第11話 叩かれれば幾らでも埃が出る。

 席に戻って料理が来るまでジュースで繋ぎながら、自然と携帯を起動する。

 いつも通り流れるようにNosを立ち上げる。すると、ホームに設定したスノウが出迎えてくれる。かわいい。

 そうして開いてみると、寝落ちてから触っていなかったこともありスタミナが溢れそうになっていた。これはいただけない。日課も終わってないしやらないとな。




「お待たせしました~。チーズインハンバーグとサーモンサラダになります」

「あ。ありがとうございます」


 ポチポチと日課を消化していると、注文してから10分程だろうかハンバーグとカルパッチョ風サラダが届いた。

 お皿を置きやすいようにテーブルについていた肘をどける。そのついでに、脱いだ上着に携帯をしまっておいた。


 おー、鉄板に置かれたハンバーグがジュウジュウいってる。美味しそう。


 ノリノリでハンバーグに手を付けようと思ったタイミングで影がさした。

 通り過ぎていった影はそのままテーブルの体面に座る。どうやら、霜月さんが戻ってきたらしい。

 むぅ……。こうなったら呑気に食べる訳にはいかないよな。


「お帰りなさい。もう大丈夫そうですね」

「はい。お見苦しい所をお見せしました……」


 帰ってきた霜月さんは血の気も戻り先程よりはだいぶ調子がよさそうに見える。

 軽い挨拶を終えた後、無言の沈黙がテーブルを包んだ。静寂のテーブルで聞こえるのは鉄板に置かれたハンバーグがじゅーっと焼ける音だけだ。

 えぇっと、これはハンバーグ食べちゃダメな奴ですよね。はい。大丈夫ですよ、えぇ、はい。ちゃんと空気は読めます。……。

 ダメだ、冗談で気を紛らわそうにもそんなことが出来そうな雰囲気じゃない。自分の責任とはいえ凄く胃が痛い……。……でも、俺の責任だから自分で後始末は着けるべきだよな。


「……それで、お話とはどのようなお話でしょうか」

「――ッ!……あの、棗三芳くんのことはご存知でしょうか」


 初めから核心に触れる質問に何と答えたモノかと思考する。

 知らないと即断するのは簡単な事だが、どこからかはわからないが家の前にいたところを霜月さんには見られてしまっている。もし、家から出るところから見られていた場合、三芳が行方不明だとばれたとき相当な問題が出てくるだろう。それは非常に好ましくない。となると、回答はYESしかない。


「そう、ですね。はい。存じております」

「あの……それは、どういったご関係で……」


 次は関係か……。正直、どこを探られても痛い腹な為、非常に困る。

 何と答えるのが正解だろうか。姉や妹?無いな。親は霜月さんと顔を合わせた事があるし、身近な人間は何と言ってもすぐに嘘とバレるだろう。となると、遠縁の親戚もしくは恋人とかだろうか。


「かなり遠縁の親戚、ですね」

「そう、ですか……。棗くんの親戚にこんなに綺麗な方がいるとは知りませんでした」


 はい、日和りました!スノウを恋人といえるほど自意識過剰にはなれませんでした!!

 それにしても綺麗な人かぁ……。霜月さんからでもやっぱりスノウは美人に見えるのか。美人に美人と言われると気分がいいな。

 ……いや、ちげぇよ。ちょっと待って。あ、やばい。寝起きで家を出たから当然ケープを着けていない訳で……今は100%スノウモードという訳だ。

 そりゃ道出歩いてる人もぎょっとして振り返るよね!?店員さんがずっと俺に視線固定されてたのもそういう事かっ!!まずい。これは非常にまずいぞ。


 とんでもないことに思い当たり頬が引きつりそうになるのを必死にこらえる。これ、遠い親戚というのもすぐバレてしまうかもしれない。どうしよう。

 スノウレベルで綺麗な人が親戚にいればすぐに見つかるはずだ。もし、霜月さんに家系図を辿られたらそんな親戚はいないという事がすぐバレてしまいかねない。


「そ、そうですか?霜月さんのような美人な方に褒められると照れてしまいますね」

「……あれ、私の名前ご存知だったのですね」

「え?あ、はい。そうですね。棗さんより話で聞いたことがございましたので……」

「棗くんから……」


 俺の名前を出した途端ズーンと落ち込む霜月さん。それにしても危なかった、動揺して霜月さんの名前を呼ぶという致命的なミスを犯してしまうとは……、咄嗟の苦し言い訳だったが偶然にも俺の名前に矛先がそれたらしい。本当に危なかった。


「それで、えっと……」

「ああ、自己紹介がまだでしたね。雪姫と申します」


 スノウに姿が変わってから一応、偽名は考えてはいた。といっても捻りは無く、白百合の姫というスノウのキャッチコピーをそのままスノウと混ぜ合わせて『白百合 雪姫』というものだ。我ながら本当に欠片も捻りがない。

 ただ、これで名前を知られた以上、更に調べられたときにバレる確率が高まったぞ。どうしよう……。


「それで、その、雪姫さんはどうして棗くんの家にいたんですか?」


 あ、詰んだ。バッチリ、部屋から出たところまで見られてましたねコレハ……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 棗くん出だしから致命的な致命傷。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る