それはまるで、神話の戦いの再現のようにも思える光景だった。


 怪獣にとっても巨人は敵に当たるらしく、威嚇するように吠える。だが、巨人はそれを意に介する様子も無く、堂々とした立ち姿のまま構えていた。

 それが気に食わなかったのかは分からないが、怪獣が再び吠えると、巨人に向かって――つまり僕達のいる方向に向かって――突進してくる。


 思わず皆の口から悲鳴が漏れる。だが、巨人はそれを腕のような器官で易々と頭部を受け止めて見せた。

 かなりの突進力だったのか、地が震え、大小様々な土埃が宙を舞う。

 怪獣を受け止めた巨人は、そのまま頭部を持ち上げると、ひっくり返すようにして投げ飛ばす。

 もんどりうって仰向けに倒れ、怪獣の触手だらけの胴体が露わになる。だが怪獣も負けじと、その触手の内数本を突然、巨人に向かって殺到させる。

 伸びた触手が巨人の首や腕を捕え、そのまま引き込む。

 触手の海に呑まれる巨人を見て、ああっ、と誰かが零す。

 だが――不思議と、僕の中に心配の念は無かった。


 徐々に触手の中へと埋もれていく巨人。

 もう駄目か。そう思われても仕方ない状況。

 その時、巨人から凄まじい閃光が走った。

 一瞬の出来事に目を覆う。バチリ、バチリと何かが弾ける音がし、今までに嗅いだこともないような不快な臭いが鼻をつき、何事かと僅かに目を開く。

 見れば、巨人に触れている触手が無惨にも焼け爛れ、段々と千切れていっているではないか。

 何事もなかったかのように上体を起こした巨人は、そのまま腕のような器官を触手に突っ込み、その内を焼く。

 これには怪獣もたまらず、悲鳴のような雄叫びを上げる。そして、触手を数本束ねたかと思うと、それを鞭のようにしならせ、巨人の胸に叩きつけた。

 かなりの威力だったのか、その一撃を受けた巨人は吹き飛ばされ、怪獣と巨人の間に距離が開く。

 実力が拮抗している。その光景を見て、誰もがそう思った。

 すると巨人が両腕を振り上げ、怪獣へとその先端を向けた。

 瞬間、先端が激しく明滅したかと思うと、光線とでも呼ぶべき一条の光が、怪獣の身体を貫いた。

 光線に貫かれた箇所から、緑色の煙のようなものが噴き出すのが見える。

 悲鳴を上げる怪獣に、巨人はなおも光線を浴びせかける。だが、決定打にはなっていないらしい。

 怪獣が再び吠えたかと思うと、反撃するように浮き上がらせた触手を突き出し、巨人の身体に次々と突き刺していく。

 触手が突き刺さる衝撃で仰け反る巨人。だが、巨人はそれでもなお、光線を浴びせかける。


 どれだけ時間が経ったのだろうか。最初に変化が起きたのは巨人の方だった。

 巨人の身体から放たれる光が明滅し、まるで弱っているかのような印象を受けだす。

 嗚呼、もう駄目なのか。誰もがそう思ったであろう。

 そんな時、巨人は唐突に光線の発射を止め、前進を始めた。

 そして、触手をその身に受けながら怪獣の元に辿り着いたかと思うと、なんとその巨体を軽々と天高く持ち上げた。


 そして――怪獣の身体から光が漏れ出たかと思うと、激しい爆音と共に大爆発を起こした。

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