何故か気づけば白髪美人お姉さんになってしまったので、どうしようか……

高叶

第1話 何故か気づけば白髪美人お姉さんになっていた。

タララララ、タララララ、タララララ、タラr―――


 煩わしくなる携帯を、手を伸ばして顔の前まで持ってきて止める。

 今時の携帯のアラームは一度顔認証を済ませるところまで行かないと停止できないので面倒だ。まぁ、そこまでしないと起きれない人が多いのだろうが。かく言う俺もそうだしな……。

 ああ、起きたくない……。今日も仕事かぁ……。憂鬱だ。


 うがい、歯磨き、洗顔を5分ですませ。雑に寝癖をお湯で躾けなおす。

 そして、手早くスーツを着て家を出た。ここまでの時間。じつに10分。

 そうして俺は今日も仕事に向かう。


 通勤は電車だ。幸運にも駅は始発駅から一駅なのでいつも辛うじて座ることが出来る。座席に座り携帯を開く。通勤時間は基本的にソシャゲの日課消化の時間だ。バイクや車を持つことも考えたのだが、そうなると運転にかかりきりになるので趣味のソシャゲの時間が持てないと考え、学生時から変わらず電車で出勤している。


 ああ、次のガチャ更新は今日のお昼か。

 やっぱり今回の新キャラは恒常で性能もそこそこで見た目もそれほど刺さらないから、スルー安定だなぁ。そろそろ、次の新キャラ発表が出てるかなと思い、お知らせを開く。

 おっ、案の定、新キャラの実装予定が書いている。


 白百合の姫。スノウ・へカティア。

 長い白髪の美女。謎が多く、これまで主人公たちと深いかかわりが出てこなかったキャラクターだ。以前からメインストーリーやサブストーリーで稀に姿を現すことはあったが本当にどれも僅かばかり。そのルックスの良さや氷の魔法使いという心ひかれる設定から実装を心待ちにしていたのだが、遂に来てしまったか……。しかも限定……。

 とても嬉しいが財布に深刻なダメージを受ける事がほぼ確定してしまうようなものなのでとても胃が痛い。


 うんうんと唸っている間に会社の最寄り駅についてしまった。仕方がないので後ろひかれる思いで会社に出社する。

 社員証を提示して社内に入り自分のデスクに向かうと相変わらずのメンバーが出社してきていた。


「おはようございます」

「おはよう」


 上司の霜月さんに挨拶をして自分の席に着く。


「おはようございます。なつめさん」

「宮本もおはよう」


 横の席の宮本がコーヒー片手に挨拶をしてきたので俺もそれに返す。ブラックコーヒーにしっかりワックスで整えられた頭。相変わらずお早い出社の様だし、本当、同期とは思えない貫禄だ。


 カバンを降ろし伸びを一つ下後、首を横にこきっこきっと振る。別に首がなったりはしないがこれをやると寝起きの凝りがとれる気分になるのだ。


「さてと、働きますかぁ……」




「はぁ~。終わったぁ」


 PCと睨めっこしていた時間が終わる。

 始めたときと同じく、うーーーんと伸びをして首をこきっこきっと。はぁ。


「霜月さん~。書類データ送っておきましたぁ。確認お願いしますー」

「わかりました。少し待っててください」

「了解です~」


 仕事が終わった所為か気が抜けて完全に思考がoffモードになってしまっている。修正ないといいんだが。

 待っている間、携帯を開いてみると閉じたときの画面。つまりはゲームのお知らせ画面だった。少し間がさした俺は周囲を軽く確認。よし、誰もこっちを見てないな。


 ガチャの画面を開く。するとそこには【限定】スノウ・へカティア ピックアップ中!の文字が。よし、引くか。

 取り敢えず10連(10+1連)から行くぞ~。……うーん。通常演出。スキップスキッ


 む?

 ロードが入ったぞ?


【SSR】スノウ・へカティア new!!


 は???


 よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 勝ちましたぁ!なつめ 御芳みよし選手勝ちましたぁ!!!!


 残りなんてスキップじゃスキップ!!

 よし、スノウを育てるぞ~。


【SR】轟

【SSR】スノウ・へカティア new!!

