第5話 外の世界は平凡で……

 扉を開けると外から室内に冷気が吹き込んでくる。今は10月の暮れだ。これからどんどん寒くなっていくのだろう。

 鍵を閉め、マンションの階段を下りる。今のところ人の気配はない。ドキドキしながらマンションを出るとそこには普段と変わらない日常があった。

 道路を人々が行き来している。一見して自分と同じように明らかな変化をした人間は一人もいないようだった。

 あまりの平凡さに自分の変化との落差を感じ少し気分が悪くなった。


 気分が悪くなった。そうは言っても、自分の異物さを他人にまで認識されるわけにはいかないのだ。俺は足早に道路へと向かう。

 俺の内心のドキドキなど露知らず道端の人は和気あいあいと横を通り過ぎていった。ちらりと二度見されることは幾度かあっても異常を感じて声をかけられたりすることは無かった。ちらりと二度見される度、その度に心臓がキュッと締め付けられる様に感じる。

 ……恐らく注目度-70%の効果はしっかりと出ている。正直、俺がもし道端でスノウを見かけたらずっと目で追ってしまう自信がある。だから、チラ見程度で済んでいる今はしっかり効果が出ている筈だ。ただ、それとこれとは話は別なのだ。今までこんなにぶしつけにみられる事なんてなかったし、人とすれ違うたびに胃が縮む。帰りに胃薬でも買って帰るか?いや、長時間外を出歩く方が胃に来るな……。


 周囲の視線に内心おびえながら俺が最初に向かったのはコンビニのATMだった。幸運にも誰も並んでいなかったので素早く10万円をおろす。うへぇ、残りは200万程度か。これからの事を考えるとこの貯金は非常に重要だ。しっかり使い道を考えて使わないと。

 そんな事を考えながらレシートを捨ててコンビニを出る。飲み物でも買おうかと思ったけどカバンを持ってきていなかったのを思い出して辞めた。……折角だし予算が足りればスノウに似合う服のほかに小物も買おうかな。


 そんなコンビニを出たときとは真逆の思考で、気がつくとレディースの洋服売り場に到着していた。レディース売り場なんて通りかかるくらいしかなかったからなぁ。少し緊張している。


「いらっしゃいませ~。お客様~本日はどの様なお洋服をお求めですか?」

「は、はいっ。いえ、その。今、着るものが無くて……予算2万円ほどで出歩いてもおかしくない格好にコーディネートして欲しいのですが……」


 突然話しかけられて動揺した割には上手に返事が返せたと思う。


「そうですね~。こちらなどはどうでしょうか?コートで隠されていますがお客様かなりはスタイルは良さそうですよね?このような敢えて体型が出るお洋服などがお客様にはお似合いになると思ったのですがどうでしょうか?」


 正直、スノウにそう言った服は非常にひっじょ~~に似合うと思う。しかしだ、流石に女性初心者の俺にその服装はレベルが高すぎる……。うぅん、どうしようか……。

 すると、俺が渋っているのを見て定員さんは他の服を進めてくれた。今度は非常に落ち着いた感じの服だ。


「そうですね~。お客様でしたらこのような清楚な服装も大変お似合いになられると思います。こちらのお洋服などはいかがでしょうか?」

「そう……ですね。いいと思います。こちらにします」


 そうと決まればとあれよあれよと試着室に連れ込まれる。定員さんのおススメで派手過ぎない下着類も買い込み、総額3万円ほどでそこそこのコーディネートを揃えることが出来た。予算を1万円オーバーしているのは店員さんが思いのほか俺の好みや性格を汲み取った上でいい感じの服を用意してくれたので、買うつもりのなかった靴下や肌着なども追加で注文したからだ。

 お店で買った服にそのまま着替え、その上からケープを羽織った。いつまでも男物のコートで歩き回るのは良くないなと思ったのだ。10月終わりなので少し冷え込むが我慢する。あとは、折角おしゃれな服装になったのでその服装で街を練り歩きたかったというのもあったりなかったり……。それと、風がそこそこ吹いているので髪は引き続きケープの下で押さえつけてある。それに長い髪は目立つからな。そのスタイルや容姿だけで既にがっつり目立っているのはご愛嬌だ。

 さて、まだお金は残っているし今日は買うぞ~!!


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お金節約しないといけない時に限ってついつい豪遊しちゃうあるある。

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