4話 明かされる真相
驚いた。振り向くとそこにはシュシュ様が居た。
「どういう事ですの……!?何故貴女がここに居ますのよ」
私はシュシュ様を睨みつつそう言った。この状況でここにいるという事は敵の残党と思わしい。
「貴女達のお手伝いをしに来たのです。ってそんな怖い目つきをしないでほしいのです。私は貴女達の敵ではないのです。
信じてくれないのなら私に『そこから一歩も動くな』みたいな指示をしてもいいのですよ」
敵のセリフとは思えないセリフだった。彼女は本当に私達の敵ではないのか?
というか何故彼女が指示魔法の事を知っているんだ?では、
「貴女は何者なんですの?」
「実はこの世界にはいるのです。本当の神様がね。それで私は、神様がこの貴族の帝国を作る時に邪魔者がいたから、その邪魔者を排除する為に生まれた生物兵器なのです」
「生物兵器ですか……?貴女はこの世界の住人ではなかったのですか?」
ラフィネも困惑している様子だった。
「あれは私のクローンなのです。私には兵器として色々な力が備わっているのですが、
その1つに自分のクローンを作る力があるのです。それで昔に作ったのですよね。懐かしいのです」
そう言うと彼女は何かを思い出したように、
「あっ、言い忘れていましたがマリアンヌちゃんにお手紙を差し出したり、ここに呼び出したりしたのも私なのです」
……!
「それは本当ですの?」
「本当なのです。もし嘘だったら私がマリアンヌちゃんが転移した事を知っている事と矛盾してしまうのです」
「それもそうですわね……」
確かにそうだ。私は彼女の言う事を信じる事にした。だがそれと同時に彼女に少し嫌悪感を抱いた。彼女の所為で私の人生か大幅に狂ったのだし……。
それはそうと彼女に聞きたい事がある。
「引っかかったのですが、貴族の帝国を作る時の邪魔者とは?」
「地球人なのです」
……!?
「つまりここは未来の地球……いや厳密に言うと未来の日本なのです。地球は新略されてしまったのです。
勘違いしているようですが、貴女は異世界転移などしていません」
……!!彼女が酷く恐ろしい事を言い出したのだから驚愕している。
だが筋が通っていない……彼女がでたらめな事を言っているとしか思えない。私は冷たい声色で、
「適当な事を仰らないで下さる……?ここは異世界ですし地球は関係ありませんわよね?
貴女は実際に二日前、『貴女は明日異世界に転移する』とお伝えしましたわよね?」
「いいや。異世界に転移させるとは言ってませんよ……。実際にお手紙には『貴女は明日異世界の"様な"場所に転移する』と書いた筈ですが?」
……!確かにそう書かれていた。認めよう。でもそれだけを根拠に信じろと?無理だ。
そう彼女の発言を拒絶していると、シュシュ様は独り言を言う様に、
「でもなんだかがっかりなのです。利発な貴女ならここは異世界ではないと気付いてくれると思っていたのですが……。不自然な点は沢山あった筈ですし……」
「不自然な点とは?」
その不自然な点について納得のいく解説出来たら信じてやろうじゃないか。
「まず、貴女は貴族の帝国にやって来たその時から何故か貴族の帝国の言語を理解出来ていた筈なのです。
それに加えて、私が着ているロリータ服、ラフィネさんが着ている執事服、コルマールの様な街並みなど、
この世界に存在しているものはどれも既視感があるものばかりでしたよね?」
反論出来ない……!確かに異世界に地球と酷似した要素が沢山あるのは不自然だ……。
「他にも、文明を築いている生物の姿も全く一緒なのです。これでもここが異世界だと思いますか?」
「うっ……!」
ここは異世界という固定観念に囚われすぎていたかもしれない……。ごもっともだった。ここは地球なのだろう……。
地球人は皆殺されてしまったのだろう……。私の祖父母様も、学校の先生も……。まただ。悲しみが目から溢れ出てきそうだ。でも我慢しないといけない……。
なんとか表情を保ち、話の内容を整理すると思った。彼女の話には疑問点だらけだと。
「疑ってしまい申し訳ありませんでしたわ。貴女は何故私を異世界……いえ、未来の地球に呼び出しましたの?その神とは何者なんですの?神は何故地球を新略して貴族の帝国を作りましたの?」
「では1つ1つ説明していては仕方がないので、順を追ってお話しするのです」
謎の真相が分かるのは嬉しい。だがなんというか、嫌な予感がする……。月に雲がかかり辺りが薄暗くなってきた。
「話は私達が今居るこの空間とは違う別の空間から始まります。
そこはこの世界とかなり似ていて、そこにはこの世界と同じようにメイジの概念が存在し、無から物体を生成する事が出来る双子の神様がいました。
あ、神様の正体は奴隷とかではありませんよ?本物の神様なのです。
その神は2人とも残酷趣味で、住民を意味もなく殺したり、拷問したり、悪逆の限りを尽くしていました。
住民達はそんな神を許すはずもなく、住民達と神で戦争になりました。
戦争は長い間続きましたが、最終的に神は負けました。そして神2人は別の次元に追放されました。
別の次元で双子の神は改心しました。今度は残酷な事はせず普通の世界を作ろうと決めました。
そうして誕生した惑星が地球なのです」
さっきまでの話は地球が誕生する前の話だったという事か。というか話が壮大すぎて付いて行けないのだけれど……。
そんな事を思う私を突き放すように淡々と話は続く。
「2人は長らくの間地球には手を出さず、観察を楽しみました。ですがある時、双子の兄は日本ですごく自分好みの小説を見つけました。
その小説のタイトルは『貴族の帝国』なのです。
小説の内容は、貴族達が何不自由なく生活している誰もが憧れるような世界に住んでいる女の子が、
仲のいい男の子と共に魔法を使って悪の組織と血みどろの戦いを繰り広げる羽目になったり、
貴族の帝国の地下では大量の奴隷を働かされているているなど、貴族の帝国の闇を知って絶望してゆく……という、
メルヘンな内容の小説と見せかけてメルヘンでもなんでもない感じなのです」
私の境遇にそっくりのストーリーじゃないか……。もしかしてその小説は私の転移と関係しているのか?
「双子の兄は地球を使って貴族の帝国の世界感を再現しようと提案したのです。
普通の世界を作ろうという気持ちはもう消え失せていたみたいなのです。妹は同意しました。そして、ある提案をしました。
それは、地球人を奴隷役にするのはどうだろうか?
という提案なのです」
繋がってしまった……。
「奴隷の正体は地球人という事ですのね……」
私は下を向いていた。
「そうなのです」
……受け入れたくない。でも彼女の言っている事は辻褄が合っている。だから彼女の言っている事は恐らく真実なのだろう。
辛いが彼女のいう事を受け入れるしかないだろう……。アレルギーのある食べ物を無理に体に押し込んでいるような感覚だ……。
「続きを話します。兄妹は私を始めとした生物兵器を量産し、地球を新略しました。
そして、地球を新地にして、そこに貴族の帝国を作ったという事なのです。尚、地球の歴史は兵器達に抹消させました」
「ひ、酷いです……。残酷すぎますよ……」
涙を浮かべ呟くラフィネに同感だ。あまりにも残酷すぎる……。どれだけ多くの人間が涙を流したんだろうか……。そんな事を想像すると泣きたくなる。
「兄は自分の好きな小説の世界観が生で見れて重畳でした。妹もまた、兄の喜ぶ姿が見れて重畳でした。
2人は幸せでした。
ですが幸せはいつまでも続きませんでした。貴族の帝国でおかしな事がおこり始めたのです。例えば、帝国内のあちこちの時間が停止してしまったりなどなのです。
兄妹は困惑し、犯人探しを始めました。犯人探しをしていると、兄妹が元いた世界から一方的に連絡が来ました。そして2人にこう告げました。
『元々超常的な力が存在しなかった惑星で無理に超常的な力を使うと負荷がかかり、
時間が停止した空間が生まれたりなどエラーが起こってしまう事がある。
あの時間が停止した空間はお前達がエラーを起こした結果という事だ。
エラーを放置したままその空間を使っているといつかフリーズし、空間全体の時間が止まる可能性がある。
自業自得だな。いい気味だ』
兄妹はこれを聞いて愕然としました。また、エラーを修復しなければと焦り、修復を試みました。
ですがどれだけ頑張っても駄目でした」
「待って下さいまし……では私達はいつ時間が止まってもおかしくない世界にいるという事ですの……?」
「そうなのです」
もう嫌だ……。こんな残酷な事知りたくなかった……。謎のままでよかった……。本当に後悔している。
「兄妹は今のマリアンヌちゃんとように絶望しました。死ぬ事にしました。
ですが兄は死ぬ前に1つやっておきたいことがあると言いだしました。それは、『この世界で貴族の帝国の物語を完全に再現したい』だったのです。
厳密に言うと、帝国内に盗撮、盗聴が同時に出来る装置を大量に仕込みます。
そして住人達に貴族の帝国の物語を再現させ、盗撮、盗聴装置越しにその様子を鑑賞したいそうなのです。
尚、自分達のクローンを物語に登場させたいという願望もあったみたいですね。そうして生まれたクローンがフロワ様とアリスト様なのです」
あの2人は神が作ったクローンだったという事か。
というか私達ずっと見られていたのね……。気持ち悪い。吐き気がする。
「そうして貴族の帝国のストーリーを再現する計画が始まりました。
まず兄妹2人の力だけでは力不足なので、地球新略の時に使った兵器達に計画を手伝わせようということになりました。
封印していた地球新略の際に使った兵器達の封印を解除し、計画を説明しました。
……ですが兵器達は流石に嫌気がさしました。封印から解除されたと思ったらまた命令かよ……と。
そこで兵器達は計画を完遂目前まで進め、そこで計画を破壊して兄妹を絶望させてやろうと企み始めました。
ではどうやって計画を破壊するか?と議論になりました。
そして物語が始まる前日あたりに主人公の性格を変えて、物語を思いっきり変えてしまうのはどうだろうか。
という案が出ました」
ということは、
「私が未来の地球呼び出された理由って……」
「察しの通りなのです。貴女は計画を破壊する為に未来の地球に呼ばれたのです」
「なるほどね。私は計画を破壊する役目を果たせているのかしら?」
「はい……!果たせているのですよ。元々貴族の帝国はもっと陰鬱で絶望的な内容だったのですが、
貴女は絶望に屈しませんでした……抗いました。この世界で繰り広げられた貴族の帝国は、貴族の帝国の原作とは大違いなのです……!
神は私達の目論見通り絶望しているのです!」
「それは良かったですわ……本当にいい気味ですわ」
「まあ、頑張って舞台の脚本と舞台を作ったのに役者がそれを無視して、舞台を全く別のものに変えてしまったのだから当然の反応なのですよね」
彼女はエクスタシーを顔に浮かべてそう言った。勿論私も同じだ。私欲の為に多くの人間を殺め、悲しませた外道が絶望しているのだから快哉だ。心に瘡蓋が出来てきた。
「あっ、でも油断は禁物なのですよ。貴方を貴族の帝国の主人公のように絶望させる為、神様が何か手を打ってくるかもしれないのですしね」
……それもそうか。
「気をつけますわ」
なんだか嫌気がさしてきた。戦いはまだ続くのか……。
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