第14話 後輩の想いⅡ

「――春輝先輩、中学の時から好きです」


 紅潮した頬と潤んだ瞳。いつもより増して魅力的に映る彼女に、僕の目は釘付けだった。

 何とか返事をしようと口を開くけれど、僕が何かを言う前に、穂波ちゃんが口を開いた。


「返事はいらないです。わかっているので。春輝先輩は好きな人がいますもんね」


 僕は穂波ちゃんに日奈のことを頼むときに全てを話していた。当然、僕の気持ちだって例外じゃない。

 だから穂波ちゃんは、僕が知らないところで僕に振られていたんだ。

 その事実に気づいたとき、僕は心が痛んだ。何故、気づくことができなかった。僕があんなことを頼まなければ、穂波ちゃんは傷つくことはなかった。


「多分春輝先輩のことですから自分のことを責めてるとは思いますが、それは違います。もともと、私の恋は叶わないんです。春輝先輩達を見て、わかりました。だから私の恋は、久しぶりに会ったあの日に、終わっちゃったんですよ」


 潤んだ瞳から、雫となって零れ落ちる言葉。今の穂波ちゃんは、滴り落ちる涙と同じように、口から出る言葉を止められないんだと思う。


「好きです。好きなんです、今でも。春輝先輩が他の人が好きだと知っても、諦められなかったんです。絶対に振り向かせてみせるって、そう思ったんです。でも、でも……! 相思相愛なら、互いが互いに向ける愛の大きさが私とは比べ物にならなかったら、もう無理じゃないですか。覆せるわけないじゃないですか……!」


 嗚咽を漏らしながらもなお言い続ける穂波ちゃん。もう彼女の顔を見ることはできない。今の彼女は僕の胸に顔をうずめ、僕の服を握りしめている。


「だから、せめて陰ながら二人の恋路がうまくいくように頑張ろうと思ったんです。私の恋が叶わなくても、春輝先輩に恋をした女の子として、最後くらいは何かしてあげたいじゃないですか」


 だから、僕の頼みごとを聞いてくれたのか。穂波ちゃんは、優しすぎると思う。僕なら絶対にできない。現に、僕はヒナが告白されたところを見ただけで使い物にならなくなった。


「それで、二人がうまくいって、私は少しずついなくなる予定だったんです。二人が結ばれたのなら、もう私が居る意味はないから。それに一緒にいると、私が苦しいから。でも、無理でした」


 穂波ちゃんは顔を上げた。頬はもう赤くないけれど、目じりのほうが赤くなっていた。


「春輝先輩、最後に一つだけいいですか?」

「……なに?」

「キスしてください」

「……」

「なんて、冗談です。今ここでしちゃったら、春輝先輩が危ないので。なので、抱きしめてもらえますか? 多分これくらいなら大丈夫なので」


 僕は穂波ちゃんのお願いを聞き入れた。穂波ちゃんの辛さがわかったわけじゃない。少しでも、和らいでほしかったから。


「ありがとうございます……。さて、そろそろいいですよ」

 穂波ちゃんが部屋の外に向かって声をかけた。一体どうしたんだろう?

 ドアが開き、その向こう側にいたらしい人物が姿を見せる。

「……ハル」

「ヒナ⁉」


 ドアの向こうにいたのは、日奈だった。

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