第7話 日課を消化しながら現状を考察してみる。

 Note of Wisdom――日本語に訳すると叡智の書。ゲームの略称は「Nos」や「ノス」、「ノスダム」、「ノウ」などだ。

 そのようなタイトルのソーシャルゲームが配信を開始したのは約6年も前の事だった。流行り廃りの激しいソーシャルゲームで配信されてから一線を離れる事なく不動の人気を築いてきたソーシャルゲームだ。

 俺はそんなゲームのいわゆる初期勢で今日まで6年間ずっとこのゲームを続けてきた。始めた当初はアルバイトしかしていなかったので微課金勢だったが高卒で今の仕事についてからは結構な重課金兵士をしている。


 「Nos」は辺境の村の少年が旅立ち冒険者として成長していく物語だ。今は主人公が冒険者として大成し、各地の問題を解決したり、世界規模の問題である魔王討伐を各国から選出されたメンバーの一人として請け負ったりしている。

 そんな魔王討伐を任されたキャラクター達はプレイヤー間で勇者という呼称で呼びあらわされている。大陸にある国の数が7つで選出された勇者も7人なので七勇者などと呼ばれることもあった。


 そんな七勇者たちはそれぞれの仲間を連れ、国同士で連携し魔王の軍勢と戦っている。その中で、最も情報が規制されていて謎が深かったのがスノウという女性だ。スノウは氷の国レスティアから来た勇者でその素性は一切不明。ただ、口調や立ち振る舞いからそこそこ高貴な身の上を持っているのではないかという予想がネットでは建てられていた。

 今回のスノウのサブストーリーでも結局その素性が明らかにされることは無くスノウの冒険の一幕が描かれていただけであった。今回のプレイアブル化で唯一確定したことといえば特性ノーブルを所持していたことから高貴な身の上であるという既に予想されていた点が確定しただけであった。



 俺の体の異変に「Nos」が関わっているのは恐らく間違いないだろう。それでなくても一晩で姿形が全くの別人に変わるという異常事態な訳だが、その姿形がスノウと瓜二つなのだから関係を疑うなという方が無茶だ。

 正直、この様な体の変化を受けた今、この世界には魔法が本当にあるなどといわれても俺はあっさりそれを受けいれてしまうだろう。むしろ納得するレベルだ。


 いや、まあ、それはいい。いや、よくはないんだが……。

 それはそれとして、俺が今疑問に思っているのはなぜ俺なのかという事だ。確かに俺は「Nos」でスノウが出てきてからずっとスノウを仲間にするのを楽しみにしてきたわけだが、だからといって俺の体がスノウのものに変質する理由が一切わからない。

 誰かが目的を持って俺をスノウに変えたのか?ならば何故、接触を図ってこないのか。遠くから観察する事が目的?今日、特に観察されているような感じはしなかったが……。


 恐くなって部屋中を漁ってみたが特に監視カメラや盗聴器のようなものは出てこなかった。


 ……うーん。観察されているわけでもなさそうだし。じゃあ、人体実験?正直、たった一晩で人の体を作り変えてしまえるのだから何でもありな気がする……。

 でも、人体実験なら俺を野放しにする理由がなぁ。人体実験なんて発覚したら大問題なわけだし、俺の存在はもっと隠されている筈だ。なんだったら処分されててもおかしくない。……なら人体実験もないか?

 では、本当に偶然なんらかの事象が発生してこうなった?実際姿が変わっている以上、偶然でこうなったというのもあり得なくはないだろうけど、一体どんな偶然が起こればこんな体になるというのか想像もつかない。……うーむ。正直これ以上考えても真実は分からない気がする。


 結局、俺の変化は「Nos」になんらかの関りがあるという事しかわからないという最初の結論に戻ってきてしまった。


 そして、その「Nos」も俺の姿が変わる前と後で特に変わった点は無かった。流石にこんな姿に変わったのだからと朝の段階で「Nos」になんらかの変化がないかは当然確認した。ただ、本当に世界で変わったのは俺だけだった。本当にどうしてこんなことになったのだろうか……


 呆ける俺の視線の先では画面の中のスノウがまた一体と敵を葬り去っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る