パニッシュメントその5、新光皇暦1215年

...ムスタングは、特異点のほうの俺を狙っていたムスタングだ。この時代のムスタングはパトリシアと呼ぼう。まず敵を見定めようとしていた。「殿はご乱心じゃ、ワシは嫌じゃ、殿は妖怪に操られている」「そうじゃ、ワシも殿が化け物と会話しているのを見た」「なによりあの術、恐ろしい」狂気...。

  


ここは御蓮の船団の旗艦。長い旅の疲れからか厭戦感情が高まっていた。「主君を裏切るのか?」「白樺!おぬしはまだそんなことを言うのか?あれはわしらの御蓮をも滅ぼしかねん!」「今しかないのじゃ!」兵士たちにムスタングの姿は見えぬ。そうさせているのだ。ムスタングはアマナの部屋と向かった。

  


それは...俺がもし、生身の状態出会ったらと思うと恐ろしい。蠢く肉塊に焦点の合わぬ無数の目、異次元からとびだしてきているかのように歪む輪郭、そしてそれは喋った。「yっっkじゅhmじうyhんvhtgmぬmk、m、mthgんfh、mんんgbっfjbvhmk、」



  


「お前がアマナか」ムスタングが言った。その異形の存在のそばに座した男がいた。「ほう、こやつをみて臆さぬとは貴様もモノノケの類いか?」「俺は未来から来たムスタング・ディオ・白樺」「ほうウツケか、なるほどな。さてなんのようだ。はて、白樺と?あやつの関係者か?」「そうだぞ、お前は滅ぶ」

  



「ハハハ、それは面白い、誰が滅ぼすのだ?お前か?」「時間の特異点がお前とその代替特異点をこの世界から放逐するだろう」「ほう、この化け雲のことも知っていると申すか」その時だった。部屋の扉が蹴破られ兵士たちが乱入してきた。兵士たちの多くはその代替特異点である化け雲を見て失神。「っhyhj」

  


「いいぞ、皆食ってよい、もう兵など、人間の兵など要らぬと思っていたところだ」「hgっhkんじゅんk、」化け雲から肉片が分離、多数だ。歪んだ輪郭も広がりこの宇宙を侵食しているかのようだ。化け雲とその肉片が部屋を船を壊し打ち破り兵士たちに襲いかかった。ムスタングはそこから逃げた。

  


一人の兵士が溺れていた。「殿。...殿。いったい?」白樺だ。縛られている。肉片は動いているものを積極的に襲い、縛られているのが幸いした格好だ。ムスタングは唯一の生き残りであろう白樺をつれて、陸へと戻った。

  




一人の少女が浜辺を歩いていた。ムスタングは姿を消しその様子を見ていた。パトリシアは思案していた、悩むときはいつもこの人気のない砂浜を歩くことにしていた。この海の向こうから新光皇、アプルーエ皇帝の称号"ムスタング"を持つものがやって来た。その事に思いを馳せているのであろうか

  


パトリシアは気づく。浜辺に漂着した一人の男に、船団唯一の生き残り白樺だ。ここまで運ばれてきたのだ。しかしパトリシアは気づいていなかった。水平線に僅かに見える影に。つづく。

  




パトリシアが白樺に声をかける。「大丈夫ですか」「ううう」白樺は傷こそ浅いが、あの怪物を見たショックもあるのか、疲れきっていた。「私はパトリシアです、あなたは海の向こうの人ね。そういう感じ」「ううう」言葉が通じていないのだろう。俺は両方分かるが。「...パトリシア」

  


かろうじて名前だけは聞き取れたのか。白樺が反応する。ムスタングが「ポーリーでいいぞ、マキータ」ポーリーが二人に近づく。俺に話しかけた?俺の記憶を覗いても面白いものなどないぞマキータ。俺を消すのか?できたらとっくにやっているぞ。俺がなぜお前を狙うのか見ているがいいぞ。...。

  


白樺に俺たちの言葉を喋れるよう精神をいじくったぞ。どれだけのことができる?見せてあげる必要はあるか?そうだな、それより...。ああこのあとのことだな、おまえも気づいているな。

  


「あなたが助けてくれたのですか?」「え、言葉分かるの?」「急に意味がわかりはじめました」「大丈夫?」「ええ、それより」ズポァと水しぶきの音。「え」「危ない、パトリシアさん!」船を襲った肉塊だ。追ってきたのか?無数の目が二人を、みた。「タベル,タベル」喋った!肉塊が襲う!

  


触手が上から二人を捕らえようと迫る。パトリシアは白樺を弾き飛ばし、立ち上がった。そして、触手をつかんだ。ブシュウウと煙が触手をつかんだ手から出てくる。「ANGYAAAAAAA」苦悶の叫びを上げた。肉塊が。「俺はシリアス、お前が俺を消してくれるのか?」パトリシアの金の髪が黒く変色。

  


肉塊を逆にとらえ触手を溶かし切断、パトリシアは肉塊の目玉を抉る。「悪いなお嬢ちゃん、しばらく肉体を借りるぜ」「お前は?パトリシアさんは?」「はじめましてだな、自己紹介はまたあとだ、見ろ」水平線に大量の影!

水平線の無数の影は迫り、徐々にその姿をあらわにしてくる。怪奇肉魂の群れが触手を物理的に伸ばす。その上、一部、人型に近い個体も見える。多くは内臓のような塊の集合に無数の目と腸のような触手をもつ不定形な形状だが、それが人間の形のように集合している。「タベル」

  


「なんだあれは...、変化しているのか...」へんげ、白樺の言葉は的を射ているかもしれない。その時のポーリーはそう考えた。こちらの宇宙に適応して変化し始めているのだ。現にこちらの言葉をうわごとめいて繰り返している、我々の時代で見た個体には見えなかった傾向だ。奴等は"狂い"始めた。

  


「おいお前ら、少し手荒な真似をするぜ」パトリシアの影が二人を包み、大きく変化した。アームヘッド?いや依型神徒だ。ヨリガタカノト?「お前に名をつけよう、ブラックシープだ」影はアームヘッドほどの大きさをもつ実体となった。ブラックシープが腕を振りかざす、光線が指先より放たれ怪物を焼く。

  


前衛がたおれても構わず怪物は迫ってくる、数が多すぎる。ブラックシープを囲み怪物が飛びかかる。多くの肉塊がブラックシープを包む。一瞬の静寂、その後に怪物が蒸発した。数分の後、怪物の群れをブラックシープは葬っていた。「やったのか」「いや、町に数匹逃げた、それなら早くいかなきゃ」

  


「パトリシア、起きていたのか?ええ、人のからだを勝手に…。すまない、俺はこうでもしなければ動けない。仕方ないのね」男声と女声で一人会話するパトリシア。白樺は混乱した。「え、えっと行きませんか」「そうだね」

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