リベンジ後編、新光皇暦2000年

俺は深い深い闇へと沈んでいく、このアームヘッドには特殊なアームコアが使われていた。アームコアとはアームホーンのもととなる古代のアーティファクトだ。そしてこのアームコアは古代の遺跡から発掘された伝説級のアームコアだとされていた。そしてこのアームコアは。

  


あらゆる人間を受け入れた、前任者にいたってはゴリラだ。しかしこのアームコアを使ったアームヘッドに乗った人間はみんな死んだ。故に災い魔と呼ばれた。初めて乗った時パイロット席を入念に消臭すると、覚醒の為の意識沈降を開始した。かつて見た樹海の景色を思い出す。だが災い魔、スカージが見せるのはただただ闇だけだった。

  


これも報告の通りだ。音のない奈落。だがその深淵で俺は聞いた。"おのれ...おのれ..."スカージは冷たい声で何かを呪っていた。"…し…ね…し…ね…"スカージは憎悪の感情をむき出しにする。「スカージ、俺に力を寄越せ」俺はスカージに声をかける。"誰だ?"

  


“また余の養分になりに来たか?愚かなニンゲンよ、余は他のアームヘッドとは違う、余は皇じゃ"「俺はセイントメシアを倒したい」"ほほう"スカージが笑う。「力を寄越せ」"ククク、いいぞお。力をやろうではないか?お前はテーリッツというのか、マキータ・テーリッツ"「なぜわかる?」

“余はもうお前だ"俺とスカージは融け合い始めている。


目の前にヴァントーズが五機、俺はスカージに乗り、それらと対峙する。スカージのアームコアは連邦の最新機体ゾディアークに搭載されているが、その名前で呼ばれることは少なく専らスカージと呼ばれていた。結局連邦は帝国に戦線を押し戻され敗北、十年前に休戦した。

  


帝国に勝利をもたらしたのはたった一機のアームヘッド、セイントメシアだ。多くのリズの英雄を葬りさったセイントメシアはブラッディフェザーと呼ばれ、恐れられた。スカージはそのセイントメシアを倒すために作られたアームヘッドだ。背部の特徴的な五本の剣が五方向に飛び出たユニットはスターシステムとよばれている。

  


スターシステムはいわばアームホーンの毒矢だ、通常の銃火器が通用しないアームヘッドに対してアームホーンを投げ槍の如く飛ばしアームヘッド五体を同時に葬る、対セイントメシアの兵器である。スカージにヴァントーズが飛びかかる、スカージは五方向にホーンスラスターソードを飛ばし五体同時にアームキルする。「スカージか...」俺は呟く。

  


ならば、連邦でないものに災いあれ。  


俺は帝国首都宮京に来ていた。帝国と講和条約を結ぶ大統領を護衛するためだ、その大統領なのだがあのガール、ガール・ポッチがリズの現大統領だ。リズは複数の国家の連合であり、その全体の大統領がガール・ポッチである。ガール・ポッチはヒレーのこともあり俺を護衛に選んだ。


その講和にテロリストが来るという噂があり、俺はスカージを伴いここへやって来た。護衛任務とは言ってもSPのようにつきっきりではなく敵性アームヘッドをスカージで撃退するのが俺の主な任務だった。

そしてだからこそ宮京のまちをぶらぶらするヒマが俺にはあったのだ。


宮京には古い木造の建物が多くニューストライプスとはまた違った風情を持っていた。

神聖プラント帝国は移民で成り立っておりリズ人の俺もとくに目立っていたわけではない。俺は少し帝国正規軍の採用するアームヘッドでも見ようと軍の施設に向かっていた。そこの近くには大統領護衛隊のアームヘッドも止めてあり有事に駆けつけるには格好の場所だった。俺はまちを回ったもののとくに興味をひくものはなくここへ帰ってきたのだ。


