第7話 後輩と部活

 僕と日奈に穂波ちゃんを加えた三人は、ファミレスに来ていた。家に帰ることなどせず、直接。


「で、この子誰なの?」


 少し口調に棘のあるような雰囲気で、日奈が僕に問う。


秋風あきかぜ穂波ちゃん。僕の中学校の時の部活の後輩だよ」

「秋風穂波です。よろしくお願いします」


 僕に紹介された穂波ちゃんは、ぺこりと頭を下げて日奈に挨拶した。

 僕の隣に日奈が座って、対面するように穂波ちゃんが座っている。


「部活の後輩……そういえば、ってどこの部活に入ってたの?」


 わかりやすく僕の名前を強調して問いかけてきた。別にそんなことをしなくても、僕に聞いていることくらいわかるのに。


「芸術部だよ」

「なにそれ。そんなのあったっけ? 絵でも描いてるの?」

「色々、人によってやってることは違かったよ」


 僕が中学の時に入っていたのは、一言で表せば〝寄せ集め〟だった。

 部活動として活動したい。けれど部員が足りない。部室がない。部費を出すだけの活躍が見込められない等々。そんな理由で部活動として存在することを却下された生徒たちが集まってできたのが〝芸術部〟だ。

 活動は自由で、内容も自由。絵を描いていたり、漫画を作っていたり、本を読んでいたり、小説を書いていたり、書道をしていたり。

 そして僕は、副部長だった。

 そのことを伝えると、日奈は目を見開いて驚いていた。


「すごいね、副部長だったんだ。で、ハルは何してたの?」

「僕は何もしてなかったよ」

「え? どういうこと?」

「もともと芸術部っていうのは、僕が創った部活なんだ」


 その言葉に、今度は日奈だけでなく穂波ちゃんまでもが驚いたようだった。


 ♥


『部活として絵を描きたい?』


 僕の数少ない友人の一人が、僕にそんなことを言ってきた。

 中学生になって二年目の、入学式の次の日のことだった。


『ああ、やっぱり俺、部活で賞に応募して、賞とって、舞台で表彰されたい』


 彼は素人目の僕から見ても絵が上手で、クラス旗や学級旗を書いてくるような宿題があったとすれば、みんなが彼を頼りにするほどだった。

 だからこそ、彼の主張は分かった。そりゃあ、それほどの才能があるのなら、コンクールで賞を取って、全校生徒の前で表彰してほしいのだろう。

 けれど、この学校には絵を描く部活がなかった。美術部はあるけれど、それは彼に合わなかったらしい。

 彼曰く、『あそこは俺に合わない。俺は、決められたものじゃなくて自分で決めたものを想像して描きたいんだ』とのこと。

 いまいちよくわかっていなかったが、偶然美術部の活動を見ることができたときに、その意味が分かった。

 美術部は、顧問に描けと言われたものしか描けないらしい。

 美術室の中に顧問と部員がいて、机の上にデッサン用のモデルがあって、顧問が見守る中、部員たちが一心不乱に描き上げていく。そこに余計なものが入る余地など一切もなかった。

 つまり、彼は強制的に描かされるのではなく、自分で自由に描きたかったのだろう。自分が見えている世界を、自分の方法で。

 そして、堪えきれなくなった思いを、僕に打ち明けた。


『うん、わかった。頑張ってみる』

『ありがとう! 何でも言ってくれ、協力する』


 そうして、僕の部活創作が始まった。

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