現
いあ いあ はすとぅ
いあ いあ はすとぅ
木片に灯された炎で薄く赤色に光る静かな洞窟に、身の毛もよだつような声が響いてくる。
出来るだけ足音を響かせまいとする僕らの努力を笑うかのように、声が四方八方から降りかかってくる。
寝ている人を連れ去る辺り――僕達を巻き込んだ盛大なドッキリ企画でもない限り――真っ当な連中ではないとは思ってはいたが、まさか本格的にカルトめいているなどとは思うまい。
心なしか、その詠唱にも似た声が、以前読んだ小説において狂信者が邪神を讃える際に発する言葉のようにも聞こえて来る。
――そんな、馬鹿な。
この期に及んで、今起きている事が夢の出来事なのではないかと思い始めている自分の尻を叩くように、僕は軽く音が出ない程度に自分の頬をはたく。
しかし、緊張だけはほぐれない。何か、自分の生命を脅かす何かがあるのではないかという想像が僕を堅く縛り上げる。如何に非現実を受け入れようとする思想を持っていても、生存本能はそうもいかない。
奥の方から吹いてくる湿気を帯びた生温い風に乗せられた、何とも形容しがたく生理的に嫌悪感を催さざるを得ない臭いが、僕の不安感情を加速させる。
岩の壁面に触れた瞬間、そこに何かの虫がいるのではないかという考えが、余計な不快感を生み出す。
そうした己の被害妄想と戦い、胃液がせり上がって来る感覚に怯えながら、一歩、また一歩、歩みを進める。
そんな僕に対し、前を進むSの足取りに、迷いは見られない。とはいえ、洞窟を歩く経験もあまりないのか、時々壁に向かってしまう事もあるが、それでもすぐに別の道を探せる辺り、さっきから聞こえて来るこの不気味な詠唱は、彼女になんら影響を及ぼさないようだ。
それからはたして、どれだけ歩いただろうか。
おぞましい詠唱の声が、段々と大きくなってきている。
加えて、丁度目前の角の先に、何やら僕らの持つ即席松明の光とはまた異なる、緑色の反射光が見えてきた。
前を行くSは、咄嗟に松明を後ろ手に持つ。松明の光がバレないようにする為だろうか。
それに倣うように、僕も松明を後ろに隠す。
そして、二人して息を潜めてその光源があると思しき先を覗き込む。
はたして、そこで行われているのは、おおよそ人の行う営みの中では見られないような光景。
広大な広間を、妖しげな光と奇怪な言霊が支配している。
光源は広間の中央に据えられた大きな壺から漏れているらしい。光と共に漏れ出る湯気――あるいは煙――が、いつぞやにオカルト本で見た、魔女が薬を作る絵を想起させる。
そして、それを取り囲むように横たえられた人々と、更にその外を囲む、全身をローブで包んだ人々。それなりの距離があってよく見えないが、あそこに横たえられているのは恐らく、連れ去られたサークルのメンバーだろう。ローブに身を包んでいるのは、他の村民だろうか。上で僕達を探している連中もいるのかどうかはわからないが、先程の蔵の入り口からここまで誰とも遭遇していないのを鑑みるに、他にも出入り口があるのかもしれない。
サークルの皆を助け出したいのはやまやまだが、ここからどうすればいいのか、まるで思い浮かばない。
「……落ち着いて。ここは少し様子を見よう」
そんな僕の焦りを見抜いたのか、Sが僕の肩にそっと手を置く。
そうして触れられて、僕は自分が過呼吸気味になりつつあったのに気づいた。
今でこそ連中が喋っていてバレないかもしれないが、いざという時に己の荒い呼吸でバレては、それこそ元も子もない。
Sに一言謝りながら、僕達は事の成り行きを見守る事にした。
「――頃合いよな」
どれ程の時が経ったのか。唐突に詠唱が途切れたかと思うと、聞き覚えのある声が響く。村長だ。
壺の一番近くに立っていたローブの男がフードを脱ぐと、見覚えのある禿げ頭が露出する。
「間もなくじゃあ。都合よく供物ん揃ったんは、まこと僥倖。……本来の数とは
村長のくぐもった笑い声が広間に木霊する。
