第4話 変化する日常

 会話が上手く続かない。高く昇っていた日は既に沈みかけており、明るかった僕の部屋を、今度は真っ赤に染めていた。


「あのさ」


 いい加減もう母達の話は終わっているだろうと思い、椅子から腰を浮かせた時、日奈が呟いた。椅子に座り直し、その言葉の続きを目で促す。


「私達さ、元通りになれるかな。昔みたいな、あんな感じに」

「……もう、無理じゃないか。今と昔では、何もかもが変わった。それは体格とか知識とか、そういうモノだけじゃなくて、もっと違うモノも」


 四年以上もブランクがあるんだ。当然全てが変わっていく。

 趣味も、興味も、感性も、感覚も――感情も。


「私は、変わってないよ?」

「……変わってるよ、ヒナは」


 少なくとも運動能力と学力は絶対に変わっている。それに、内面だけじゃない。外見だって変わってる。

 僕とあまり大差なかった体つきも、全体的に丸くなって、柔らかそうで、胸は膨らんでウエストも引き締まった。身長だって今では頭一つ分くらい僕のほうが高い。


「そういう意味じゃないんだけどな……さ、行くんでしょ?」


 ぼそっと零された日奈の声は、生憎、僕の耳に届いた。

 わかってるさ、それくらい。僕だって、あの頃から全く変わっていない。



 階下に降りて、リビングに入ると、いまだに話し込んでいた。どうやらテレビでやっていた旅行についての話らしい。


「やっぱり熱海とかかしらねぇ……」

「江の島とかも捨てがたいわよね」

「桜の季節だし、お花見とかもいいわね」


 仕方なしに、僕と日奈はソファに座ってテレビを見ることにした。今の時間帯ならば、何か面白い番組でもやっているだろう。多分今日は一緒に夕飯を食べることになると思う。

 ソファが揺れた。僕じゃない、日奈だ。日奈が僕の真横まで寄ってきていた。


「どこかに行くのかな」

「行くんじゃないのか。結構盛り上がってるし」

「昔もこんなことがあったよね」

「……ああ、あれか」


 昔、と言っても本当に昔で、まだ小学校にも上がっていない時だった。突然の思い付きと投合で、急遽旅行に行くことになったのだ。日奈はそれの事を言っている。


「春輝、日奈ちゃん。この春休みは旅行に行くよ!」

昔の思い出に耽っているとうちの母からそんな言葉を聞いた。

「場所は不明、目的も不明! 行き当たりばったりな家族旅行!」

「パスしたい」

「ダメよ。強・制・参・加!」


 と、言う訳で。僕の家族と日奈の家族とで旅行に行くことになった。

 実際は行き当たりばったりとかではなくて、単なるお花見らしいけど。

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