鎖の拳星~少年は災凶の異能で剣と魔法の世界を無双(復讐)する~

田仲らんが

第1部

第0話:プロローグ・ゼロ

 とある辺境に位置する、


 小さな洋館。


 そこに、


 一人の少年と、


 一人の男が居た。


 少年が虚ろな目で、


 呆然と呟く。



 「──ぁ……、

 ああ………、

 なん、

 で……?

  ………お前、

 が………、

 お前が、

 これを、

 やった、

 のか……?」


 「……ああ、

 そうだ」


 「ッ!!!」



 少年の目の前には、


 死んで間もない、


 生温かい死体が二つ。


 手を繋ぎながら既に息絶えているのは、


 成人している男女だ。


 少年はそれを、


 虚ろな目で見つめていたが、


 男の言葉で徐々に焦点が合っていき、


 仮死していた目が生き返る。


 その目に宿るは激情、


 あるいは憤怒、


 そして、


 ────殺意。



「……お前が、

 ……お前が、

 父さんと、

 母さんを………、

 あ、

 あぁ……、

 ァアアアアアアアァァアアアァァァアアアーーーッ!!!!」



 刹那、


 少年の総身から、


 溢れんばかりの深紫色の耀きが放たれた。


 それによって発生した風圧、


 あるいは暴風によって、


 男が瞬時に後退、


 ───驚愕する。




 「アアアァァアアアアァァァアアアアーーー!!!」


 「──な、

 にッ!?

  この年で覚醒する、

 だと……? 

 ……やはり、

 この一族は、

 危険だ。

 今、

 ここで、

 確実に、

 処理しなければ、

 ならない……ッ!」



 男が前方、


 ──尚も慟哭の叫びを続ける少年へ、


 おもむろに掌を向けて何かをしようとする。


 だが───



 「“────……”」


 「──アアァアッ!!!」



 少年の双眸がグリンと、


 男を捉える。


 そのまま、


 マグマの如き激しい殺意を男に叩きつけ、


 高速で突進する。


 その速さに虚を突かれた男は、


 一瞬間、


 反応が遅れてしまう。



 「ラアアアッ!!!」


 「!? くッ!!」



 男の懐へ刹那に肉薄した少年が、


 鳩尾へ力任せに腕を一振り、



 バキィッ、


 ────ドゴオオオオンッ!!!



 「ぐふぉあッ!」


 「……ハァ、

 ……ハァ……」



 少年の一撃によって、


 男は勢いよく吹き飛ばされ、


 後方の壁に激突、


 口元から大量の血反吐が宙に舞う。



 「……ゴボッ………、

 なん、

 だ、

 と……?

 覚醒したてで、

 コレ、

 か………。

 ありえない、

 な……」


 「ハァ……、

 ハァ……、

 これ、

 で……、

 これで、

 父さんと、

 母さんの仇を、

 とれる………ッ!!

  ァアアアアッ!!!」



 少年が裂帛の気合いで殴り、


 男を殺そうとした、


 その瞬間、


 ───突然、


 少年の身体から力が抜け、


 膝から倒れ込むようにして、


 崩れ落ちた。



 「……なっ、

 ……え……?

  ……ま、

 だ、

 おわっ、

 て……、

 な……、

 い……の、

 に……ッ!!」


 「──……、

 ふぅー。

 ……やはり、

 か。

 貴様が覚醒したてで、

 本当に、

 良かったよ。

 完全に、

 油断していたからな……。

 今回は流石に、

 危なかった。

 だが、

 ──これで、

 貴様を始末することが、

 出来る」



 男はあたかも死神のように、


 ゆらりと立ち上がると、


 少年の方へ歩みを進め、


 目の前で立ち止まると、


 少年の頭に向けて、


 手をかざした。



 「これで、

 終わりだ、

 少年。

 ────いや、

 ここで殺しては、

 勿体ない、

 か……?

  ……覚醒したてで、

 コレだ。

 完全に使いこなせば、

 我らの力になるかも、

 しれん……。

 ならば───」



 「“─────”」


 「ッ!?」



 男が何かを呟くと同時、


 翳していた掌から、


 真っ黒い球体が出現したかと思うと、


 スゥと少年の額へと吸い込まれていった。



 「……な、

 に……、

 を……、

 した……ッ!」


 「これは、

 呪いだ。

 貴様が将来、

 確実にオレの元に戻るくるための、

 な。

 具体的に、

 オマエには“────”が出来なくなった、

 ということだ。

 理由はもちろん、

 貴様の一族が、

 我らの脅威になる可能性があるから、

 だな」


 「ふざ、

 け……、

 る、

 な……ッ!

  そん、

 な……、

 り、

 ゆう……、

 で……ッ!」


 「──文句があるのならば、

 強くなれ。

 この世界では、

 強者が全て、

 だ。

 弱者は、

 今のオマエのように、

 ただ、

 地べたを這いつくばることだけ。

 ──ハハッ、

 まるで、

芋虫のように無様で、

 滑稽だな……? 

 アッハッハッハッハッ」


 「ッ!!

  ……お、

 ま、

 えぇ……ッ!!」


 「だーかーらー、

 言っただろう?

 文句があるのならば、

 強くなれ、

 と。

 オレは、

 オレたちはそれまで、

 待ってやる。

 ──それまでは精々、

 足掻くんだな」



  男はその一言を話し終えると、


 これで終わりだ、

 


 とばかりに、


 無情にさっさと去って行く。



 「ま、

 て………ッ!

  おま、

 え、

 は……、

 絶、

 対……、

 に……、

 殺し───……」



 ──そこまでが、


 限界だった。


 少年に突然として発現したこの異能は、


 強力な力を扱える代わりに、


 特別な代償を必要とする。


 少年は先程の戦闘で、


 既にスッカラカンとなった体力に鞭を打ち、


 両親の仇である男へ必死に食い下がっていたが、


 結局、


 最後まで持たずに、


 疲弊と睡魔に負けてしまったのだった。



 ────……(許さないッ!

  ……絶対に、

 許しはしないッ!!

 ……いつか、

 絶対に、

 アイツを、

 ───殺すッ!!!)



 そう、


 少年は、


 心に決めた。



 ………。


 ……。


 …。



 「──あの少年は、

 異質、

 だったな……。

 本来ならば、

 早々に殺した方が、

 良かったかもしれないが……。

 アレほどの、

 逸材だからな……。

 ……ああ……、

 久々に、

 血が、

 滾る……。

 ……早く、

 早くり合いたいなぁ……」

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