「蓮頭様にとって戯れなれど、わしらにとっては叡智を脳に刻む、またとない機会……主らはもう蓮頭様と邂逅しとるのが癇に障るがのぅ」
話の途中、村長が不機嫌さを隠す事なく、横たわるサークルメンバーの方を一瞥しながらそう言った。
しかし、蓮頭様と邂逅している、とはどういう事だろうか。
その時、頭痛と共に一つのイメージが過った。
――全身が緑に煌く、僧侶の如き人影。人類という種を見下すような、傲岸不遜な態度をした……否、事実として、人類よりも上位の存在故の視点を持った、人ならざる何か。
それに気づいた瞬間、僕の身体が震えだす。「
原因は分かっている。恐怖だ。
もし――もはやここまで来ると『もし』という言葉では片づけられないだろうが――あの夢に出てきた何かが実在し、本当にあの時――つまり夢の中で――僕と問答をしていたとしたら。
それは、例えばホラー映画のような、第四の壁を挟んだ上での精神的な恐怖ではない。実害を及ぼす可能性のある、リアルな恐怖なのだ。
「さぁて……印ば捧げっぺ、皆の衆」
恐怖に震える僕を他所に、村長はおもむろに懐から何かを取り出す。それが何かは、この場からでは見えない。
そして、未だに目覚めないサークルメンバーの一人の元へと歩み寄る、その瞬間。
Sが突然立ち上がったかと思うと、火のついた木片を振りかぶり、投擲したのだ。
放物線を描くように飛んでいくその木片は、ものの見事にサークルメンバーを取り囲む面々の一人に直撃。火の粉が跳ね、ローブに引火する。
一瞬の痛みの後にそれに気づいたらしいその人は、大慌てでその火を消そうとジタバタともがきだす。だが、気が動転しすぎているせいか、むやみやたらに動き、逆に足がローブに絡まり――あるいはローブに足が引っ掛かり――転倒してしまう。
その間に、火は見る見る内にその人の下半身、そして上半身へと移っていく。
肺の中の空気をそのまま絞りつくしてしまいそうな悲鳴が広間に轟き、周囲の連中にも動揺が走る。というか、見ている僕にも動揺が伝わってくる。痛い程に。
「今だよ」
呆気に取られる僕を他所に、Sは僕を促すと、勇猛果敢に広間に躍り出た。そして、迷う事無く、ローブの集団の中へと突っ込んでいく。
僕もまた、置いていかれまいと、必死にそれを追う。
慌ただしく状況が動いているのか、視線の端で火の光が何度かチラつく。
必死過ぎて頭が回らない。こっちに近づいてきた連中を、思いっきり突き飛ばしたような気もするし、手にした松明で跳ね除けたような気もする。
ただただ、Sを見失わないようにするのに必死で。
広間の中央に辿り着いたのはすぐだった。
同胞達を止めようと村長の者らしい声が叫ぶ中、僕とSはサークルメンバーを揺すぶり起こそうとする。だが、まるで反応がない。
幸い呼吸はしているが、目覚めるかどうかまでは分からない。
試しに強めに頬を叩いてみた――勿論先に謝った――が、それでも起きないのだ。
「……無駄じゃあ」
喧噪の中、不意に投げかけられる深い怒りの籠もった声。
村長だ。怒りで歪み切った表情で、僕らを睨みつけてきている。
「そいつらん魂は、今や蓮頭様の掌ん上よ」
「……やっぱり、ご飯に何か仕込んでたんだね」
Sの一言に、村長は忌々し気に鼻を鳴らす。
「……ふん。どうも勘が鋭いらしい娘っ子らしいが。それにそこの坊主も、確かに『雫』ば垂らした飯を食ろうておった筈じゃが……いやはや、何ともツイとらん奴じゃのぅ」
『雫』。それが、あの嫌に鮮明な夢を見る原因になったものなのだろう。何か幻覚作用のある薬なのか、あるいは特殊な睡眠導入剤か何かなのか、そこまでは分からないが。
そう口にした村長は、僕らを心底憐れむような目で見てくる。
「しかし……現世にある者に手出しは出来ん。おめぇらに出来る事など、何もねぇ」
次いで村長は薄ら笑いと共にそう言うが……僕には少し、引っ掛かる事があった。
彼が言っているのは恐らく、あの妙な夢の事だ。嫌に鮮明だったあの夢が、村長が口にした『雫』とやらのせいでなったのなら、何故僕は目覚められたのだろうか?
村長の言う通り、運が良かったから? ……いや、それだけではない、気がする。
多分だが、本当なら僕はあの緑の怪人物――恐らく蓮頭様――の言葉に乗り、虜になってしまっていた。
しかし、僕はこうして目覚める事が出来た。その理由が、皆目見当がつかない。まさか、あの夢の中での蓮頭様の誘いを断ったから、なんて単純なものではあるまい。
そうして、僕が考え事をしていた時だ。
「……どうかな」
Sが口を開くと同時に、その手で一人――あのチャラいカップルの女の方――の頭に触れる。
何を、と思った瞬間だった。
彼女の白い手が淡く白く光ったように見えたかと思えば、女がピクリと瞼を動かしたのだ。
「ぅ……ん……あ……れ……」
女の口から声が漏れる。いよいよもって、僕はその光景に息を呑んだ。
「なんじゃと!?」
村長が叫ぶ。相変わらず周囲は騒がしく、こちらにやってくる者はいない。
「馬鹿な……お主、一体!?」
「……そりゃ、ただの大学生だよ。大方、『雫』、だっけ? それがあんまり効き目がなかっただけじゃないかな」
Sはそう返しながら、黙々と他のメンバー達にも触れていく。
そうする度に、眠りについていたメンバーの意識が覚醒していくのが見て取れた。
「おのれ……! わしらの神聖なる儀式を邪魔して、ただで済むと――」
血走る目に怒りを滾らせる村長は、手にしたそれ――捻じくれた歪な彫刻の施された、錆びたナイフをこちらに向けてきた。
何故か柄にはまった緑の宝石に吸い込まれるように目が行くが、僕はかぶりを振り、Sの邪魔をさせまいと松明を村長の方へと向ける。
「……お主、自分が何を……何の味方をしておるか、分かっとんのけぇ?」
村長のその言葉に、僕は即答しようとして――その言葉の意味を理解して、一瞬言葉に詰まる。
……正直、僕も彼女が「ただの」という言葉で収まるような、人間としての普通に当てはまる存在じゃないとは、思う。思うが……きっと、悪い存在ではない。それさえ分かっていれば十分だ。
そう思い直した僕は、松明を握り直し、村長を睨む。
『――もうよい。下がれ』
その時だった。聞き覚えの無い声が響いてきたのは。
その声がどんな声かと問われると、実に難しい質問だとしか言いようがない。
それに性別があるのかどうかも分からない、老いているのか若いのかも判別がつかない、かといって別に機械的な電子音声という訳でもない。
数百年、あるいは数千年の時を経た大樹を想起させる荘厳な声。そうとしか形容しがたい声だった。
そんな声が、己の鼓膜を振動させるのではなく、脳そのものに直接流れ込んでくる感覚たるや、まるで脳を直接震わせているようで、気持ち悪い事この上ない。しかも……なんと言えばいいのだろう。その言葉は明らかに日本語ではない。日本語ではないのに、自分の理解できる言葉として聞こえて来るのだ。
その声が聞こえたのか、村長が感極まった声を上げる。
「おぉ……おぉ……! 貴方様なのですけぇ……!?」
瞬間、村長の背後の大壺が爆ぜ、緑の煙が煌きながら立ち昇る。
『――我が求道を阻もうという輩、見逃す訳にはいくまいて』
煙の中で、緑の稲光が幾度も走り、やがて中心に影を形作る。
人のようなシルエット。皿のように横長の頭部。その影に、見覚えがある。
『どれ。如何様に我を楽しませようというのか、見せるがいい』
傲慢極まりない言葉と共に、それは煙の中から姿を現した。
はたしてそれは、夢で見たあの翡翠の僧侶と同じ……否、アレよりも質感があり鮮明で、故に生々しく、それでいて悍ましい姿だった。
袈裟のように見える体は、まるで翡翠色の肉をした生物を生きたまま服に加工したかのように、常に表面が流動し、胎動している。
顔面が伺えない程に大きな頭部の緑の笠は、宝石が埋め込まれているかのように煌き、首から下のグロテスクな肉体も相まってその異彩さを際立たせている。加えて、その輪郭は体からそのものから発せられる緑色の輝きで、酷くぼやけて見える。
その緑色の輝きが、僕の瞳を通して脳を、精神を蝕む。そんな未知の感覚に襲われ、気分の悪さに吐き戻してしまいそうになり、咄嗟に目を下に向けた。
「おお……なんと、尊き御姿……」
そんな僕に対し、村長はまるで真逆の発言をする。そこで悟った。アレは、常人であればある程、直視してはならないものだと。アレは、人間の脳では処理できない何かなのだと。
村長の感嘆の声が聞こえるまで気づかなかったのだが、さっきまでの喧騒がまるで嘘のように静まり返っていた。あれ程、炎のせいで慌てふためいていたというのに。
アレ――恐らく蓮頭様その人――を視界に入れないように見渡してみれば、地に伏して文字通りの燃え滓のようになった連中はともかくとして、数人は未だに火が引火した状態にも関わらず、その場で正座し、一様に一方向を拝んでいた。
……そして、悲鳴の代わりに別の言葉が流れてくる。
いあ いあ はすとぅ
いあ いあ はすとぅ
またあの言葉だ。すっかり耳にタコができる程に聞きなれてしまった僕とSとは違い、先程意識を取り戻した面々は一堂に困惑の色を示し――そして、蓮頭様を見てしまった。
「え、何!?何何何!!! 何なのマジで!?」
「うッ……う、ヴえェ……」
ある者は酷く混乱し、ある者はその場で吐いてしまった。それだけ、アレを視界に入れる事が、どれだけ精神的負荷が凄まじいのかが分かる。
「アレは……いや、まさか……」
教授は冷静にこの場を分析しようとしているが、恐らく今は役に立たないし、寧ろその方がいい。アレを理解しようとするのは自殺行為だと、僕の本能がそう言っている。
それ以上に重要なのは――此処からどうやって脱出するかだ。
僕達が入ってきたあの道は、既に人垣の向こう側。松明で無理矢理散らせば突破はできるかもしれないが、全員が逃げ出せるかと言われると怪しい。
……そこで、違和感が生まれる。此処に来るまで、僕達は誰にも出会わなかった。先に連中が降りたからと言われればそこまでだが、しかしそれにしても……此処にいる人間は、明らかに地上で見た時よりも多い。
『ふむ……我が誘いを反故にしたのみに非ず。何か……何者かが邪魔をした。相違ないな?』
「……その通りにございます。あの娘が、あの娘が!」
村長が、その枯れた木の枝の如き指を、Sに向ける。
『……成る程。猿からの進化体には稀に何かしらの力に目覚める者もいたが、今の世にもいるとは思わなんだ』
可能な限り目を逸らしている為、蓮頭様がどのような顔をしているのかは分からない。加えて、その声にはまるで抑揚が無く、どのような感情でそんな事を言ったのかも、まるで見当がつかない。
だが……少なくとも、彼女の存在は奴にとってあまり好ましくないというのだけは分かる。
『……それに、そこの坊主。そうだ。我が誘いを拒んだ坊主。
途端に、背筋を冷たいものが駆け抜ける。蛇に睨まれた蛙とは、今のような事を言うのだろう。あの夢と地続きになっているというのなら、こうなる可能性があるのも考えてはいた。だが実際に直面すると、覚悟などまるで意味を為さず、どうしようもなく恐ろしくなっている。さっきまでですら緊張感で心臓がどうにかなりそうだったのに加え、汗が止まらず、喉の渇きも加速する。辛うじて湿り気を帯びた舌で唾を貯め、飲み込む事でなんとか喉を濡らそうとするが、それこそ焼け石に水というものだろう。
