金髪色白女子高生の淫らな殺人

「ねーねー、聞いてくれる?」


 その女子高生は、まるで同級生の友達相手に話しかけるような気軽さで言った。「うち、最近、毎日が楽しいんだ~」


 血塗れの死体はフローリングの床の上にひとつ、ソファの上にふたつある。


 ここはとある高層マンションの一室のリビング。日差しがよく入ってくるため、ぽかぽかと暖かい。血の飛び散った白いカーテンが窓からの風に揺れていた。

 女子高生に話しかけられているのは、三つの刺殺体の父親に当たる男だった。腰が抜けたまま壁の隅で震えている。


「な、何なんだ、おまえ」興奮で呂律が回っていない。「突然リビングに入ってきて、よ、よ、よくも、人殺し」


 セーラー服の女子高生は、左手で金色に染めた髪を耳に乗せ、右手で無造作にナイフを持ったまま、男に近づいていく。


「ごめんね、これ、お仕事なんだー。うちって殺し屋だから、依頼されたら……くらいあんと? の言うとおり殺さないといけないんだよ。たくさんお金払ってまで、あいつを殺してほしいってお願いしてくる人、いっぱいいるからね。ウザいから殺して! って。お父さんも何か恨まれることしたんでしょ?」

「し、知らない」

「そ? まー、うちはこのお仕事のおかげで毎日楽しいからいいけどね~」


 女子高生が一歩踏み出す。男が「ひっ」と声を上げて顔を両手で守るようにした。直後、肉片が宙を舞う。男の指が何本か切断され、ポトポトと床に転がった。

 部屋に悲痛な叫びが響く。男はのたうち回っている。

 それを眺めながら、


「はあぅ……」


 女子高生は恍惚の表情を浮かべた。「やっぱり、すっごく気持ちいい……とろけちゃいそう……」


 そう言いながらも女子高生は男を斬るたびに快感に表情を緩ませる。右手に握られた大きな対人用ナイフが、真っ赤な血で彩られていく。

 生臭い匂いで満ちる部屋の中、裂傷だらけでうずくまる男が、最後の気力を以て女子高生を見上げた。


「うう……お、おまえ」

「んー?」


 男は、ガチガチ鳴る歯を抑えようとしながら唾を飛ばす。


「おまえ! すぐに、すぐに警察に追い回されて、逮捕されることになるぞ! こんなことして許されると思うな、世間はおまえの罪をゆる、許さない! おまえはもう刑務所行きだ、刑務所から出てはこれな」


 こひゅう、と男の口から息が出た。遅れて真っ赤な血液がごぽぽと溢れる。鋭利なナイフは男の喉の皮を破り、肉と軟骨を貫き、気管に侵入、頸椎で止まる。女子高生がナイフを水平にすると、男の喉の中はぐちゃりと掻き回される。そのまま肉の内側から頸動脈を切り裂くように刃が振り抜かれた。鮮血が噴き出て、女子高生の制服を濡らす。ビグン、ビグンと男が痙攣した。

 返り血に塗れた女子高生は、ぞくぞくぞくっと体を震わせ、口の端を吊り上げる。


「はあ……気持ちいい……♡」


 やがて男は動かなくなり、部屋に沈黙が訪れる。




     ◇◇◇




「いい加減にしろ」

 松田まつだ紫乃しのは声に怒気をはらませる。

「ごめんってば~」

 夢見崎ゆめみざきキャナは甘ったるい声でそれに応えた。


 松田事務所はK市の外れに位置している。寂れた外観をしたビルの四階。表向きは事務や経理の代行をする業者としてここを借り受けている。


 では裏では何をしているのかというと。

 その業務は、あまり社会的に褒められたものではない。


「またおまえは私の手をわずらわせたな。おまえは今回四人殺したが、依頼では殺害の対象はあの一家の父親だけだ。依頼された人間以外の殺人はやめろと常々言っているだろう」


