第2話 どうしようか……
あの後、ひとしきり驚いたわけだが……本当にどうしようか。
起床から少しして、落ち着いてから冷静に確認したところ、間違いなく俺の体は女性のものというかスノウのものになっていた。服は寝たときの服と違いゲーム内で装備していた服装だった。
当たり前だが俺のアレは無くなっていて、かわりに上には豊満な胸がついていたのをばっちりと確認した。役得役得。
……その際、あまりはっきりというのはあれだが、しっかり女性的な反応が出たのでこの体が俺のものになっているのは間違いないだろう。俺の思考に連動して体が動いてる時点である程度察してはいたが、情景反射も完璧だった。
それにしても本当にどうしようか……。
とりあえず、こんな体になってしまった以上、今日の出勤はできないだろう。こんな体になってしまって出勤がどうとか言っている場合ではないと思うのだが一応、社会人として無断欠席は良くないだろう。
「あ~、あ~~~、あーーーー」
うーん。やはり、鈴がなるような綺麗な声だ。
だが、違う。そうじゃない。
これでは、電話での連絡は無理だな。失礼だがメールにしておこう。あ、ロックのかかっていた携帯はパスワードでロックを解除して顔認証を今のスノウの顔に変更しておいた。
『宛先:霜月さん
件名:本日の業務について
おはようございます。
本日、風邪をひいてしまい会社への出勤
が非常に困難な状況です。また、症状が酷
く数日程まとまった療養を取りたいです。』
本来、上司に対してこんなアバウトで礼儀もなっていないメールは論外なのだが、霜月さんは上司の中では緩い人なのでこんなひどいメールでも割と軽い注意で流してくれる。(もちろん、礼節が本当に必要な場面ではしっかりとした対応を行っている)
普段から割と態度がいいと言えない俺が唐突に丁寧な文面を送った方が霜月さんに違和感を覚えられるだろう。その為、いつも報告するときと変わらないような文面のメールを送った。
それにしても、本当にどうしたものか。何度目かもわからない自問をする。
まず、俺が女性になってしまったのは間違いない。洗面所の鏡の前に立つと自己主張の激しい山が二つ目に入る。揉むと幸せで淫な気分になった。違う、そうじゃない。
問題は現実に存在しない全くの別人になってしまったというのが問題なのだ。別の人物に転生!みたいな物語にありがちなものであれば、大抵はその人物の身分証明が手に入る。しかし、現実のスノウはどこにも国籍を持たない無国籍民。しかも、明らかに日本人ではなく入国記録もない。これは非常にまずい。
異世界転生のようにそもそも身分証明が必要なかったり、簡単に身分証明証が手に入る緩い冒険者ギルドなどこの国にはないのだ。ここは法規国家日本なのだ。
風邪をひいたことにしたのでこれから数日は問題ないだろう。しかし、この姿では出社など不可能だ。このままでは会社は辞めざるをえないだろう。そうなると生活も困難になる。
身分証明が出来なければ新しいバイトなども簡単には出来ないし、このままいけば野垂れ死んでしまう。これだけ顔もスタイルも良ければそういう事をして裏で稼ぐという事も出来なくはないだろうが……正直、生理的に無理だ。それに可愛いスノウを俺以外に譲るなどありえない!!
そんな訳でどうにか身分を手に入れたいわけなのだが……とりあえず、考えていてもいい案は思いつきそうにないので一度、そういったことについてインターネットで調べてみることにした。
日本で国籍を手に入れるには生計維持能力の充実。素行の善悪。10年以上の在留。住所の取得……うわぁ、面倒くさい。本当にどうしよう……10年以上の在留とか証明しようがないし、まずこれまでの経歴が虚無に吹き飛んでるわけで……。
……うん。これは詰んだな。
「は、あはは、あはははは……。はぁ……」
眩暈がした。これまで、積み上げてきたが全て崩れる感覚。生まれ変わったのは目も眩むほどの美女だ。自分のルックスがこれまでの数倍良くなった点については喜べる。その際、性別が変わったのは些細な事ではないが、TSもののラノベなども読んでいたので思いの外あっさり受け入れられた。まぁ、恋愛対象は女性のままなのだが。それにしても、それに付随するデメリットが大きすぎる。いくら何でも身分証明無しは世知辛すぎるだろう……
本当に、どうしようか……。
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