第1話:プロローグ

 早朝。


 一人の少年が歩いていた。


 十五歳ほどだろうか。総身はしなやかな筋肉質で引き締まっており、特に身長が高い。軽く一八〇センチは超えているだろう。


 整った目鼻立ちに透き通るような白肌。その双眸は青玉サファイアの如く深い蒼色。


 紫がかった白金髪プラチナ・ヘアーを軽くオールバックでキメていて、その端麗な容姿に、より磨きが掛かっている。


 服装は白を基調とした常用と戦闘用の万能制服だ。


 少年は制服それを軽く着崩し、胸元のFにかたどられた黒紫色のペンダントトップに、同じく黒紫色の鎖製チェーンペンダント・ネックレスを身に付けている。


 そんな少年は現在、とある学院に向かっている最中である。


 王都に着いたのは今日。本当なら二日前に着くはずだったのだが、色々と問題が重なって到着が遅れてしまったのだ。


 ──が、弱音吐いていられない。せっかく遠路はるばる王都へ来たのにも関わらず、入学式に遅れたら元も子もない。


 そんな苦労人である少年は、疲れた身体に鞭を打って黙然もくぜんと歩き続けるのだった。



……………。


………。


……。



 学院に向かって歩き始めてから二〇分ほどが経った。


 しかし、ここで一つ問題が起きてしまった。


 不自然なほどゴミ一つ落ちていない綺麗な道をしばらく歩いていると、先程は大量にいた通行人が全くいなくなっている。


 ──つまり、いつの間にか道に迷ってしまったことに気づいたのだ。


 (──……途中までは合っていたと思うんだが、我ながら情けない……)


 前述した通り、王都に来たのは今日。もちろん土地勘もなく、紛失したため地図も持参していない少年に為す術はない。



 「はぁ……。これは完全にやっちまったな……」



 少年は額に手を当てながら呻く。近くの通行人に聞こうにも、どうやらここは人通りが極端に少ない場所のようだ。全く以て人通りがない。


 完全に打つ手なしだ。来た道を戻るしか解決方法が無い。


 だが、それではせっかく急いで来た入学式に遅れてしまう。どうすればいいか……。


 そんな風に自問自答していると、突如として前方左側の路地裏から少女の悲鳴が発生───少年の耳朶を叩いた。



 「──きゃああああーーっ!」

 「っ!? ………なんだ?」



 少年は咄嗟に壁に背を預ける形で隠れ、路地裏の中を恐る恐る観察する。


 見ると、如何いかにも不良ヤンキーですといった風貌の三人の男達が一人の少女を取り囲み、溜まった自身の欲望を爆発させようとしていた。


 一人は頭部が大きく禿げ、山のような筋肉をしている大男。


 もう一人は三人組で一番背が高いが、ヒョロヒョロでネズミのような不健康な顔をした細男。


 最後はダルマのようなまんまる体型であたかも豚の如き容姿をしたチビ男だ。


 その三人全員が、同じ黒のジャケットを着用し、右肩には白のピエロマークがこれ見よがしに刻まれている。


 ───実は三人とも王都では、主に悪い方向で有名なブラック・ピエローズという少々イタイ名前をした不良集団の一味なのだ。


 ブラック・ピエローズは普段から街で窃盗や暴行などを繰り返しているが、リーダーが無駄に強いせいで騎士団も迂闊うかつに手が出せないのである。


 もちろん今日、始めて王都に来たこの少年はそのことに微塵も気づいていない。


 一方、襲われている少女の容姿は、小柄かつ華奢きゃしゃな体型に、少年と同じ制服をお手本のようにピッシリと着込み、翠玉エメラルドの如き瞳に、薄桃色の白金髪を後ろに纏めて、ポニーテールにしている美少女だ。


 特筆すべきは、顔の目鼻立ちが整っている───いや、整いすぎている。


 その整った顔は、まるで妖精のように美しい。


 確かにそりゃあ狙われるだろうという見た目をしている。


 

 「なんて、テンプレな………。しかも、あの制服はオレと同じ学院の奴か。これじゃあ見ないフリも出来ねぇじゃねえか……」



 少年は思わずといった風に、顔へ手を当てて呻く。


 見る限り、その路地裏の周囲に少年以外の通行人は見当たらない。


 薄暗く誰も居ない路地裏に可愛らしい少女一人と、日頃溜まった欲望が爆発寸前の荒くれヤンキーが三人だけ。


 この状況を見れば、少女の命運ていそうが風前の灯火であることが、誰にでも分かることだろう。


 すると、ヤンキーのリーダーであろう頭部が大きく禿げた大男が、少女のか細い腕を荒々しく掴んだ。



 「──なあなあ、イイだろ? す~ぐ終わっからよ。ちょいと遊ぶだけだって、な?」

 「そうだぜ? ほんの少しだけだって」

 「まあ、終わったあと動けたら見逃してるよ。動けたらなぁ」

 「「「ワハハハハハハハッ!!!!」」」



 男達が一様に下卑た笑みを浮かべ、大笑いする。



 「や、やめてくださいっ! わ、私にはこれから行かなければならない場所があるんです! は、離して下さいっ!!」

 「オイオォイ、つれねぇなぁ。ちょっとだけだって言ってんだろぉ? 文句あんのかぁ? あぁ!?」

 「ひぅ!?」



 大男は怒鳴り散らすように、少女へ恐喝をする。


 そして少女が怯んでいるうちに、腕を強引に自らへと引き寄せ、路地裏の奥へ連れて行こうとする。


 途中で我に返った少女は、「は、離して! 離してくださいっ!」と激しく抵抗するが、方や大男、方や小柄な少女だ。既に結果は見えてる。


 ──前述した通り、周囲に通行人は見当たらない。


 今、少女を救うことが出来るのは、事件現場ここにいるただ一人の通行人、すなわち──少年だけだ。


 ──少年は深く、それはもう深くため息を吐いた。



 「はぁ……。王都に来てから最初がこれかよ。先が思いやられるな……」



 さて、どうするか………。


 ───大男の手下とみられる二人を合わせた四人は、どんどん奥へと入っていく。


 ……もう、時間がない。


 ……しかも、説得しても聞いてはくれなさそうだ。


 少年は仕方なく、本当に仕方がなく、覚悟を決めた。


 (────……面倒ごとは、嫌いなんだがな……)


 少年は路地裏の入り口で自身の存在を見せつけるように堂々と仁王立におうだちをすると、



 「──おい待てよ、そこのオッサン。どうせなら俺とも遊ぼうぜ?」



 不良達ヤンキーへ正面から宣戦布告を叩きつけたのだった。



 


 









 





 

 


 

 

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