夏休み最後の日の出会い

こばや

1話


 8月31日。小中高生にとってその日は夏休み最終日。


 宿題を早めに終わらせていて、明日からの学校を楽しみにする者。または逆に、夏休み前半に遊びすぎて最後の最後に一気に宿題を終わらせようとする者。はたまた、青春し恋をする者も……。


 市立図書館で女の子がとある人に声をかけた。


「一目惚れしてしまいました!よかったら付き合ってください!!」

 白いワンピースを身にまとった相原あいはら めぐみは 体をくの字のようにしながら腕を伸ばし、自身のスマホを黒のキャップを身に付けている津久井つくい あきらに差し出した。

「………。」

 告白された津久井 晶は表情には出さないがとても戸惑っていた。驚きのあまり返答することが出来ないほどに。それほどまで、晶にとって始めての経験であり、衝撃的だったのだろう。


「あの……?」

 しかしそんなことを知る由もない恵は晶の顔を覗き込みながら、答えを待っていた。


 晶は意を決して“真実”を恵に伝えることにした。それを察したのだろうか、晶が言い出すのを待つことにした恵。


 どれくらいの時がたったのだろうか。それともそれほど時間が経っていないのか。時間の感覚がわからなくなるほど両者は緊張のうずに飲み込まれていた。


 そしてついに決心がついたのか晶の口が動く。


「私、女なんだけど」

 黒のキャップを外しながら“真実”を伝える晶。とても心苦しいのか、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。そして晶は恵の答えを待った。


 しかし答えは…。


「知ってます。だからこそ声をかけたんです」

「へ………!?」

 晶の求めていたものとは真逆のものになった。


凛々りりしく男の人と見間違えるほどのその高身長!でも私の目は誤魔化せませんよ?帽子で長い髪の毛を隠してるようですが、後ろから見ればまとめてから入れているのがバレバレです!」

 何かのスイッチが入ったのだろうか、恵は晶に言葉の猛ラッシュを食らわせていた。


「え…あの…どうしたの…?」

 さっきまでの恵との変わりように慌てふためく晶。それでも落ち着いた表情は崩さない。もしかしたら崩せないのかもしれない。


 しかし、それが恵を加速させたのか

「あぁもう最高です!夏休み中何度もこの図書館で見かけましたが、いつも変わらないその表情がとても堪りません!もっと私に見せてください!」

 より一層暴走した。


「ごめんなさい……。でも私は……」

 暴走中の恵に未だに戸惑いながらも、晶は自身の気持ちを伝えようとする。


「そうですよね…。すいません暴走してしまいました…。ごめんなさい…」

 恵は言葉の出だしだけで全てを察し、冷静になったのか、深々のお辞儀をしながら晶に謝罪をした。


「あ、でも連絡先くらいなら……」

 一方的に拒絶するのは申し訳ないと思ったのか、連絡先の交換を申し出る晶。


「ほ、本当ですか!?」

「ひゃっっっ!!」

 まさかの申し出で驚きを隠せない恵。恵は喜びのあまり晶に飛びつき抱きついた。飛びつかれると思っていなかった晶はそのまま押し倒される方になった。


 それだけでなく、勢いが乗っていたのか、お互いの鼻と鼻が触れ合っていた。つまりは至近距離なわけで、自覚をすると2人して顔を逸らした。


「なんか、そのごちそうさまです!」

「私なんかと…その、ごめんなさい!」

 感謝の意を示す恵と、自分なんかがと卑下する晶。相反する言葉が同時に発せられた。


 それが可笑しかったのだろう。気づけば2人して笑いあっていた。


「私ね、恵。あなたの名前は?」

「えっと…晶です」

「晶ちゃんね。ねぇ!このままお話しにそこのカフェ行きましょ。晶ちゃんに私のこと知ってもらいたくなっちゃった!」

 そう言って恵は晶を起こすと、そのまま手を引っ張り図書館の外へと連れ出した。


 晶自身も抵抗することなく引っ張られながらもついて行く。先程までの戸惑いで固まった表情ではなく、どこか穏やかな、しかしながら熱っぽい表情で。



 その後2人はカフェへ行ったのだろうか、はたまた別の所に行ったのかは当人しか知らない。だが、その後日に2人して図書館に来る姿が見られた。


 その事だけで十分だろう。


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