第3話:ベールクレスト魔法学院

 あれから十五分ほど。二人はやっとのこと学院に着いた。


 目の前にある見上げなければ全容が見えないほど、白く巨大な城のような建造物。


 ──王立ベールクレスト魔法学院。王都シガリアの中心都市に屹立する、世界でも有数の魔法学院の一つ。


 立派な魔法士を育てるために初代アルネディア王——ベールクレスト・アルネディアが創立した国内随一の学院だ。


 毎年、王立ということもあって莫大な資金を支援されるベールクレスト学院は、その教育レベルも然る事ながらもちろん設備も大変豪華である。


 その一つが今、ファルネオが歩いている広場にも垣間かいま見えている。


 ——まず、これでもかという大きな門を通ると長く大きな広場に出る。


 その中央には約三メートルもある巨大な噴水が設置され、所々に散在する花壇に咲き誇る色とりどりの花々がとても綺麗だ。


 しかも今は九月の中旬、秋である。校舎前の左右に立つ、これまた巨大な大樹の紅葉が季節の到来を感じさせてくれる。


 ──そんな見たことも無い光景に圧倒され、超のつく田舎者である俺は思わず感嘆の声を漏らした。



 「おぉー……。デッケぇなぁ……。どんだけあんだよ……」

 「そうですねぇー……。何度見ても大きいと感じます……」


 オレの呟きに答えたのはルイエス・フェルエナンという少女である。


 つい先程、不良達ヤンキーに襲われて危険だったところを助けたことで知り合ったのだ。


 そこから一通り自己紹介や雑談などをして一応、友達という形で仲良くなった……と、思う。……多分。



 「ルイはこの学院に何度も来たことがあるのか?」

 「う、うん。試験があったからね。そういうファル君はここの学院に来たことがないの? ここの生徒はみんな試験で来たことがあるはずなんだけど……」



 ちなみに互いの呼び名は呼びやすいということで、恥ずかしながらオレがファル君で、ルイエスはルイとなった。



 「ん? ……あぁ、俺は知り合いの推薦で入学したんだよ。だからこの学院には一度も来たことがない。今日が初めてだな」

 「え? えぇ!? す、すごいね! 推薦枠は少なくて、ほとんど無理だって言われてるのに……。ファル君は相当すごい魔法士なんだね!!」

 「い、いや、そうでもないと思うぞ……?」



 ──実際、俺は中級魔法までしか扱えない。これは実力主義を掲げるベールクレスト学院では前代未聞、有り得ない話なのだ。


 ベールクレスト学院の生徒であれば、上級魔法の一つや二つは習得しているモノなのだ。それも推薦枠なら尚更である。


 (……正直、アイツらに無理矢理入れられたもんなんだよな……)


 ──そう言うと、ルイは顔をブンブンと千切れるかと思うほど振り、


 「そ、そんなことないよっ! 推薦枠で入学できること自体がとっても名誉なことなんだから! ファル君はすごいんだよ!」

 「そ、そうか、ありがとう」



 まるで満開の花が咲いたような純真無垢な笑顔で肯定してくれた。……尊い。


 それからオレ達は軽い雑談を交わしながら広大な広場を通って学院へ入った。


 そのまま入学式を執り行う修練場へ。男女に分かれて入場、行われるのでルカとはここで一旦お別れになる。



 「じゃあ、また後で。同じクラスだと良いな」

 「は、はい! また後で会いましょう! 絶対に!」

 「お、おう……後でな」



 何故かルイは熱心に「絶対に! 絶対ですよ!」と強調していたが……謎だ。


 俺は指定された列に並び、他の生徒達と共にファンファーレが鳴り響く修練場へ華々しく入場する。


 そのまま前の生徒に続いて自席に座り、入学式が始まるのを大人しく待つ。


 ベールクレスト学院の入学式は、まず最初に国歌斉唱、新入生紹介は時間短縮でなしで次に学院長が式辞を述べる。


 その次に新入生代表の宣誓があって、在校生代表の歓迎、校歌斉唱、対面式は翌日なのでなし、終了後は教室へ移動、という順番で執り行われるらしい。


 辺りがしんとしてから入学式が開幕、国歌斉唱を総員で歌った。ここは特に何も無いので割愛する。


 そして司会進行中は新入生達が少しザワつく。まあ、お決まりみたいなもんだ。


 ──急に騒音が静まる。どうやら学院長のご登場のようだ。


 深緑色の長髪に高級感溢れる薄緑のローブを着用している、一見女性にも見える優男が壇上に立った。


 「あ、あの人は……!」

 「十天将第一席……!」

 「かの最強とも呼び声の高い【神邏しんら】様だ……!」

 「俺、王都のパレードで見たことあるぜ!」

 「マジで!?」

 「……ッ!? (はぁ!?!!)」



 新入生が学院長の登場に感嘆の声を上げている間、俺はその声は入ってこなかった。


 何故なら件の学院長を見た瞬間、人知れず驚愕、いや大驚愕していたからだ。


 (──え、えぇー! マジかよ!! いや、前から凄い人だとは聞いてたけれども! まさか名門魔法学院の学院長だったなんてな……)


 その学院長は新入生全体を鳥瞰ちょうかんすると、ニコリと優しく微笑んでからおもむろに口を開いた。



 「──やあ、みんな。初めまして。僕の名前はシンアーク・ルグレイア。ここの学院長している者だ。よろしくね?」



 学院長──シンアークはそう言って新入生達へお茶目にウィンクをした。


 ……とても有名魔法学院の最高責任者CEOには見えない仕草である。



 「……シンのやつ、相変わらず男には見えねぇな……」



 いつもの様子に思わず独りちてしまう。


 ──何故、ファルネオは学院長の登場に驚愕したのか。


 それは前述した台詞セリフを見れば分かる通り、実は至って簡単なことである。


 何故ならシンアークはファルネオのことを推薦した王国の守護神である『十天将じってんしょう』の一人であり、元々家族同然の付き合いをしている人物だったからだ。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鎖の拳星~少年は災凶の異能で剣と魔法の世界を無双(復讐)する~ 田仲らんが @garakota

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