第8話 女同士、通じ合うもの
それからはなし崩し的に部活が発足した。
部員探しはあっという間に終わり――意外なことに、友人と同じように考えている生徒が多かった――次は顧問探しになった。
が、それも職員室にいる教師一人ひとりに当たっていったら結構すんなりと見つかった。意気込んでいただけに、少し拍子抜けしたほどだ。
そして一番の難関は、部活動概要だった。
うちの中学は校長の許可がないと部活動として認められず、部室も与えられない。そして許可をもらうためには部活動概要という紙に、部活動について説明しなければならなかったのだ。
それも結局は顧問の先生にアドバイスをもらったりして一週間ほどで片付いた。
こうして、芸術部はたった二週間程度で部活動として認められた。
「それで、その年に穂波ちゃんが入ってきたってこと」
「へぇ~そんなことがあったんだ。私全然知らなかったなぁ」
「え、そうだったんですか? あれ、じゃあなんで春輝先輩が部長じゃないんですか?」
日奈が僕に嫌味を言い、穂波ちゃんが僕に疑問を呈してくる。日奈にはあとで謝っておこう。僕が悪いわけじゃ……元を辿っていけば僕が悪いことになるのか。
と、それは今考えることじゃない。穂波ちゃんの疑問に答えよう。
「僕が部長になりたくなかったんだよ。だから降りた。部長は僕に相談してきた友達になってもらったんだ」
「なんだかもったいないですね。せっかく春輝先輩が尽力して部活を立ち上げたのに、目立つのはそのお友達じゃないですか。本当にそれでよかったのですか?」
「僕はあまり目立ちたくなかったからね。部活動紹介とか絶対にやりたくなかったもん」
それでも副部長になったのは、他の部員が勝手に副部長の欄に僕の名前を入れたからだ。
「だから部活動紹介の時にいなかったんだ……」
日奈が何か呟いた。けれどそれは、ファミレスの喧騒にかき消され、隣にいる僕にすらよく聞き取ることができなかった。
「ハルと秋風さんの関係は分かった。でも、どうして今日あそこにいたの?」
「あ、穂波でいいですよ?」
「それは僕も気になってた。穂波ちゃんはどうしてあそこに?」
「私が居たらだめなんですか。そりゃあ、私って馬鹿だから春輝先輩と同じ高校には行けないって思われてるのかもしれないですけど……」
穂波ちゃんが言っていることは本当だ。といっても、僕たちが通っている高校に入れないわけじゃない。一年間必死になって勉強すれば、ギリギリ合格圏内には入るだろう。それくらいの頭脳を、彼女は持っている。
「ということは、秋風さんはうちの高校に入ったんだ」
日奈はまた僕の時と同じように〝秋風さん〟を強調して言った。
「はい、よろしくお願いします、新山先輩」
「どうして入ろうと思ったの?」
穂波ちゃんが言い終わると同時に、日奈は言った。僕の勘違いでなければ、少し穂波ちゃんを責めるような、そんな気がした。
「それは……先輩がそこに進学したからです」
「へぇ……」
日奈を真っすぐ見つめてそういう穂波ちゃんに、日奈は目を細めて口を歪めた。
これは僕なりの解釈だけれど、穂波ちゃんは日奈に憧れていたと思う。だから、彼女の後を追うように日奈が進学した高校に努力して入った。
そう思う理由はいくつかあるけれど、主な理由は中学時代の穂波ちゃんの行動だ。
穂波ちゃんは日奈が近くにいると、ずっとそっちを見ていた。僕や他の人とか、誰かと話している時はちらちらと見る程度だけど、一人の時はまるで何か強い思いを胸に秘めているようなそんな瞳で日奈のことを見つめていた。
そのことを知っているから、僕は日奈の後を追ってうちの高校に入ってきたと思った。
「すごいね、そんなに強いんだ?」
「少なくとも、この世界で一番だと思っています」
よくわからないことを二人は言い合っていた。僕の解釈があるように、日奈にも日奈なりの解釈があるのだろう。それがうまい具合に穂波ちゃんの言っていたことと噛み合ったのか、それとも穂波ちゃんが言っていたことを正しく理解したのか。
どっちにしろ、僕には二人の会話の中身がわからなかった。
「秋風さん、この後時間ある?」
「私もそれ聞こうと思っていたんです。大丈夫ですか?」
「奇遇ね。私は大丈夫だから、とりあえずハルは帰って?」
「え、なんで」
「帰って」
ニコッと笑みを浮かべる彼女はとても可愛かったが、それ以上に背筋が凍りつきそうなほど怖かったので、それ以上は何も言わず、千円を置いて帰ることにした。千円は二人の分でもある。日奈ならわかってくれるだろう。
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