第11話 女同士、共通するもの

「そうだったんですか」

「うん」


 僕は穂波ちゃんに全てを打ち明けた。

 日奈が告白されているところを見たこと、それを見て逃げ出してしまったこと、あの光景を見たショックがいまだに残っていること。そして――僕が日奈のことを好きだということ。


「でも、春輝先輩はその後どうなったか見てないんですよね?」

「うん、怖くて」

「わかります、失恋のショックって大きいですから」


 穂波ちゃんはまるで自分が体験したことがあるかのように頷いた。〝まるで〟じゃなくて、本当に体験したことがあるのかもしれないけど。

 とにかく、僕は全てを穂波ちゃんに話せた。話させてもらえた。

 穂波ちゃんは聞き上手で、僕も話しやすかった。次から次へと言いたいことがあふれてきて、僕が言葉に詰まっても急かしたりなんかしなかった。


「あの、春輝先輩。もしよかったらですけど、私が見てきましょうか?」


 何を、とは聞かない。こんな状況で他に聞くことなんてない。


「……お願い、できるかな」

「任せてください!」


 ショックが大きいとは言っても、まだあの二人が付き合ったかどうかまではまだ確認していないわけで。けれどもその確認が僕には難しいだろうということで穂波ちゃんが確認してきてくれると言ってくれたのだ。

 あまりにも情けないが、その好意を無碍にもできないので、僕は彼女の申し出を受けた。

 それから、穂波ちゃんは僕の家を出て家に帰った。



 いつの間にか外は夜の帳が下りていた。雲一つない快晴なのに、見えるのは星々のみで月は見えなかった。


 ♥


「――それ、私に話しちゃってもいい内容なの?」

「はい。でも、今話したのが全部じゃないですよ? まだ春輝先輩はたくさん話してくれました」

「まさかあの場面をハルに見られてたなんて……」

「新山先輩は生徒会長さんと付き合うんですか?」

「どうすると思う?」

「私としては付き合ってくれた方がいいんですけどね。どうです? 噂によると容姿端麗で頭脳明晰らしいじゃないですか。優良物件では?」

「残念だけど、私はもう一人に決めているの。その一人に比べれば運動ができようが頭がよかろうが全員等しく興味ない」

「そうですか。では、私はこれで失礼します。聞きたいことは聞けたので」

「そう。……あ、そういえば秋風さんに言いたいことがあったんだった」

「はい?」

「――あなたは選択肢ができるのだから、今から探しておいたら?」

「――何のことでしょうか。新山先輩こそ、今から自分にふさわしいと思う人を見つけておいた方がいいんじゃないですか?」

「ふふっ……」

「ははっ……」


 ♥


『単刀直入に言うけど、ハルは諦めて』

『それはできません。いくら新山先輩に言われてたとしても、できることとできないことがあります』

『そう。あなたが悲しまないようにするためのせめてもの慈悲なのに、拒否するんだ』

『なに上から物事を言ってるんですか。確かに新山先輩のほうが年寄りですけど』

『なに? 私のこと年寄りって言った? たった一年しか変わらないのに?』

『別にそこまでは言ってませんよ。たった一年しか変わらないのに、なんで上から目線なのか、と言ったんです』

『年上だもの。あなたこそ何を言っているの?』

『そうですね。新山先輩は私よりも一年早く生まれて、六年以上も早く春輝先輩と出会っているんですよね』

『何が言いたいの』

『これだけのハンデがありながら、いまだにモノにしていない新山先輩は全く脅威じゃないってことです』

『あなたこそまだ出会ってから四年目じゃない。それに一年はブランクがある。なら脅威にはなりえないはずね。そもそも敵になれないんだから』

『新山先輩こそ中学の時は話してすらいないんじゃないんですか? ブランクは三年で私よりも大きいですよ? それに、私は部活で沢山春輝先輩とお話ししたから、たったそれだけの空白なら簡単に埋まります。いい加減認めたらどうですか、同じ土俵まで上がってきた恋敵が出現したって』

『私は秋風さんを敵だとは思わない』

『そうですか、それは新山先輩の自由なのでこれ以上はとやかく言いません。ですが、これだけは覚えておいてください。私は、春輝先輩のことが好きです。この想いを心に仕舞ったままにするなんてできません。グダグダしてると、その間に私が猛烈アタックで落としますよ?』

『安い挑発ね。でも、そうね。一応覚えておく。どうせ意味ないけど』

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