 煙草を指で挟み、事務所のオーナーたる松田紫乃が忌々しげに煙を吐き出す。


「死体掃除やら口封じやらの後始末をするために業者に払った金額、おまえ、いくらだと思ってる」

「だーいじょうぶだよ! そのうちおっきい仕事が来たら、払った分を取り返すくらいにゼッタイうまくやるから!」

「その仕事を取ってくるのも私の役目なんだがな……」


 心配事などまるでないというふうな笑顔をするキャナに、紫乃は額に手をやるしかない。煙草の紫煙がゆらりと立ちのぼった。


 犯罪の代行、主に殺人代行というのが松田事務所の請け負う仕事だ。紫乃はキャナの雇い主であり、キャナは紫乃に仕事をもらって人を殺すいわゆる殺し屋。業界では零細に近いが、惨殺系の依頼を快く請けてくれる業者であるとして一部から人気が出始めている。


 紫乃は灰皿に煙草を押しつけ、本日五回目のため息をついた。


「いいか、キャナ。おまえがいくら〝快楽殺人鬼体質〟を持っているといえど、時には我慢も必要だ。キャナ。おい。聞いているのか」

「ほぁ、このチョコおいひー!」


 聞いていなかった。高校の制服姿をしたキャナはスカートがめくれるのにも構わずソファに寝転び、菓子をつまんでいる。


「……まずはその自堕落な性格から直せ。今日はもういい。どこかに行っていろ」

「あ、そういえば報酬はー?」


 紫乃は面倒そうな顔をして、キャナのもとへ封筒を投げる。中身を改めるキャナ。

 紙幣が一枚入っていた。


「……いちまんえん」

「そういうこともある」

「ないよ! もっと取り分あるはずでしょ! しののんが現役のときは一人殺すたびに百万円以上もらってたって言ってたもん!」

「私は優秀だったからな。だが今回に関しては、どこぞの無能が無辜の人間を無意味に殺して無駄な金を事務所から拠出させたせいで、払えるものも払えない」

「うそつき! 守銭奴! ブラック企業!」

「ここに住まわせてやってるだけでもありがたく思え。おまえの学費やらだってばかにできないんだぞ。もし好待遇が望みなら、不必要に人を襲わないことだな」

「うぅ~……もういい! 外行ってくる!」

「そうしろ。いられても鬱陶しい」


 紫乃がしっしと手で払うと、キャナは顔を真っ赤にして、ぷいとそっぽを向いた。出入り口まで歩いていき、取っ手に手を伸ばす。

 次の瞬間、部屋の中で刃のような風が吹いた。


「……キャナ」


 ナイフを持ったキャナが無表情で紫乃に刺突を放っていた。


「何の真似だ?」


 紫乃は片手でナイフの柄を掴み、方向を逸らしていたので無傷だった。常人を超えたスピードにより机の書類が風に舞っている。ひらひらと用紙が床に落ちた頃、キャナは力を抜き、紫乃から離れた。

 消えていた表情を、嘘偽りのない笑顔に変えて、キャナは明るく言った。


「なんでもないよー。んー、まだダメだね。じゃ、今度こそ外行ってくる!」




     ◇◇◇




 事務所のビルに背を向けて、とことこと歩く。金色に染めたサイドポニーをぴょこぴょこさせながら、街のほうを目指す。


 気象予報によると、今日は冬の割りに寒くなく、春と勘違いするような陽気らしい。確かにその通りで、ここ数週間の中では幾らか暖かかった。キャナにとってもまた、コートを羽織らなくても制服とカーディガンだけで事足りる寒さだ。


 休日にもかかわらず女子高生の装いなのは、単にキャナの趣味だった。仕事をこなすときもほとんどの場合この姿。キャナの部屋には、返り血がかかった場合に着替えるための制服がクローゼットに何着も用意されている。


