始
あれは、大学に入って初めての夏休暇の事だった。
「ねぇねぇ。夏休みの……この辺りって、空いてる?」
唐突にそんな事をSに訊かれ、予定を確認する。その頃はまだアルバイトを始めて無かった頃で、大した用事もなかったから、彼女の誘いに乗るだけの余裕があったのだ。
なんでも、彼女が入ったオカルト系のサークルが、三泊四日の合宿的なものを行うらしかった。ネットのオカルト界隈で有名な所であったり、雑誌や書籍での記述があったりする心霊スポットを巡るという内容だ。
が、どうやらその向かう先である心霊スポットが曰く付きの場所ばかりで、同じサークルのメンバーでも何かしらの理由をつけて断る者が多数になってしまい、あまりにも人数が少ないだとかで先輩に誘うよう言われたのだとか。
詳しくはよく覚えていないが、人が集まらないとどうしても困ってしまう理由があったのは聞いた、気がする。
何故僕が、と思ったのだが、どうも授業が始まる前だとかに、僕がオカルト系の本を読んだりしていたのがバレていたらしい。いや、隠してはいなかったのだが。
実のところ、僕自身もオカルトサークルには興味があったのだ。昔からオカルトやホラーの類は好きだったから。
UMAや宇宙人といった不可思議な存在、吸血鬼や狼男といった古典的な怪物の逸話、都市伝説、エトセトラ。
しかし、二つの理由から僕はオカルトサークルから距離を置き、大学に行っては帰るという日々を送っていたのだ。
一つは、単純に自分が遠方の実家から通っていた為に、サークル活動に加わる余裕が無かった事。
もう一つは、オカルトやホラーが好きであっても、そういう現場に赴けるだけの勇気が僕には無かった事だ。
昔からそうだ。本やネットでオカルト話やホラー映画の設定やネタバレを見て楽しめるだけの感性こそあれど、実際にホラー映画を見たりお化け屋敷に行ったりするとなると、どうしても足踏みしてしまう。
何度か挑戦しては見たが、映画はいつドッキリな展開が来るか身構えすぎて映画をロクに楽しめず、お化け屋敷も入ろうとすると喉が急激に乾き、気分が悪くなってしまう。精々小説や漫画までが関の山だ。
そんな訳で、最初は僕も、他の誘われた人と同じように断ろうと考えた。
だが……Sの目を見ていると、何故か断れなかった。
その時の僕が何を思ったかは分からない。ひょっとすると、「彼女の事をもっと知りたい」という純粋な好奇心からかもしれないし、「もっと彼女とお近づきになりたい」なんて下心見え見えな理由だったかもしれない。いずれにせよ、僕にとってのSは、非常に気になる存在だったのだ。
だから、僕はそのお誘いに二つ返事で了承した。してしまった。
その時のSの、あのふんわりとした笑みは今でも忘れられない。
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