『どれ……我自ら、直接触れてみるのも一興よな』
そう蓮頭様が口にした瞬間、周囲からどよめきの声が上がる。
呻くような声もあれば、「羨ましい」という声も聞こえてくる。あの村長も、恨めしそうな目で僕の方を見ては、「わしにもその恩寵を……」などと、蓮頭様を拝んでいる。
その言葉が聞こえたのか、蓮頭様は『おお、そうだ』と言葉を紡ぎ、村長の方へと向き直った。
『主、良くぞ斯様な面白き逸材を招いてくれたな』
その言葉を、村長は涙を流しながら噛み締めるように「へぇ、へぇ」と、幾度も頭を下げる。
『どれ、主にも褒美をくれてやろう』
そう言うなり、蓮頭様はその肉感溢れる袈裟を翻す。すると、袈裟の下から何か緑の煌くガスのような、あるいは靄のようなものが漏れ出た。
それが、まるで触手のようにうねりながら村長にゆったりと向かったかと思えば、彼の口や耳、眼、ありとあらゆる体内へ続く穴へと侵入していったのだ。
「ほ――ほぉぉぉぉ!!!!」
得体のしれない緑の靄をその身に受け入れた村長は、耳をつんざくような叫び声を上げた。しかし、悲鳴ではない。その顔は恍惚の笑みに溢れていたのだから。
靄を取り込み切った村長が、文字通り骨抜きにでもなったかのように崩れ落ちる。
そんな彼を見ていた周囲の連中は、笑顔の村長を見て羨むように「私も……私にも褒美を……」と平伏を始める。
はっきり言って、常軌を逸しているとしか思えない。同じ人間である筈なのに、何故こうも目に見えて違うのだろうか。『違う』という事がこれ程までに恐ろしいなどと、誰が想像したであろうか。
人知れず背筋を凍らせた僕は、その恐るべき光景に釘付けになってしまって気付かなかった。
蓮頭様が、僕の方へ向いたのを。
次の瞬間、辛うじて足元だけ視界に入っていた蓮頭様の姿が、一瞬にして掻き消えたかと思えば、鳥肌の立つ感覚と共に、視界を名状しがたい緑の光が埋め尽くした。
身構える暇など無かった。手に持った松明を振るう事も出来なかった。痺れるような気色の悪い感覚だけが、皮膚の下の神経網を伝い、全身くまなく這い回る。
そして、「身を委ねよ」という言葉が脳を埋め尽くそうとし――
『……! 貴様ァ!』
蓮頭様が声を荒げると同時に、あの身の毛もよだつような気配が消えた。
『何故……何故それを!』
その時、僕はようやく、自分が無意識の内に松明を持っていない左手を、己を庇うように振り上げていた事に気付いた。あまりにも必死過ぎて、今までまるで気づかなかったのだ。
その手に、ほんのりとした熱を感じ、僕は掌を見る。
そこに刻まれた星のような形の傷が、淡く光を放っていた。
******
「頼みっていうのは、なんてことはない。この後何が起こるか分からないから、ちょっとしたお守り……おまじない? まぁ、そういう感じのをさせてほしいって話さ」
「……これ? ああ。この木片で手に描くんだ。手を出してくれるかい? 少し痛いかもしれないけど……そんなに深くやらないよ」
「……よし。これで大丈夫、の筈だ。よっぽどヤバいのがいなければの話だけど」
「それから、これと同じものを僕の手に刻んでほしい。……ああ、言い忘れてた。とにかく祈りを込めながらやってほしいんだ。なんだっていい。この状況から脱したいとか、そういう感じのでいいんだ」
「なんでって? ……まぁ、懐疑的になるのもわかるよ。とにかく、ボクを信じてほしいとしか言いようがない」
「……やってくれるのかい? ……そうか。うん。そうだね。君ならそうするか。ありがとう、信じてくれて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます