その日の夜、僕達は最初の心霊スポットである廃病院に到着した。

 H県のとある山中にあるその建物は、高度経済成長期の日本にて、更に多くの患者を、という名目で改築に改築を重ね、大規模になった病院なのだという。

 だが、少なからず近代日本の歴史を学んでいるならば、その末路がどうなったかは手に取るように分かるだろう。

 結局、バブル崩壊の影響により入院を希望する患者は激減。

 馬鹿にならない入院費用を苦にした患者は次々と病院を去り、やがて職員も含め、誰もいなくなった。それが、一般的に知られているこの廃病院の絶頂から没落までの顛末だ。

 ……だが、ただの廃病院であれば、ネットで度々名前を見かけるような有名スポットにはなり得ない。

 サークル代表が集めたという情報によれば、件のバブル崩壊による没落の折、精神的に病んだこの病院の院長が、突如として凶行に走ったのだという。

 肝心の内容は語られた場所によって様々であり、「患者十三人を殺害した後、自殺した」というのもあれば、「十三人の患者を使って人体実験を行い、復興を図ったが失敗した」とするものもあった。「病院の職員十三人も院長に加担し、一緒に殺戮を行った」という話もある。

 まぁ、(この手の話ではよくありがちではあるのだが)どの説でもその後どうなったかというところまでは網羅されていないのだが、奇妙な事に一つ、共通点があった。それは、どの説においても『13』という数字が出てくる事。


「知っての通り、13という数字は不吉な数字の一つとして有名だ。主に西洋で、と頭につくけどね。これに関しては、何かしらの共通点を敢えて設ける事で、『この病院には少なくとも何かがあった』のを強調したい……というのが僕の考えだ」

「これが事実なのか、それとも話題性の為にあえてそうされているのかは分からんけどなぁ。なんにせよ、実際の現場を見てみりゃ、自ずと分かるだろ」


 教授達の口ぶりから察するに、今回の場所に纏わる噂はあまり信憑性がないらしい。

 その雰囲気がサークルのメンバーにも伝わったのか、「つっまんねぇの」だとか「でも、雰囲気はあるよね……」といった声が聞こえて来る。

 僕はと言えば、事の真偽以上に、夜も深まった山奥の廃病院というシチュエーションを前にして、緊張感からそれどころでは無かった。簡潔に言えば、雰囲気に呑まれていたのだ。お化け屋敷やホラー映画のようにドッキリを仕掛けられるような事はないかもしれないが、それでも「何か良くない事が起こるかもしれない」という不安が、無意識の内に身体を震わす。

 そしてSはどうかと横目でちらりと見てみれば……普段とさして変わらない様子のままで、思わず小声で「えっ」と漏らしてしまう。

 その声に気付いたのか、Sがこちらに視線を向けてきたので、僕は慌てて視線を逸らした。

 弁解させてもらうが、普通、こんな如何にもおどろおどろしい雰囲気の場所に来たなら、普通は怖がるか、怖くないと強がるか、場違いに無理に明るく振舞おうとするかのどれかだと思う。海外の映画だとそんな場所に来てもやたら陽気な若者がいたりするが、あれだってきっと強がっているだけに違いない。

 しかし、彼女は見るからに違うのだ。それがハッキリとしたのは、建物の内部に侵入した後の事だった。

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