第3話 過去
僕は、最低な振り方をしてしまった。そのことを後悔したのは、その日の晩だった。
僕が最後に見た日奈は、僕の言葉に酷く傷ついていて、目から零れようとする涙を堪えるのに必死になっていた。
頬も数分前とは違う理由で赤くなり、鼻も、耳も真っ赤に染まっていた。
その時の僕の気持ちのせいで、日奈を傷つけてしまった。本当は、そんなこと思っていなかったのに。
頭が悪いのは事実だとしても、それを嫌いだとは思わなかった。日奈に勉強を教えるために、一緒に僕の部屋で勉強するのは楽しかった。
運動が苦手だとしても、僕はそれも日奈の魅力の一部だと思っていた。多少ドジな所があって、つい守ってしまいたくなるような、そんな感じ。
それに最後に言い放った〝ブス〟という言葉。これは全く思っていなかった。日奈は可愛くて、あどけなくて、大好きだったから。
「流石にあの言葉は傷ついたなぁ……」
懐かしむようなその声で、日奈は過去の話を続ける。僕がずっと引きずっている、過去の話を。
♥
小学校を卒業し、中学校へと上がった僕達は、入学式で一緒に記念撮影という恒例行事を終えてからは学校であまり話さなくなった。
それは過去のことがあったからだけではない。日奈が人気者になっていったからだ。
頭はよくなるし、運動もできるようになっていった。日奈の可愛さ、可憐さにも磨きがかかっていって、同学年ではほぼ並ぶ者などいないくらい、日奈は凄かった。
そんな彼女を見て、僕は引くことを決めた。当時、既に全てを越されていた僕は、彼女の隣にいることは彼女の価値を下げてしまうのではないかと恐れた。そして執ったのが、彼女から離れるという方法。
こうして振り返ってみると、日奈が一方的に僕の下から離れたのではなく、僕も日奈の下から離れ、相対的にかなりの早さで僕と日奈は離れてしまったのだろう。
それがいけないことだとは今でも思わない。幼馴染だからと言って、いつまでも一緒にいるわけではないのだから。
『なぁ聞いたか? 大吾、新山に告って惨敗したらしいぜ』
『また玉砕報告かよ、今週で何度目だ?』
毎日、そんな会話が面白可笑しく話されていた。場所は問わず、教室からトイレの中まで。それほどまでに日奈の人気は凄まじく、到底僕には手の届かない領域だった。
片や学校一の人気者、片や学校に沢山いる生徒の内の一人。こんな差が開いてしまったから、僕も、日奈も、あの日からお互いの事をあまり知らない。
精々知っているのは、日奈がよく告白されるということだけ。そんな周知の事実だけが、僕の知っているあの日より後の日奈のことだった。
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