第13話 後輩の想い

「率直に言うと、新山先輩は生徒会長さんとお付き合いしていません」


 その言葉を聞いて、僕はほっとした。


「でも、好きな人はいるみたいですよ?」


 しかし、次に告げられた言葉に、今度は全身が凍りついた。急速に体温を奪われたような、冷水を頭からバケツでかけられたような、そんな寒気に襲われる。


「い、今、なんて……?」


 口が乾き、うまく声が出せない。


「ですから、好きな人がいるから、生徒会長さんからの告白を断った、と新山先輩自身が言ってました」


 今度は生きた心地がしなかった。聞き直してしまったことを悔やむ。

 一度目なら噂かもしれないと平静を保つことができていたが、今度はだめだ。

 噂などではなく、確実にそうであると宣言されてしまったから。


「まぁその好きな人っているのが教えてくれなかったんですけどね。でも、新山先輩と親しい人なら反応を見るだけでわかるかもしれませんね。本当は春輝先輩もわかってるんじゃないですか?」


 今の穂波ちゃんの質問に対する答えは――イエスだ。僕は、日奈の好きな人を知っている。

 この前、日奈は自分で言っていたじゃないか。あの頃と変わっていない、と。


「……うん、僕はヒナが誰のことを好きなのか、知ってる」

「…………そう、ですか。でも、ならなんで春輝先輩はあんなにショックを受けてたんですか。新山先輩に好きな人がいると知っているなら、断るって少し考えればわかりませんか?」


 確かに、少し考えればあの二人が付き合い始めるとは考えられない。

 でも、その少し考えられるほどの頭を、あの時の僕は持っていなかった。理由は単純で、日奈が告白されているところを見たからだ。

 日奈は小学生の時からモテていた。沢山、それこそ毎日のように告白されていたことも話に聞いていた。

 けれどそれはあくまでも話に聞いていただけで。実際にその場面を見たことはなかった。それは小学生の時だけに限らず、中学生になっても同じだった。

 日奈が目の前で誰かに告白されるところなど見たのは初めてで。直接見てしまったがために、甚大なショックを受けた僕は冷静な思考ができなくなっていた。


「ふぅ……春輝先輩。ちょっと、こっちに来てください」


 何やら小さく息を吐いた穂波ちゃんは、意を決したかのように僕を呼んだ。


「どうしたの……⁉」


 ベッドの縁に腰掛けていた穂波ちゃんに近づくと、穂波ちゃんは勢いよく立ち上がり素早い動きで僕の背後に回り込んで僕をベッドの上に押し倒した。一拍おいて穂波ちゃんが僕の上に馬乗りになって見下ろしてくる。

 腹部に感じる柔らかい感触すらも意識できないような緊迫した気配が、穂波ちゃんから発せられていた。


「本当は言わないでずっと仕舞っておくつもりだったんですけどね……でも、やっぱり我慢できませんでした」


 穂波ちゃんはそう前置きして、ついにその言葉を言った。


「――春輝先輩、中学の時から好きです」

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