長く、曲がりくねり、いくらか昇り下りを繰り返す道無き道を、吹いてくる僅かな風を頼りに進む。

 どれ程の時間が経過したのだろうか。気付けば、背後から聞こえていた喧騒は嘘のように静まり返り、サークルのメンバーもまた誰も、何も話そうとはしなかった。皆、生きて脱出する事で頭が一杯だったのだろう。


「出口だ!」


 程なくして、メンバーの内の誰かがそう叫んだ。

 見れば、ほんの僅かだが奥の方に光が照っているのが見える。恐らく月明かりだ。

 メンバーの誰もが、その光景に歓喜した。

 かく言う僕も、口にはしなかったが嬉しかった。さっきまであった不可視の圧迫感が無くなり、安堵からか、我慢していたもの全てを――主に胃から――吐き戻してしまいそうで、しかしそれを何とかせき止める。しかし、なんやかんやで僕もその喜びを誰かと分かち合いたくなり、隣にいる筈のSに声を掛け――


――……あれ? Sは?


 そこで、僕はようやく、彼女がいない事に気付いた。

 辺りを見回しても、彼女の姿は何処にもない。

 それを、車に戻る事を提案していた教授に急いで言う。


「何? ……しかし、戻って探そうにも……」


 当然、渋るとは思っていた。恐らく他の連中も。だから、せめて自分だけでも探しに行きたいと思い、声を上げ――


「……うわッ!」


 ――ようとして、突然起きた揺れに遮られてしまう。


 その揺れは断続的に、かつ、どんどん大きくなっているらしく、頭上から土埃が降ってくるのが感じられた。

 揺れは当然のようにサークルの面々の不安を煽り、混乱の声を上げだす。


「出ろッ! 此処から出るんだッ!」


 こうなるともう、Sを探しに行く事もままならない。大きめの石が近くに落ち始めた時点で、僕らはこの洞窟から脱出を選択せざるを得なかった。


 外に出てみれば、どうもそこは高台が近くにあるらしく、小刻みな揺れに耐えながらなんとか登っていく。

 登った先に見えた景色は、月明かりに照らされてぼんやりと浮かび上がる、僕達のいたあの村だった。どうやら此処は、村の外れにある高台らしい。近くには少ないながら家がある辺り、その周辺の住人があの洞窟に出入りしていたのであろう。


 ――と、そんな風に見ていると。


「な、なぁ、揺れ大きくなってね?」


 一人がそんな事を口にする。確かに、さっきよりも揺れが激しい。縦に、横にと地面が大きく揺れているのがハッキリと分かる。

 その揺れは、徐々にサークルの面々が上げる不安の声を掻き消す程に大きなうねりになっていく。


「お、おい! アレ!」


 一人がそう叫びながら指をさす。

 その方向を見れば、村長の家から少し離れた場所が陥没していっているではないか。

 その滅多に見ない光景は、僕の心臓の鼓動を加速させ、気を張り詰めさせる。

 村から離れているとはいえ恐怖心もあるが、それ以上に混乱しているというのが正直なところだ。何が起きればあんな陥没が起こるというのか?


 遠目でハッキリとは見えないが、その陥没は周囲を更に飲み込んでいっているように見えた。今でこそ離れているが、規模次第ではこの高台も危ないかもしれない。

 僕としてはSの事が非常に気がかりではあったが、自分の命だって惜しい。

 逃げた方がいいのでは、と教授に提案しようとした、その時だった。


「なんだ……アレは……」


 今度はなんだと思い、視線を向ける。


 陥没の中心地、そこから巨大な何かが地中から姿を現そうとしていた。

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