さまざまなアームヘッドがそこに配備されていた。ARM-003弥生、カブトムシといわれてたあいつだ。ARM-009長月、輸送用の新型だ。ほかにも轟天重工から少数採用しているサイザ系のアームヘッドや見たことのない赤い奴、航空機があった。「君もアームヘッドに興味があるのかい」

声をかけた男は若い御蓮人だった。身なりは良く、実はマキータにも見たことのある顔だった。「ええ、連邦ではパイロットをやってます、村井社長」


「名が売れているようでうれしいよ、テーリッツ大尉」「なぜ俺の名前を?」「あの新型のアームヘッドのパイロットだろ?わすれんよ」「スカージについて聞きたいんですか?」「ただとは言わんよ、うちのアームヘッドの情報くらいやる」冗談っぽく村井はいった。


「たとえセイントメシアでも?」村井は一瞬はっとしたような顔をした。「アレは最高機密ですよ」「うちのスカージもそうです」「なんかさめちゃったな、まだ時間はあるんだろ。

少し座って話でもしないか?」断っても良かった。だが少し村井の態度が気になったのだ。


カフェで二人は話していた。「こんなところにいてもいいのかあんた」「お互い様だろう、私の場合社長といってもお飾りだし、会議までヒマなんだ、せっかく講和したんだし連邦のアームヘッドについても知りたい」「そんな情報持ってないよ幸太郎さん」名刺に書いてあった名前で呼んでみた。

「下の名前で呼んでくれるのかい?マキータ?」「実を言うとヒマで話す相手もいなくて困っていたんだ」


いわく付きのアームヘッドに乗ってからテーリッツは避けられ気味だった。異国の地であったこの男ならそんなことも知らないだろう、なぜか避けられてるのはこいつも同じみたいだし。いろいろな話をした、村井は実を言うと無理矢理アームヘッドに乗せた父を恨んでいる話、村井の娘の話、俺の貧民街時代の話、かつての戦い、ヒレーの話。


俺がセイントメシアの話をするとき村井が悲しそうな顔をしているのを忘れなかった。



そしてついに村井の乗っているというアームヘッドの名を聞くことはなかった。





情報通りだ、テロリストの攻撃をあえて放置したのはスカージの力を内外に示すためである。スカージはスターシステムの他に強化装甲マーダーマスターを装着したフルアーマーモードである。アームコア反応は2,3,7,4,1,3,2といくつかバラけて複数。

  


ヴァントーズと弥生の混成部隊、テロリストが旧型機体を奪い武装。スカージは両肩のサブアームを展開、二機を先端で挟む、そして持ち上げ二機をぶつけお互いの角でアームキルさせ破壊、放り捨て、さらにほかの反応へ向かう、次は七機集まっているところだ。七つの反応と接触した他の反応が同時消失。

  


五機のレギオス、弥生、ヴァントーズの部隊に衝突、スターシステム、を発射せずそのまま回転させアームキルする。磁力制御によりスターシステムを回収していると不振な音。パチパチパチ。

  


セイントメシアだ。

セイントメシアと対峙するスカージ、「拍手うまくなったろう、マキータ」「貴様は村井...?社長自らアームヘッドにのっているとはな」スカージがスターシステムを展開する。セイントメシアが迫る。十年前の機体ながらセイントメシアのスピードはスカージより上だ。「なぜ我々が戦う?」

  


奴の問いには答えない!ホーンスラスターソードの二本を両手に持ち迫るセイントメシアに構える。だが二機の間に一機のアームヘッドが割り込む。灰色のアームヘッドだ。「皇帝?」村井が驚愕した。皇帝?帝国の皇帝か?自らアームヘッドに乗っている?

