第22話 雨の中
「いやーこれどうしたもんか...。」
「まぁ良いんじゃない?これも思い出の一つってことで。」
その日の帰り道、俺は一枚のチケットを片手に唸っていた。
俺たちはあの後責任者のおじさんにもの凄く謝られ、こんなものしかありませんが...とこの水族館の無料招待券を貰った。
――でもごめんおじさん。同じ所にはしばらく来ないから...。
そう思ってチケットの行き先を考えているとポツポツと雨が降り出した。今日は雨降らないって言ってたじゃんかよぉ!
そんな俺の嘆きを
「ど、どうしようか。とりあえずどこかは入れるところを探そう。」
「近くにスーパーがあるよ!あそこまで急ごう!」
早足でスーパーへ向かう。今日は濡れてばっかだなおい!
「とりあえず一応折りたたみ傘は持ってるけど...。」
「けど?」
「大きさが...。」
と言って有希乃が取り出した折りたたみ傘は確かに男女が入るには小さすぎる。
「無理するなって。俺ちょっと傘売ってるかどうか聞いてくるよ。」
そしてしばらくして...、
「...ないらしい。仕方ない、俺はダッシュで帰るから有希乃は雨に濡れないように...、」
「それはだめ。」
そうと決まれば実行というところで有希乃に制止させられた。
「優しいのはユウ君の良いところだけどもっと自分を大切にして欲しいな...。」
「え...。」
有希乃からの思いがけない言葉に俺は固まる。
「そんなことしてもしユウ君が風邪でも引いたら私許してもらうまで罪悪感で押し潰されそう...。」
「いや、許すも何も...。」
最初からそんなことで怒るなんてことないのに。
どうしたんだろうか?今日の有希乃はいつも通りじゃないな。
「とりあえず濡れるなら一緒。ユウ君だけがそんなことになるなんて絶対だめ。」
「分かったよ。じゃあ一緒に帰ろう。」
俺たちは小さな折りたたみ傘の中身を寄せ合って雨の中を進む。
一歩一歩歩くごとに感じる有希乃の暖かさや柔らかさ。俺は不覚にもこの時間が少しでも長く続けば良いのにと思ってしまう。
が、時間というものは平等で無情。気付けば有希乃の家の前だ。
「じゃあ、この折りたたみ傘を貸すからできるだけ濡れないように帰ってね。返すのは学校で良いから。それじゃ、今日は楽しかったよ。ありがとう。」
「あぁ。またどこか行こうな。」
翌日、風邪を引くことなくちゃんと傘を有希乃に返すことができた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
読んでいただきありがとうございました。正直これほど読んでいただけているとは思いもしませんでした。読者の皆様には心より感謝いたします。
さて、一つお知らせがあります。
誠に勝手ながらこの作品を毎日投稿から2日投稿とさせていただきます。
一番大きな理由としてはそろそろ大学のオンライン授業が始まってしまうのでその準備に取りかかるためです。
細かい事情もあるのですがそこは割愛させてください。
今まで読んでくださった読者の皆様には誠に申し訳ありませんがこれからもこの作品を読んでいただけると幸いでございます。
改めて本当にありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます