あの時、Sが僕の手に刻んでくれたこの奇妙な星のような印のお守りは、確かに効力を発揮してくれたようだ。

 一見すると五芒星のようだが、中心には目のようなものがあり、更にその中にある瞳は、まるで立ち昇る炎のようにも見える。

 文字通り現実離れしたこの場において、これに関しては疑わず信じてよかったと、僕は内心安堵していた。


『おのれ……おのれ! 何故その印を!』


 蓮頭様――思えばこんな事までされて今更『様』と付けるのも変な話だが、念の為だ――の声が、それまでのどこか無機質な声色から打って変わり、明らかに怒りの色を含ませたものになる。そして、目の前に来ていたあのおぞましい姿が、中央の壺の元へと戻っていた。その身体はまるでノイズが掛かったように霞みだしている。どういう訳かは分からないが、奴にとってこの印は、毛嫌いする以上の何かを秘めているらしかった。


「今だ! 早く!」


 蓮頭様の異変に気を取られていた僕に、Sが声を掛けてくれた。

 確かに、あの得体の知れない存在に対してお守りの効力が長続きするとまで信じるのは希望的観測に過ぎず、あまりにも危険だ。この場から脱出出来て、初めて安心できる。

 蓮頭様が離れたおかげなのか、頭が冷えて冴えてきたようにも感じる。その感覚を頼りに、僕は脱出口を求めて周囲を見渡す。僕の予想が正しければ、僕らが入ってきたあの蔵とは別に出入口がある筈だ。村自体それなりの規模があるという事は、あの蔵に一挙してやってくるとは考えにくい。実際、目が覚めたあの時、蔵の方から足音はしなかった訳であるし。

 そして、未だに状況が飲み込めていないサークルの面々に声を掛ける。

 彼らもようやく我に返ったようで、各々「逃げようぜ!」「どこに!?」と声を上げる。

 そうして辺りを見回して――薄っすらと、周囲より一層仄暗い部分が見えた。そこに近づいてみれば、あの生温いそよ風が肌を撫でてきたではないか。恐らく、外に通じているのだ。

 僕は咄嗟に皆に呼びかけると、我先にとサークルのメンバー達が向かって行く。

 それに続くように、僕も彼らの後を追っていった。





******





『……ぐ、カカ。そう、か。貴様、貴様だった、か』


「おや、その様子だと君は……自称支配者連中の内の誰か、かな」


『……嗚呼……猶更解せぬ。解せぬぞ』


「何がだい」


『貴様にとっても、この星の生命なぞ、取るに足りん塵芥。それを……何故なにゆえに救わんとする!?』


「……そう見えるか。ま、そうだね」


「別に、救おうと思ってそうしてるわけじゃないさ……けど」


「少なくとも、君らのような存在を放ってはおけない。例え……休日返上してでもね」


『……ほざけ、ホザケ下僕風情ガ!!! ナラバ、我ガ化身ヲモッテ滅ボシテクレヨウゾ!!!』




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