  


大きく飛び出た一対のアームホーンを持つ機体から声。皇帝の声か?「なぜ、戦うのだ、我々はもはや敵同士ではない」「そうだ、我々の敵はセブンシスターズだ」と村井が返す。そのときだった。冷たい声がした。”ククク、そうだなあ敵はセブンシスターズだなあセイントメシア、そうそいつがセブンシスターズだぞ"

  


"ククク、久しぶりだなあ兄弟"「スカージか...」皇帝が言う。「どういうことですか?このアームコアは一体...」村井が戸惑い声に疑念が宿る。"おやおやこいつに伝えてなかったのかあ?我々はリズ連邦が見つけた七つのアームコア、セブンシスターズだ"頭のなかでごちゃごちゃと五月蝿い。

  


俺はスラスターソードを皇帝の灰色のアームヘッドに叩きつける、灰色のアームヘッドは倒れる、これで邪魔者はいなくなった。”いいぞおテーリッツ、このままとどめを”「黙っていろ、セイントメシアは俺が倒す」セイントメシアはいったん距離をとる。だが、そのまま離れさせない、ソードを三本とも飛ばす!


  


一本目、足のアームホーンで落とされる、二本目、鎌に落とされる、三本目、いける!だが、不自然に落ちる。「急になんだ?これは?」

  


「マキータ」小賢しいセイントメシアの声がする、惰弱な人間とは違う、余には貴様の調和など効かぬ。「余は皇、マキータなどではない」久しぶりに体を手に入れた、我が体は徐々にかつての肉体を取り戻す、装甲が割れ剥がれ落ちる。余の魂とこの機械の体、マキータの精神が融合。新たな肉体として顕現しこの地に神として君臨するのだ。「アームヘッドと融合をしているのか!?」セイントメシアの戦慄が聞こえる。

  


「ヘルヴィジター」余の影から手が延び、一本の大剣をとる。セイントメシアが迫る、だが、影の手の剣が払い落とす。いいぞお。馴染んでくる、やはりテーリッツが余の触媒に相応しかった、かわいいあやつには余の復讐に付き合ってもらおう。せめてもの礼だ、あやつの復讐から片付けてやろう。

  


「まずは世界征服だ、次は世界を救ってやろう!」セイントメシアはもうたてまい。「世界を救う...?」「知らなかったのかセイントメシア?我々を呪う存在、そこで倒れているものが警告した敵の存在を聞かされていなかったのかあ~?」「セブンシスターズではないのか?それは...?」「違う、奴の名はエクジコウ」

  


「エクジコウ…?」「ふん、もうたてまい、さあ楽にしてやる、うっ」なんだ?体が動かぬ、「今だ!」テーリッツ!なぜ余の邪魔をする!セイントメシアが最後の力で突進、頭部の角で余の体を貫いた。「まだだ、これで、やつは倒せない、俺が動きを封じている間に頭をねじきれ!」セイントメシアが影のものの首をつかむ!

  


俺はいったいどうしたのだ。ヒレーの仇が目の前にいるのに、"テーリッツ"、確かに復讐はなにもうまない、"テーリッツ"、ヒレーはセイントメシアを殺すことを望むか?"テーリッツ"、ヒレー...。急に意識が...。闇に沈んだ。

  


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…こんなにたくさんのドーナツ食べられないよお。「ゆっくり食べていけ、時間はたっぷりある」半透明の義父が姿を見せる。ヒレー、元気だったのか?「ああ、向こうでよろしくやっている」それはよかったぜ。いっしょにドーナツどうだ?「いやもう時間がない、どうせなら、あの子といっしょに食べなさい」ヒレーが消える。

  


「大丈夫か?」俺は目をさます。「スカージは…?」「やっつけたぜ」相手の顔を見る、村井幸太郎だ。「終わったのか?」「まだまだ終わりじゃない、お前の復讐もな」幸太郎は俺の目を見た。「いや」俺は何か言いかけたがやめた。「え?」「俺はドーナツを食べて楽しく暮らすぜ」もう復讐は終わりだ。そう自分で言い聞かせるかのように。「え?」「いっしょに食おうぜ」


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