3話 チェックメイト

あの後直ぐに、シャンデリアの残骸の元にご両親がやって来た。そして、何故シャンデリアがこんな事になっているんだ?と怒気混じりに聞いてきた。

マリアンヌ様はご両親に何が起こったのかを具体的に説明した。

するとそれなら仕方ないかと、シャンデリアを破壊した事は許してくれた。想像以上の慈悲深さだった。こんな優しいご両親を持ったマリアンヌ様は幸せ者だと思う。

あと、マリアンヌ様はメイジを誘拐している組織と戦うつもりでいる事もご両親に話した。秘密にしておけばよかったのに……。

これは流石に反対された。マリアンヌ様はご両親を説得しようとしたが、時間が浪費されるだけだった。

最終的にマリアンヌ様はご両親に指示魔法をかけてて強制的に言う事を聞き入れさせてしまった……。

彼女はこれも正義を執行する為だから仕方ないと言うが本当にこれでよかったのだろうか……。



こうして、面倒事は一応終わりマリアンヌ様の自室で情報収集が始まろうとしていた。

マリアンヌ様の自室に、私、マリアンヌ様、指示魔法によって指示以外の行動をとれなくなった来客者の生き残りが入室した。


マリアンヌ様はベッドの上に乗り、正座を整えて、


「ラフィネ様、立ちっぱなしでは疲れてしまいますわ。私達は座っていましょう」


「お気遣いありがとうございます」


私はマリアンヌ様の隣に正座した。本当は椅子に座りたかったが、椅子は1つしかないし仕方ないか。


「これから貴方がご存知の情報を色々と話してもらいますわ。

ではまず、貴方達は『どこからともなく現れる』とお聞きしているのですがそれのタネを教えて下さいまし」


それは私も気になっていた。


「我々の仲間の一人に、お前達が生活しているこの世界の街並みや地形を完璧にコピーした空間を作り出す事が出来る使えるメイジがいる。

尚、そのメイジはその空間とお前達が生活している世界を繋ぐ移動地点を任意の場所に作る事が出来る。

移動地点は大量に作られており、我々はその移動地点を使いこの世界に現れていた」


指示に従う事しか出来ない来客者は機械的に語った。腑に落ちた。


「なるほどね。では貴方達の目的を教えて下さいまし。メイジを誘拐して何がしたいんですの?」


「この世界の住民を皆殺しにする事が目的だ」


……物騒な事を平坦に言う様に狂気を覚える。彼女も少し同様しているように見えた。


「……何故そんな事を?」


「私達に指示を出していたリーダー曰くこの世界の過去の出来事が過去が関係しているそうだ」


「何で『曰く』なんですの?貴方はその過去の事をご存知ないのかしら」


「私達は昔の記憶がないんだ。何故だかは知らないがリーダーが記憶を操作する事が出来るメイジに記憶を消すよう指示しているみたいだ」


……嫌な予感がする。


「なるほど。では奴隷の事もご存知ないという事ですの?」


「奴隷の事?どういう意味だ?」


「ご存知ないんですのね……」


彼女は憂鬱げにそう言った。私も非常にがっかりした。全てが分かると思ったのに……。


マリアンヌ様は視線を私の方へ向けた。


「では、ラフィネ様は何かご存知ですの?この世界の過去のいざこざのこととか」


私にバトンが渡されたが、答えられかった。何故だかは分からないが、この世界は過去に関する情報が殆ど残っておらず、謎に包まれているのだ。

ありえないことに、ここ数百以上前の事は皆知らないし……。


それを彼女に話すと彼女は少し不機嫌そうに、


「じゃあもういいですわ。話を変えましょう」


申し訳なく思う。マリアンヌ様は再び情報源の方を見て、


「さっき貴方が仰ったリーダーとはどんな人物ですの?」


「あまり話した事がないし人柄はよく知らないのだが、魔法を無効化する事が出来るメイジだ」


「では、その方が貴方達の脳から消された情報を知っている可能性はありますわよね?

何も知らない人間が指示を出しているとは思えませんもの」


「ああ、何か知っていると思う」


「ではそのリーダーは普段、貴方がさっき仰ったコピー空間内のどこにいますの?」


「分からない。基本的に私達の前に姿を現さないんだ」


「『基本的に』といいますと?」


「姿を現わす事もある。私達は毎日20時にメンバー全員で物体複製メイジが複製した、貴族の帝国の国旗を

燃やす儀式を催している。その時に姿を現わす」


悪趣味だし不快だ……。というかそんな事をして何の意味があるんだ。彼女は顔を歪めつつ、


「なるほど……。その儀式はコピー空間内のどこで行われていますの?」


「この近くに噴水やベンチがある広場があるがそこだ」


「分かりましたわ。では話を変えますが、メイジを誘拐している組織には、魔法無効化メイジ、記憶操作メイジ、空間をコピーするメイジが所属しているそうですが、

それ以外にもメイジは所属していますの?」


「ああ。物体を複製する事が出来るメイジ、炎を生成する事が出来るメイジ、人を即死させる事が出来るメイジ、死者を蘇生する事が出来るメイジ、

などが居る」


「それなら問題なさそうですわね。では今日の20時にそこに乗り込み、リーダー、ついでに他のメンバー全員を討ちましょう」


……!?彼女の言葉は私の予想の遥か先を行く内容だった。付いて行けない……。私は必死に話について行こうとする。


「討つってどうやってですか……?相手には魔法を無効化出来るメイジがいる訳ですし、指示魔法は通用しませんよ?

また、即死魔法を使われて即死してしまうのでは……?」


「だったらそれらの魔法を使わせなければいいだけの話ですこと」


どういう意味だろうか?





「本当にどうなっているんだろうね……計画開始の日にマリアンヌが何故か別人の様に変わっているし、

物語も大幅に変わってしまっている……!」


歯を食いしばりつつアリストはそう言う。フロワ陰鬱げに、


「ねえお兄様、これって間違えなくあいつらの仕業よね?」


「そうだろうね……!大人しく僕等の言うことだけ聞く傀儡でいればいいのに……」


「やはりね……。というかお兄様、私達はこれからどうすればいいのかしら……?

人生最期の楽しみを台無しにされてもう生きる気力が湧かないのだけれど……」


フロワは希死念慮を感じ初めていた。





20時、街灯の明かりで照らされた噴水広場をコピーした空間。

その地面には、白い背景に、金色の王冠が描かれた巨大な国旗が広げられている。

その一歩前に、合計40人くらい居るメンバーが横一列で並んでいる。そして列の中心に位置する炎生成メイジが一歩前に出る。



恒例の儀式が始まろうとしている。


俺達から全てを奪った憎き、貴族の帝国の国旗を焼き払う儀式である。

国旗が燃え盛る様は気持ちいいし、リーダーである私を始めとしたメンバーの大半が毎日楽しみにしている。



「点火しろ」


私がそう指示すると、


「はい」


と端的に答えた。すると、


「うわぁぁぁぁぁ!」


何事だ……!?その途端点火役は国旗を見ながら叫び声をあげた。


俺も国旗へ焦点を合わせると、


「くそっ!なんだこれは!」


本気で胸糞悪く、声を荒げてしまった。国旗の中心に、今朝の作戦に失敗した3人のバラバラ死体が現れているのだ……!

彼奴らの仕業か……!!こんな事が出来るのはあの二人しかいない……!


他のメンバーも立て続けに国旗の方をみて、叫び声を上げたり、吐き気を抑えるように口を手で塞いだりし始めている。


折角の儀式が台無しだ。ふざけんな。


マリアンヌとラフィネへの怒りが渦巻くあ中、ある事に気付き、焦燥感に駆られた。これではいけない……!

こんな精神状態では魔法を使えないだろう。これが二人の狙いという事か……!

何とか精神を安定させなければいけない。深呼吸をしようとすると、


「ごめんあそばせ」


「こんばんは」


最悪のタイミングだ。国旗の後ろに現れやがったのだ……!忌々しい二人が……!

落ち着かなければいけないのだがはらわたが煮えたぎって仕方がない……!


「よくも折角の儀式を!!」


感情のままに怒鳴った。我慢が出来なかった。だが彼女は落ち着きながら、


「あら?そんなに怒ってしまっていいんですの?」


俺の今の状況を理解した上での皮肉を言った。反論できない事が悔しいし、精神を安定させなければいけないのに落ち着かない……!イライラしている。駄目だ、魔法が発動出来ない……!


「チェックメイトですわね」


マリアンヌは手を前に突き出した。


「皆様、そこから一歩も動かないで下さいまし。魔法の使用も禁止しますわ……!」



許せない……許せな………。







「やりましたわ!成功ですわね♪」


彼女は音符を付ける様に言うが、正直共感出来ない。


「これでよかったのでしょうかね……。仲間のバラバラ死体を送りつけて正気を失わせる作戦だなんて……。他の方法はなかったのでしょうか?」


「ありましたが、この作戦が一番確実性がありましたの。って暗い顔をしないで下さいまし」


暗い顔をしないで下さいましと言われても、私達は酷い事をしてしまった事は確かだし少し罪悪感がある。仕方がない。

あと察したが、彼女は非常に正義感が強く、正義を貫く為なら何でも出来てしまうのだろう。

私はそんな彼女が理解出来なかった。


「あの、ここは喜ぶ場面ではなくて?だってメイジを誘拐している最低な集団を壊滅させる事が出来たんですのよ?私達の手でね。

また、この集団は何故この世界の住民を皆殺しにしようとしていたのか等の真相も分かりますわよ?」


不思議げにそう言った。まあ確かにそうだった。私ももう少しだけ前向きに考えてもいいかもしれない。


「そうですね。確かに今は喜ぶ場面かもしれません。貴女のおかげですし感謝しています」


礼を言うと彼女は、


「私だけの手柄ではありませんわよ?だって貴方の瞬間移動魔法がなければこの作戦は成り立っていませんでしたもの」


なんだか褒められているみたいじゃないか。貴方も役に立っていたと。喜びを感じる。

では今が好機かもしれない。


「あの、マリアンヌ様……」


「何ですの?」


機会がなかったから出来ていなかったが、もし友人と協力して何かを達成したら、一度はやってみたかった事があった。

少し恥じらいはあるが、


「ハイタッチしませんか?」


「いいに決まっているではないの。可愛いらしいですわね」


彼女は寛容に口を歪めた。そして私が顔の辺りまで手を上げて彼女は私の手をぱしっ、と叩いた。


小さな夢が叶った。純粋に嬉しかった。


「そういえば今思い出しましたが、私達にはまだやる事が残っていますのよね」


「やる事とは?」


「誘拐されたメイジ様方の救出ですわ」


あっ……という感じだ。それは頭から離れていた。

なんて思ったその時、


「それは私が変わりにやっておいたのです」


ありえない声が聞こえた。

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