「あーあ、たったの一万円かあ。欲しかったピアス買えるかなぁ……」


 怒りが収まってきたキャナは今度は財布の心配を始める。松田事務所は業界大手ではないから、殺しの依頼は三ヶ月に一回あるかないかという程度だ。


「しののんは机に座ってパソコンいじってるだけで、うちは肉体労働なんだから、もっとくれてもいいのにぃ……」


 とはいえ、キャナもわかっていた。紫乃には以前から衣食住を約束されていて、学校にも行かせてもらっているし、キャナにとって呼吸と同じくらいに必要な殺人の仕事をも提供されている。破格の待遇だった。

 紫乃は産みの親でも育ての親でもないのにだ。


「ほんとは感謝しなきゃなのかな……」


 ふとキャナの中で、育て親の顔が浮かぶ。

 連鎖的に思い出がよみがえってきそうになるが、そこを何者かの声が遮った。


「あっ、キャナおねーちゃん!」

「ん? ああ、シンくん!」


 キャナへ控えめに手を振って近づいてくるのは、野球帽をかぶった少年だった。手を振り返す。「また会ったねシンくん! 昨日も、一昨日もここで会ったよね?」


「う、うん。偶然、だね」


 川島かわしま慎太しんたは、近所の小学校に通う五年生だ。

 彼との出会いは数週間前。

 キャナがこの近くの公園を通りかかったとき、慎太は中学生くらいの怒れる集団に囲まれて、服を脱ぐことを強要されかけていた。愉快なことではない。だが、不快でも中学生の威圧に耐えることなどできない。しかしそこへキャナが現れた。一人を叩きのめせば他は勝手に逃げてくれる。覚えてろと捨て台詞を吐く相手に、キャナは「次やったら殺すよー」という、殺し屋が言うと洒落にならない台詞で応えたものだった。


 それ以来、慎太はいじめられなくなり、また、こうしてよくキャナと会うようになっていた。


「うーん、でもシンくん、偶然にしてはよく会いすぎてない?」

「そ、そうかな?」

「今週はもう四回以上会ってる気がするよ? こんな偶然ってあるかな?」

「う……ぼ、僕、ここらへんの道よく通るから……」

「そっかー。待っててくれてたわけじゃないのかぁ」

「えっ? ま、まあ、うん……」


 キャナが慎太の顔をのぞき込むように見下ろすと、慎太は、ハッとして野球帽のつばに隠れるようにする。

 ふうーん? と声を出し、キャナはニヤニヤと笑った。


「い、今さ、キャナおねーちゃん、暇?」

「ひま~。ケンカってほどでもないけど、いろいろあって、家を飛び出してきちゃったんだよね~」

「そうなんだ。じゃあ、その、この前みたくまた公園で話そう?」

「ん、いいよ~♪」


 キャナの軽い返事に、ぱあっと笑顔になる慎太。だがすぐに取り繕うように顔をむすっとさせた。


「そう。……ありがと、キャナおねーちゃん」


 そんな少年を見て、キャナは意味ありげに微笑む。




     ◇◇◇




 キャナは慎太から恋心を抱かれていることに気づいている。慎太を救けて手を差し伸べたときから、彼の自分を見る目はただの恩人に向ける目とは違っていた。一目惚れされているのに近いのかもしれない。しかしキャナはあえて、気づかない振りをしていた。

 可愛い男の子には、意地悪をしたくなる。

 キャナにとって、ここ最近初めて感じ始めた感情だった。


「じゃ、いつものベンチに座ろっか♡」




     ◇◇◇




 自販機でそれぞれが自分の小遣いで飲み物を買い、二人はベンチに腰掛けた。しばらく他愛のない話を続ける。


 慎太はキャナの高校の話を聞きたがった。部活動のことや、学校行事のこと。昼休みに購買で売り出す人気のパンのこと。キャナは可能な限り少年の好奇心や憧れに応えてやった。応えるたびに慎太は目を輝かせたり、キャナの声に聴き惚れたりする。悪くない時間だった。キャナも慎太の言葉によく声を立てて笑ったし、体全体で驚いたり興味を示したりして、慎太に「大げさだなぁ」と言われたりもした。


 ただ、慎太が言葉少なになる話題もあった。


「あ、あのさ、キャナおねーちゃん」


 その話題、キャナのクラスの男子についての話を慎太が遮る。


「キャナおねーちゃんって、その……彼氏とか、いるの?」


 キャナは一瞬固まった。そして思わず頬を緩ませる。

 俯いてこちらを見ようとしない慎太に、目を細めた。


「彼氏かぁ。どうだろー? シンくんはどう思うー?」

「えっ?」

「シンくんは、うちに彼氏がいるように見える?」

「え、えっと……」


 ウェーブがかった金髪を指先でくるくると弄びながら、慎太の答えを待つ。逡巡する彼の様子を眺めるのが愉快だった。


(……かわいー♡)


「僕は、あの、キャナおねーちゃんには彼氏がいてもおかしくないと思う……」

「なんでー?」

「だって……その……か、かっ……」

「か?」

「……わいい、し……」

「んー? 聞こえなかったなー、もっかい言って?」

「うぅぅ……」


 小さな体を更に縮こまらせる慎太。キャナは悪戯な笑みを浮かべて、彼の頬を指で突く。


「ひゃっ!?」

「だいじょーぶだよ? うち、彼氏とかいないから☆」

「あっ、そ、そうなんだ……」

「好きな人は何人もいたけど、みんな殺しちゃったし♪」

「え」

「あ」


 慎太が顔を上げる。キャナがしまったという顔をする。

 その後で、まあいっか、という顔をした。


「あはっ、実はうち、殺し屋なんだー☆」

「……えぇ、嘘だぁ」

「ほんとだよー? いつも使ってるナイフ、見せたげよっか?」

「キャナおねーちゃん……?」

「ホントだよ? この前だって四人くらい……五人だっけ? 殺してきたし。だからうちと関わると危ないかも☆」

「……そんな冗談、面白くないよ」


 キャナは傍らの少年を見た。

 怒った顔で、こちらを見返していた。


「キャナおねーちゃんが殺し屋なはずないよ。変なこと言わないで」

「シンくん」

「だってさ、キャナおねーちゃんは優しいし、純粋って感じだし……人殺しなんかするはずないよ。僕、おねーちゃんにそんなこと言って欲しくない。……嘘だよね? ねえ、キャナおねーちゃん……今言ったこと全部、本当に冗談だよね? ねえ。なんか言ってよ……違うって言ってよ、キャナおねーちゃん」


 少年はキャナの表情や声色に、闇を感じたのかもしれない。

 どことなく本気で言っているように感じて、怖くなったのだろう。

 そんな彼のことが可愛くて、キャナはそっと抱き寄せる。


殺しえっちの対象には見てなかったけど……イイかも♡)


 戸惑いつつも頬を紅潮させる少年に、自らの唇を近づける。


 ――――夢見崎キャナは〝快楽殺人鬼体質〟である。肉を削ぐ感覚、断末魔、追い詰められた人間が豹変する様子などといったものを、見たり聞いたり感じたりすることにエクスタシーを覚える異常体質。生理現象のために、人を殺す。キャナにとって殺人とは、セックスと同義だ。


「き、キャナおねえちゃ……!? ぼ、僕、うわ、あ、あ、」

「もぉ、シンくん。いいから……ちゅー、しよっ?」


 きっと、とキャナは思う。

 きっとここでキスしたら、引っ込みがつかなくなる。

 もしもこのまま唇を押し付け、舌を絡ませたら……きっと唇を噛みちぎって血をすすり、キスをしながら押し倒して、ナイフを取り出し皮膚をゆっくり、ゆうっくり裂いて、可愛い中身を掻き回して、そうしている間にも失神するまでキスを続けて、それにも飽きたら耳元で愛を囁いて、だんだんと冷たいナイフがお腹に入っていくのってどんな感じなのかなぁ、苦しがるシンくんも可愛いよ、泡を吹くシンくんの顔をもっと見せてね、もっと白目剥いて血塗れになろうねって


『いい加減にしろ』

『またおまえは私の手をわずらわせたな』

『依頼された人間以外の殺人はやめろと常々言っているだろう』


(……そういえば、そうだった)