【R】ファミ・メノリア

【SSR】スノウ・へカティア

【SSR】スノウ・へカティア

【R】脇田 良

【SSR】スノウ・へカティア

【SSR】スノウ・へカティア

【SSR】スノウ・へカティア

【SR】ゴルド・ヴァルファーレ

【SSR】スノウ・へカティア


「ふぁっ!?!?!?」


 ……。

 思わず反射的にスクショを取っていた。もはやバグを疑うレベルでスノウが出た。後、思わず変な声も出た。

 気になって提供割合を見てみると出現率はいつも通り0.500%。え、これ確率何%だよ……。


「あだっ!」


 頭を丸めた紙で叩かれた。むっとして横を見るとそこには霜月さん。

 ……うーん。詰んだ。


「すみませんでしたぁ!!」

「はぁ……」




 あの後、霜月さんには軽く小言をもらってしまった。

 書類に不備はなかったので帰宅許可はあっさり出た。が、せめて書類のチェックが終わるまでぐらい我慢しなさいというド正論だ。大変申し訳ないです……はい……。


 霜月さんや宮本に挨拶を済ませ。逃げるように会社を出て帰路につく。帰りの電車に乗るとそこでやっとゲームを起動した。

 いやぁ、胃が痛かった。次からは気を付けよう。


 さて。このゲームには上限解放という機能がある。被ったキャラでそのキャラクターをさらに強化するという負の仕組みだ。被ったのが無駄にならないという点ではいいシステムなのだろうが、折角新キャラを引いても凸らないと使えないという事がそのシステムによってよくおこるので個人的には負の仕組みだと思っている。だが、今回ばかりは神システムだと思おう。何故なら俺は今、スノウを7人持っているから。フハハハハハ、わが軍は最強だぞ~!!

 もっとも、4凸までしかできないので2人は余るのですが……。観賞用ですかね?

 早速、最強のスノウを育成する。取り敢えずスノウを4凸に。これによって、ステータスの微上昇。そして、上限レベルが100から120に上昇した。さらに追加効果で氷属性魔法効果量5%アップのパッシブスキルと白百合の氷棺という謎のパッシブスキルがついた。白百合の氷棺がどのような効果かは不明だが、限定という事もありきっと相当強い性能をしているのではないかと期待している。


 さて。では、レベリングに……といいたいところだがまずはユニット編成を考えないとだな。このゲームは基本的に主人公と4人の仲間キャラを連れて冒険に出る事になる。キャラ同士の相性が非常に重要で基本的に属性は一色染めにする事が多い。スノウは氷属性だからメンバーは氷属性染めだな。ただ、メンバーを決めるにしてもシナジーを考えないとなー。

 うーむ、とりあえずスノウの性能は……火力特化の支援キャラか。なんか矛盾している感じがするけど大丈夫かこれ。スキル1で味方全体にバリアと回復と氷属性バフ。スキル2で大ダメージと敵に氷結効果。スキル3で敵に連続ダメージと継続ダメージか。で、必殺技が……辺り一帯を氷の海と化し全てを凍てつかせる。『氷葬』か。フィールドを氷結フィールドに変えて特大ダメージ。そして、氷結フィールドによる継続ダメージもありっと。しかもこれ、敵に氷結も入るのか。ダメージ次第だけど割と使えそうではあるかな?

 よかった~。折角引けたのに弱くて使ってあげられないとかだったら可哀そうだし本当に何よりだ。


 そんな風にスノウを一人で評論していたら降りる駅になってしまった。さっさとダッシュで帰るぞ~。




 家に着くとお湯を張り、スーツを脱ぐ。

 家でまで仕事着など着ていたくないのだ。今朝のパジャマをそのまま着て椅子にどかりと座り込む。

 充電コードを引いてきて携帯につなぐ。

 さぁて、レベリングするか。支援キャラの一人とスノウを入れ替えて経験値効率のいいダンジョンを周回する。




 黙々と周回していたら深夜3時を回っていた。途中でお風呂やご飯も済ませたはずなんだが、なんだか記憶が薄い。手元を見るとLEVEL UP!!の文字見るとスノウのレベルが120になりカンストしていた。


「終わったぁ~!ねれるぅ……」


 いつの間にかひいてあった布団に潜り込む。


「はぁ~~~……。寝よ」


 大きく伸びをして腕を降ろす。すると数秒もしないうちに気がつけば寝入っていた。




タララララ、タララララ、タララララ、タララララ――


 アラームが鳴っている。煩い。

 どれだけ怠かろうが朝はやってくる。今日も仕事な俺は嫌でも起きなければならない。無理やり手を伸ばし片手で携帯からコードを引っこ抜き顔の前にもってくる。

 軽く半目をあけて、アラームを止めようとするが何故か止まらない。イライラしながら何度か押してみるが止まらない。


「何なんだよ……」


 凛とした声の響きに思わず身が固まる。

 そして、暗転している画面にふと俺の顔が写りこむ。


そこには、長く美しい白髪に豊満な胸、そして非常に整った美貌の女性。スノウ・へカティアがいた。


 そして、スノウが普段ではありえないような気だるげな表情でこちらを見ていた。


「は?」


 画面の向こうのスノウが考えられないような間抜け面を晒していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る