第12話 報告

 蝉の声が聞こえ始めた七月後半。太陽がギラギラと照り付け、熱を帯びたアスファルトの上には陽炎が揺らめいていた。

 僕が穂波ちゃんにすべてを話してから、一週間が経った。この一週間での穂波ちゃんからの報告はなかった。この学校で一番とまで言われる美しさがある日奈には、接触したくてもできないのだろう。

 僕も任せっきりじゃなくて独自に調べてみた。

 けれど出てくるのは噂だけで、確実性がない。しかも生徒会長が告白したというところまでは同じなのに、その答えが違う。告白を受けて付き合い始めたという噂もあれば、断ったという噂もある。さらには保留中であるという噂まであった。

 皆が皆〝告白した〟ということは知っていても、その答えを知らないので噂が交錯しているのだろう。その答えを知っているのは生徒会長と日奈だけだから。

 そしてここで、時間が来てしまった。夏休みに明日から入ってしまうのだ。これでは調べようと思っても本人に直接聞く以外で方法はなくなってしまう。

 もし僕が日奈に直接聞けば、僕が日奈に気があることがばれてしまう。僕としてはどうしてもそれは避けたい。この気持ちは、僕の中だけで仕舞っておこう。たとえ両想いだったとしても、告白した結果付き合うことができたとしても、日奈にはデメリットの方が大きい。僕のせいで被害を被るのだけは、いやだ。

 大勢の生徒が体育館に集まり、終業式が始まった。

 人が大勢いるので室内が蒸し暑くなる。汗が止まらない。熱中症も発生するかもしれない。

 校長が何かを話している。けれど、僕の意識と思考は、日奈のことで埋まっていた。


 終業式が終わった。生徒が口々に暑さに対して文句を垂れながら教室へと足を運ぶ。その足取りは心なしか始まる前よりも軽やかだ。教室はクーラーがついているからだろうか。きっとそうだ。

 教室に戻ると、生き返った心地がした。クーラーによって冷やされた教室は、さながら砂漠の中のオアシス。外が暑いことも忘れ、僕達は涼んだ。

 と、その時携帯が震えた。着信があったらしい。確認してみると、穂波ちゃんからだった。要件は、『お話があるので、放課後、春輝先輩の部屋に行ってもいいですか?』というものだった。

 了承の旨を伝え終わると同時に、僕たちのクラスはホームルームが始まった。


 約束の放課後。最初は一緒に帰ろうと誘ってみたのだが、穂波ちゃんは何か用事があるらしく先に帰っていてほしいとのこと。深く追及するのは失礼なので、素直に従って、僕は先に一人で家に帰る。

 日奈は誘っていない。いや、誘えない。僕達の関係は秘密なので、表立って誘ったり一緒に帰ったりすることはできないのだ。

 鍵を開けて、家の中に入る。予想通り、暑い。

 僕は急いで荷物を自室に置くと、クーラーのスイッチを入れた。穂波ちゃんが来るまでには涼しくなっているだろう。

 僕は汗を大量に吸い込んだワイシャツを脱いで、普段着に着替えた。穂波ちゃんが来るので、部屋着ではなく普通に外にも着ていける服だ。

 それから少しして、穂波ちゃんがやってきた。制服姿なので家に用事があったわけではないようだ。

 穂波ちゃんをクーラーの効いた僕の部屋に招き入れる。


「ふぁ~涼しいです~」


 僕の部屋に入った瞬間、穂波ちゃんは間延びした声でそう言った。確かに外は暑すぎるので涼しいこの部屋はまさに生き返ったような気分になるのだろう。

 穂波ちゃんは入った直後の一瞬だけ立ち止まったが、再び歩き出してからは一直線に迷うことなく僕のベッドに向かった。そしてその縁に腰掛ける。


「お話というのは、例の件についてです」


 穂波ちゃんが一息つくと、彼女はそう話し始めた。

 例の件、というのは間違いなく彼女に日奈のことを調べてほしいとお願いしたことだ。


「率直に言うと、新山先輩は生徒会長さんとお付き合いしていません」


 その言葉を聞いて、僕はほっとした。

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