 キャナは、唇でなく額にキスをした。

 すっ、と体を離す。


(まあ……たまにはしののんの言うことも聞いてあげないとだよね……)


「あ、あぅ、あ」


 目を泳がせる慎太に「シンくん、あのね」と言って、ベンチから立ち上がる。

 にっこり笑い、少し屈んで、頭を撫でてやった。


「さっき、可愛いって言ってくれてありがとね☆」


 それから。

 取り乱してまともに喋れなくなった慎太と別れて、キャナはビル街へと歩いていった。




     ◇◇◇




「えっ? なんて?」

 夢見崎キャナが頓狂な声を出す。

「何度も言わせるな」

 松田紫乃が億劫そうに言った。


 あまり社会的に褒められたものではない業務をする松田事務所。今日も紫乃の吸う煙草の煙がたゆたっている。中途半端に下げられたブラインドが部屋を半端に暗くしていた。


「どこが聞き取れなかったんだ」

「とりあえずもっかい言ってみて」

「政治家の秘書を一家ごと殺してほしいという依頼があった」

「そのあと」

「依頼主は政治家だから報酬はかなり良い」

「そのあと」

「秘書というのは川島安彦という男で、妻子持ちだ」

「それ! そこ詳しく!」

「ほら」


 紫乃が投げて寄越した紙束を、キャナは急いでめくった。人の顔写真と個人情報が印刷されている。その中の一項目を食い入るように見つめる。


「この、川島慎太って」

「一家殺害の依頼だから標的に含まれているが。知り合いか?」

「うん。最近よく一緒に話したりしてる」

「そうか。……じゃあ、この依頼は断るか……?」

「え、なんで?」

「何で、って……」


 紫乃はキャナの表情を見て、呆れたように苦笑した。


「いや、何でもないさ。……が、一ついいか?」


 吸い殻を灰皿で潰して紫乃は言う。「おまえには罪悪感はないのか?」


「ざいあくかん?」

「別に責めているわけじゃないし、道徳の授業をしたいわけでもないが、哺乳類というのは少しくらいは同じ種族を殺すことに抵抗があるものだろう。何も感じず殺せるのか? それがたとえ友人や、恋人や、家族だとしても?」


 どうしてそんなことを訊くんだろうとキャナは思った。慎太のことを思いだす。彼は自分のことを優しくて純粋だと言ってくれた。人殺しなんてするはずないとも言った。彼の論理ならば、優しくて純粋な人は殺人をしないということだ。

 キャナからすれば、たとえ心の底から優しくて純粋でも、殺しをするかしないかには関係がない。

 なぜなら、キャナは人を刺さなければ生きていけない運命にあり、それがキャナにとっての普通であり、自称・一般人の感覚は到底理解できないからだ。


 きっと慎太はキャナに殺されるとき、裏切られたような顔をすることだろう。

 キャナは慎太を裏切ったつもりなど、欠片もないというのにだ。


「……そういうの、よくわかんないよ。友達とか、好きな人とか、育ての親とか……全部殺したことあるけどさ。うちにとってこれは、しののんにとってのタバコくらい必要なものだし。だって、すっごく気持ちいいんだよ? やらずにはいられないよ! あ~、今でも思い出すなあ……お母さんをいっぱい刺したときのこと」


 キャナはうっとりとして、ふやけるように口元を歪めた。


「すっごく気持ちよかったなぁ……☆」

「おまえはホントに」


 紫乃が楽しげに笑った。


「異常者中の異常者だよ」




     ◇◇◇




 一週間後。

 キャナは慎太とたびたび語り合った公園の前を通りかかっていた。

 ベンチを眺める。

 あの少年とは、もう会えない。

(……ありがとう、シンくん)

 肉を貫く感覚と断末魔がよみがえり、キャナは頬を染めて微笑んだ。


「最期のえっちのこと、忘れないよ……♡」






 ――『金髪色白女子高生の淫らな殺人』了――

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