話機関搭載型アームヘッド、そして複座機」
「バルドル...」「ホッドミーミルの最終機、アームコアから直接エネルギーを取り入れ、ダブル調和システムを試験導入しているってお父様、菊田武蔵博士が言っていたわ」「俺たちに乗れるのか?」「パイロット互換調整が可能で他のアームヘッドとは違うの」「なんだそれは...」
◉
「あなた方に戦わせたくない人達がいるみたいね、この機体はお嬢さんに渡してと言う算段よ」「雪那にか」「どうして?誰が?」「さあね」...そして、バルドルに乗り戦場に向かうと巨大なアームヘッド。天まで届くかのような巨木。俺と幸太郎はアームヘッドを渡し決着を眺めた。
ムライユキナの気迫に気圧された俺たちはバルドルを明け渡した。だが複座機には二度と乗るまい。とくにコイツと一緒は二度と。
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