S

 それからというものの、彼女――仮にSとしよう――と、授業の時やその前後にて話す機会が度々あった。

 といっても、何か特別な事を話したわけではない。ただ、次の授業がどんな内容か、課題がちゃんとできたか、テストが不安だとか、そんな誰でもするような会話だ。

 しかし、そんな中であっても変だと思う事はあった。

 Sが美人だから、不特定多数の人間が周囲に集まってくる……なんて、そんな陳腐で使い古されたラブコメのヒロインにありがちな、定番の展開があったという訳ではない。

 寧ろ逆だ。逆だから、変なのだ。

 彼女が美人なのは疑いようのない事実だし、僕からすれば彼女には不思議な魅力があったのは確かだ。多少笑ったり困ったりといった表情を見せるが、しかし基本的にはほぼ自然体で、話をしているとまるで自分が牧場でのんびりしているような錯覚すら覚える程にのどかだ。多分だが、即効性ではなく遅効性の魅力なのだと思う。一緒にいる時間が増えれば増える程、その魅力がどんどん分かってくるといった感じの。

 ショートヘアー気味で艶やかな金髪に、日本人離れした端正な顔立ち。スタイルもいい。容姿の時点で人の目を惹く事間違いなしだろうに、誰もそこに指摘しないのだ。

 後から聞いた事だが、どうやら彼女、両親ともに日本人で、ついでに言えばその家系に外国人の血が混ざってるという事も無い、純日本人なのだとか。

 だというのに、僕の目から見た彼女は、明らかに外国の美女か何かのようにしか見えないのだ。


 最初は、それはもう自分の頭がどうにかなってしまったのではないかとも思った。

 何と言えばいいのか分からないが、会えば会う程、彼女が段々と遠い国の美女か何かとしか思えなくなり、加えてその独特の雰囲気も相まって、しまいには顔が熱くなる感覚まで覚えたのだ。

 しかしあの頃は、それで浮かれるというのが自分としても「らしくない」と思ったが故に、その考えをなんとか跳ね除けようとしたものだった。

 僕自身、努めて平然と振舞おうとしてはいたが、周りからは、それはもう浮かれて見えたのかもしれない。

 が、僕が思い出せる限りでは、少なくとも出会って数か月程度は、本当に何も無かった。ただ、普通の知り合いか友人みたいに話をするぐらいで。


 だから……彼女にとんでもない秘密があるなんて、その時はまるで考えもしなかったし、考えようとすら思わなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る