第13話 もうやめて下さい死んでしまいます……
それから霜月さんは笑顔で俺との思い出や俺の仕事ぶり、俺のいい所などを語ってくれた。正直、霜月さんが俺の事をそんなに評価してくれているなんて知らなかったのでとても恥ずかしかった。それはもう、赤面を抑えるのに必死なレベルで。
そして、それだけに、もう、ね……本当に、申し訳なさ過ぎて心が痛い。すみません、俺が悪かったですもうやめて下さいごめんなさいこれ以上聞かされると死んでしまいます……。
「――でね、雪姫さん。棗くんがその時言うんですよ。あ、その仕事はもうやっておきましたよ。画像データもまとめておいたのでパワーポイントの作成だけお願いします。それでは、お先に失礼します。って!いつも通り定時前に他の人の倍近い仕事を終わらせて!」
「はい。凄いですね棗さん」
「そうでしょ?私が手塩にかけて育てたんだから!本当にどこに行っちゃったのかしら……」
「そうですね……あの、少しお手洗いに行かせて頂きますね」
「あ、ずっと話してしまってごめんなさい。ご迷惑でしたよね……」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
嘘です。全然大丈夫じゃないです。もう顔から火が出そうです。
というか、もう一時間以上話してるのによくネタがつきませんよね……。
女子トイレに入り個室で蓋を閉めた便座に腰掛け、足を組みようやく息をつく。はぁ~、もうやだお家帰りたい……。
さっと、携帯を取り出して息抜きに日課のルーティーンをこなす。ステージ切り替えの度にスノウの顔が携帯に映りこんでドキッとする。まだ慣れなくて心臓に悪い。
そんな他愛もない事を考えながら、ポチポチと操作を続けつつ思考をこの後の事について回す。
とりあえず財布からお金を出しておきましょうかね。よくよく考えると財布や携帯は三芳のものを使っているわけなのであまり見られたくはない。三芳との関連性が強いアイテムはこの二つだけのはずだ。
他には何だろう。帰りは視線に気を付けるだろ?霜月さんを送ることも考えたけどあの人もいい大人だし送らなくても多分大丈夫だろう。……大丈夫かなぁ。不安だなぁ。あの人、意外にお嬢様だからなぁ。
そうして、とりあえず財布からお金を出そうとして俺は気付いた。
……あ。お金降ろしてないわ。
財布には500円玉一つと50円玉に1円が二枚。合わせて552円。
つーっと、頬を冷汗が伝う。
うん。コンビニまで走るか……。
そうして、唐突に貯金引き出しRTAが始まった。
まず、最初のステップは店内からの脱出だ。
霜月さんを店内に残しているので最悪食い逃げを疑われてもどうとでもなるので、店内からの脱出を慣行する事は特に問題ない。
問題は霜月さんに店内から出る時を見られた場合だろう。今のメンタル状態の霜月さんに置いて帰ろうとしているなどと思われたら最悪だ。もう、これ以上メンブレ霜月さんとか見たくないぞ……。ただ、まあ、トイレの位置的に霜月さん側からは首をひねって後ろを見なければトイレは視界に入らないので恐らく問題ないだろう。
次はコンビニまでの道のりだが、人に見られるのが気がかりだなぁ。
一度、家に帰ってケープを取ってからコンビニに向かう?流石に時間が掛かり過ぎる上に結局家に帰る場合途中でコンビニを横切るので無駄足な気がする。普通に走ってコンビに向かうでいいかなぁ。スノウの身体能力なら軽いランニング程度のダッシュでも普通の人の全力疾走より速度が出るし、それでサクッといってサクッと帰ってこよう。割と夜目もきくし、恐らく人とすれ違う前に減速できるはず。ただ、交差点手前では速度を落とすようにしよう。速度のついた衝突事故は怖い。
よし、シミュレーションは済んだ。
貯金引き下ろしRTAを始めよう。
……俺何してるんだろう。
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