第12話 衝撃の真実を知る。

 うーん、どうしよう。どう言い訳しても苦しいよなぁ。

 でも、ここまで来たら嘘をつき続けよう。こういったときに変わった理由付けは必要ない、俺と雪姫の設定上でありそうな嘘……。


「そうですね。今度こちらに引っ越してくることになったので、こちらでの家を探すまでの間、泊めて貰っていたんです」

「え……。ええっと、大丈夫だった?棗くんに変な事されてない?」

「貴方は棗さんの事を何だと思ってるんですか?」


 いや、本当に俺の事をどう思ってるんですかね霜月さん????

 おもわずジト目で見てしまった。いやでも、そうだよな。霜月さんとはなんだかんだ長い付き合いだし俺のソシャゲ趣味も知られてる。そんな中で、まるでゲームの中から出てきたようなスノウが泊っていたと聞いたら心配にもなるか。


「いえ、ごめんなさい。なんでもないです……」


 気まずそうに目を逸らす霜月さんに逆にこちらが申し訳なくなる。

 そうして、霜月さんは俯いてしまう。あーーーもうっ、そんな姿を見せられるとこちらもどうしていいのか分からなくなる。


「いえ、お気になさらないでください。それで、棗さんがどうかしたんでしょうか?」

「あ、棗くん……」

「……」


 また泣きそうにならないでほしい。困る。

 居心地が悪くなって、肩から垂れる髪をクルクルと回してもてあそぶ。だが、なかなか沈黙が終わらない。でも、こればっかりは急かすのもよくないと思うし待つしかない。もう既に聞かれたときの言い訳は固まっているので後は霜月さんが話し出すのを待つだけだ。

 長い沈黙の末、霜月さんがぽつりぽつりと話し出す。


「今日、棗くんが退職を申し出ました」

「えっ?」


 精一杯の驚いた声を出す。俺の言い訳の設定では雪姫は棗が退職したことを知らないのだ。


「本当に棗さんが?」

「はい……」

「そう……ですか……」


 噛みしめる様につぶやく。少し狙い過ぎているかもしれないが、あまりにも淡白だとそれはそれで怪しいだろう。


「あの、雪姫さん。雪姫さんは棗くんに何があったか知りませんか?朝起きたがらなかったとか、体調が悪そうだったとか、仕事に行くのを嫌がっていたとか、実は私の事が嫌いだったとか……。私は彼と良好な関係を気付けていると思っていました。いたんです……。ただ、それ故に少し無茶振りをしたり、沢山連れまわしたり、私しか処理できないような難しめの書類を回したり、私より少なめなものの他の人よりは倍に近い仕事を渡していたりと嫌われてもおかしくないような事をしてきた自覚もあるんです。……私は彼に嫌われていたのでしょうか?棗くんを追い込んでいたのでしょうか?」

「……」


 え、待って、そんなことしてたの霜月さん。

 いや、確かに外回りで連れていかれる事は多いなっていうのは思っていたけど、それは長い付き合いだからだと分かっていたし、社外では多少だらけても怒られないから万々歳で着いていってましたけど。いや、それはいいんだよ。

 え、他の人の倍近い仕事って何!?後、異常に悩ましい決済書類とかで俺だけ悩んでたりしたのってそのせい!?え、えぇ……それはないっすよ霜月さん……。


「そ、それは、ちょっと……」

「そうよね。やっぱりそういう反応になるわよね……。棗くんもだから私に愛想をつかしたんだわ」


 そう言ってどんよりした雰囲気を纏う霜月さん。

 えぇ……どうしたらいいんだよ。これ。


「あの、あまり気を落とさないでください。棗さんから仕事がつらいなどといったことを聞いた覚えはあまりありませんので……」

「あまりという事は多少はそう言ってたのね……」


 しまった、本音が漏れた。

 いやでも、つらい時は就業時間中にイベントが走れなかったり、ガチャ更新が待ちきれなかったりした時くらいだったんだよなぁ。正直そういう時は何やっててもつらいし仕事のせいではないと思う。


「棗さんはゲームが好きな方ですので……」


 我ながら酷い理由に苦笑い気味で答える。

 すると、霜月さんががっくりと項垂れる。


「わかってたわよ。私はゲーム以下よね……」


 えぇ……霜月さん本当に今日どうしたの……?何で今日に限ってそんなにネガティブなんですかね?

 さらに落ち込んでしまった霜月さんにさらに困惑が増す。


「うぅ、棗くん……」

「あの、あまりお気になさらずに……多分、棗さんが仕事を辞めたのは霜月さんのせいではないと思いますので……」

「そう!?雪姫さん、本当にそう思う!?」

「え、えぇ」


 がばりと顔をあげる霜月さんの顔が嬉々としていて怖い。テンションの緩急が激しすぎてて正直ついていけないんだが……。

 本当にどうしたんだ今日の霜月さん。俺が辞めたから霜月さんが壊れてしまった……?


 壊れてしまった元上司を見て更に負い目が強くなった三芳であった。

 ……本当に普段は冷静な人なんです。もっとキリッとしてる人なんです。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 5月後半に入ってコロナの影響が落ち着き社会が活動的になった結果、寝ようとした時間には小鳥のさえずりが聞こえる生活に戻りました。アー、オソトガアカルイナァ……


 相変わらずのんびり更新で頑張らせてもらいます。よろしければお付き合いくださいませ。(にっこり営業スマイル)

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